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リレー小説 No.12 『再会、飛翔』

みなさまこんにちは。Team:Clutchのかめです。

リレー小説記事担当となりましたので、物語本文に少々振り返りなどを併せて投稿させていただきます。

ご興味ある方はぜひぜひ読んでいただければと。

一点注意となりますが、このナンバリングから読むと話が唐突すぎるかと思います。というのも、今回はリレー小説初となる続編となりました。

前編は上記の記事で紹介していますので、そちらを先に読んでいただけると登場人物たちの事がわかるかと思います。

本文

