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【問いフェス】第0回:問いクルーズ 屋形船編

問いフェス vol.0 問いクルーズの思い出

10月某日の東京で行われた、季節外れの納涼祭「問いフェス」。夜の川辺に浮かぶピンク色にぼんやりと光る水玉模様(!)の屋形船に、一人、また一人と乗り込んでいく人々。それぞれの心に秘めた「問い」と「概念」を乗せて、2時間半の船旅が始まります。

この「問いクルーズ」では、11名の発表者が問いと概念を発表しました。乗船した人々は、それらの発表に耳を傾けながら、美味しい料理 — お刺身や揚げたての天ぷら — に舌鼓を打ち、語らい、やがて旅が終わる頃には、新たな問いと概念を見つけ、帰路についてゆきました。今回はその幻のようなひとときの様子をダイジェストでお届けします。

問いフェスとは?


問いフェス:問いと概念のフェスティバル


「哲学研究以外の場で、問いや概念について話し合う場所はないのだろうか?」

日々の生活や仕事の中で、ホットな問いや気になる概念がたくさん生まれてくるけれど、それらを論文にして学会発表のようなアカデミックな場で発表するのはちょっとハードルが高い……。哲学の研究者だけでなく、デザイン、編集、科学など、様々な分野の人が集まって、実はこっそり温めている問いや概念についてカジュアルに発表し合う機会があったら面白いのでは?と「問いフェス」の企画が立ち上がりました。

まずは第0回として実験的に、身近にいる問いや概念が好きそうな人々に声をかけ、良い船出を祈念して、景気良く屋形船を借り切ることに。「本当に人が集まるだろうか?」と不安になることもありましたが、好奇心旺盛な皆様のおかげで、無事に開催することができました。いざ出航です。

当日の発表(発表者と発表タイトル)

瀬尾浩二郎:「問いフェスの問い」(オープニング) 問い
VC :「ホモ・なんとかス」概念
田代伶奈 :「抵抗としての哲学」 問い
石塚理華 :「クリエイティブデモクラシー」 概念
曽我浩太郎 :「多宅満足度」 概念
Edward Masui :「(可能だとして…)多元世界はどう図式化すれば良いのか?」 問い
廣畑達也 :「ある事象に対して人が『きれいごと』だと感じるのはなぜか?」 問い
秋山福生 :「概念デザイン」 概念
今井祐里 : 「エンプティー概念」 概念
上平崇仁 :「相依相関するデザイン」概念
難波優輝 :「自己はいくつあるのか?」 問い

問いと概念のプレゼンテーション

瀬尾さん(newQ)「問いフェスの問い」 【問い】

オープニングとして、newQ代表の瀬尾さんが「問いフェスの問い」を発表しました。

問いフェスは「哲学研究以外の場で、問いや概念について話し合う場所はないのだろうか?」という問いから始まったのですが、その問いをもう一つ押し進めたところに「半熟の問いや概念、思考にもっと力があるのでは?」という問いが浮かび上がったとのこと。

まだ考えている途中のことだからこそ、人と共有できたり、発展していく余地がある。半熟ならではの可能性、越境性を逆に力のある状態と見立てて、問いフェスのような場で共有することの意義を語りました(半熟という言葉は『ニューQ エレガンス号』でインタビューをおこなった清水淳子さんの表現を借りたとのこと)。

果たして、この「問いフェス」で半熟の問いや概念はどのような発展をしていくのでしょうか。乾杯をしたところで、本編に続きます。

カオスな乾杯でスタートです

VCさん「ホモ・なんとかス」 【概念】

続く問いフェスの本編、一発目の発表はVCさんの「ホモ・なんとかス」からスタート。

ロボット研究者であるVCさんは「ロボットが仕事を代替して人間が働かなくなることは幸せなのだろうか?」という問いを、ロボット研究というご自身の仕事に絡めて提示されました。まず、遊ぶ人、という意味のホモ・ルーデンス(Homo ludens)から、移動する人という意味のホモ・モビリタス(Homo mobilitas)、あらゆるものに意味を見出す人という意味のホモ・シグニフィカンス(Homo significans)などを紹介。
新たな「ホモ・なんとかス」を考えてみることを通して、人が働く必要のなくなった世界での人間の幸せとは何かを問いかけました。

発表者はQ半被を着て雰囲気を出しています

田代さん「抵抗としての哲学」  【問い】

田代さんはこれまでの仕事の経験から、「民主主義と政治の危機に、哲学に何ができるのか?哲学はどうあるべきか?どうあってほしいのか?」という問いを考え続けていると言います。

この問いに対して、田代さんは「抵抗としての哲学:哲学は世界を諦めない社会的な営み・運動である」という一つの答えを提示しました。
さらに、このアイデアを発想するに至った高桑和巳著『哲学で抵抗する』を紹介。勇気をもらえる発表でした。

小さすぎてほぼ見えないスライドもご愛嬌です

石塚さん「クリエイティブデモクラシー」 【概念】

石塚さんは、一人ひとりの内発性の発露としての「プロジェクト」が、行政や企業、共同体といった社会的な組織や専門家のデザイナーと手を取り合うことで社会に拡がっていくという「選挙や制度にとどまらない、民主的な社会環境」の実現を、「クリエイティブデモクラシー」という概念で提案しました。
公共を再編することで、個人のもやもやや問いを政治や社会のシステム、企業の営みに接続できれば、行政・企業は自立分散型のイネイブラーに、住民は消費者ではなく地域社会の担い手へと変化していくと言います。

石塚さんが共同代表を務めている一般社団法人 公共とデザイン初の書籍『クリエイティブデモクラシー』も発売間近!拝読するのが楽しみです。

本の発売がとっても楽しみです

曽我さん「多宅満足度」 【概念】

コロナ禍真っ只中、曽我さんが共同代表を務める未来予報株式会社では、2021年の未来予報として「多宅(Extended Home)」という現象の到来を予報しました。たくさんの別荘を持つという意味ではなく、家のような居場所が近所にたくさんあるという状態。人々の生活にとって重要なのは部屋の間取りではなく、街全体の間取りになっていくという予報です。街に100軒の定食屋があれば100K(キッチン)に、10個の公園があれば10L(リビング)になる。一つの家に簡潔した3LDKより、自宅を街に拡張して10L100DKの方が豊かかもしれません。

「多宅」という現象に対して「多宅満足度」という概念を提案することで、全く新しい「住みたいまちランキング」が生まれるのではないかと曽我さんは語ります。自宅の間取りを選ぶように街を眺めてみることで、意外な街の意外な魅力を発見し、屋形船は大いに盛り上がりました。

半被が似合っていると嬉しくなります(前日に買った甲斐があります)

エディーさん「(可能だとして…)多元世界はどう図式化すれば良いのか?」 【問い】

エディーさんは、アルトゥーロ・エスコバルの『Designs for the Pluriverse』で提示される「多元世界(Pluriverse)」という概念について、図式化されていないためにイメージを共有しづらく、コミュニケーションがしづらいという悩みがあるそう。せっかくなので問いフェス参加者から意見がほしい!ということで、多元世界を図式化するいくつかのアイデアを発表してくれました。

屋形船には『Designs for the Pluriverse』を読んでいる人もたくさん乗っていたため、エディーさんが用意した6つの図式化案を見ながら「自分はこれでイメージしていた!」とか「これは考えたこともなかった…」と盛り上がりました。また本を読んでいなくても、One World World(OWW) (= Universe)に対比されるPluriverseという概念について、図式化の試みからイメージを喚起することもできました。同じ概念を使っていても理解は一様ではないこと、そして図式化を通してそれぞれのイメージを交流させ、概念の輪郭を明らかにしていけるということを発見できる発表でした。

電気店で大安売りをしている店員さんみたいと一盛り上がりしました

廣畑さん「ある事象に対して人が『きれいごと』だと感じるのはなぜか?」【問い】

ソーシャルイノベーションに詳しい編集者である廣畑さん。駆け出し時代に社会起業家という存在に出会い、事業の中で経済性と社会性を両立させるあり方に感銘を受けたと言います。以来12年以上にわたってソーシャルイノベーションの取材を続けている中で、絶対に言われるのが「いいことしてますね」という台詞。しかしこの台詞を紐解いていくと、「でも、それってきれいごとですよね」という含みがあるようなのです。

「ある事象に対して人が『きれいごと』だと感じるのはなぜか?」という問いは、廣畑さんにとっては10年来の付き合いだそう。「きれいごと」という言葉が持っている批判性とは何なのか。なぜ「きれいごと」を人は嫌うのか。「きれいごと」の一体何がいけないのか。素朴ながら、誰にとっても多少なりとも心当たりのある実存的な問いかけに、屋形船の雰囲気もピリリと引き締まったのでした。

本当にお悩みの様子に、乗船客もみな親身に問いを投げ掛けます

秋山さん「概念デザイン」  【概念】

秋山さんは「概念も人工物であり、デザインの対象である」として、「概念デザイン」という概念について発表しました。
機能不全を起こす悪さをしている概念の調査にはじまり、概念分析、概念アイディエーション、そして概念プロトタイピングを行なっていく一連の概念デザインプロセスについて、新しいデザイン方法の構想を紹介。

想像し、創造できることがデザインが可能であることの条件であると言う秋山さんは、概念もまたデザインが可能な対象であるという実感を持つことができるように、概念に手触り感を持たせるさまざまなアプローチを考えています。秋学期には担当する授業で概念デザインを扱うということで、これからの発展がとても楽しみです!

発表者は熱々のすき焼きを横目に、前へ出て行かなくてはなりません

今井さん「エンプティー概念」【概念】

「控えめに言って最高」と人が言うとき、本当に「最高」だと思っているのでしょうか?「社会って地獄だよね」と私たちが言って互いに共感し合うとき、その「地獄」ってどんな地獄なのでしょうか?newQチームからエントリーした今井さんは「私たちは言葉の奴隷になっていないだろうか?」と問いかけます。

中身の伴わない、よく考えもせずに使われた言葉は内実が空洞化した「エンプティー概念」であり、誇張表現や流行りの定型句が散乱しているインターネット上では、言葉を使うことに倫理を持たなければ正気が失われてしまうと問題提起。エディーさんの図式化の話とも繋がる発表でした。

上平さん「相依相関するデザインとは?」【問い】

上平さんは「デザイン」という概念に取って代わる、新しい概念を考えようと問題提起しました。

人間はさまざまなものをデザインし、作り出していますが、一方で作り出したものの側から、人間の振る舞いや文化がデザインし返されていると上平さんは言います。人はデザインし、デザインしたものによって人もまたデザインされる。この相依相関の全体を捉えられるような概念とは何か?例えば「工夫」という概念が元は仏教用語であるように、仏教的世界観からインスピレーションを得ることができるかもしれないと提案。参加者一同、概念工学に花を咲かせました。

屋形船はお台場の夜景を満喫するために停泊中。発表もそろそろ終盤です

難波さん「自己はいくつあるのか?」【問い】

newQチームからエントリーした難波さんは、4つの「自己」を紹介し、「自己はいくつあるのか?」と問いかけます。

物語的自己:なんでも物語にしてしまう。「動機は?」「意味は?」「つながりは?」
ゲーム的自己:なんでもゲームにしてしまう。「どっちが強い?」「いま効率的?」
おもちゃ的自己:なんでもおもちゃにしてしまう。「どんな反応する?」「どう遊ぼう?」
ギャンブル的自己:なんでもギャンブルにしてしまう。「どこまで賭けられる?」「何が起こる?」

『人間の4つの実存方略――物語的自己、ゲーム的自己、おもちゃ的自己、ギャンブル的自己』https://lichtung.hatenablog.com/entry/2023/08/21/004929

この4つの自己で人々の気質や生き方を分析できるのではないか、と難波さんは言います。もちろん、それぞれの性質が100%その人の自己を占めているわけではなく、4つの自己の配分が人によって変わってくるでしょう。
あなたはどの自己が一番大きい影響を持っていると思いますか?(詳しい発表はこちらの文章もご覧ください)

終わりに

問いと概念のフェスティバル、略して「問いフェス」第0回のレポートをお届けしました。参加者の皆様、改めましてお疲れ様でした!
第0回がとても楽しかったので、そのうち第1回の開催ができたらと考えています。また、現在開催予定の「問い鍋」や「概念の忘年会」についても、またnoteでレポートしていきます。

次回はよりオープンに、多くの方が参加しやすい形での開催を検討したいと思います……例えば、温泉とか?卓球大会したいですね。

デッキから見えた他の屋形船は、ピンク色でも水玉模様でもありませんでした

newQは、問いや概念にまつわるリサーチ、ワークショップの設計、サービス設計、UI / UXのデザインなどが得意です。お仕事のご相談はお気軽にお問い合わせください!

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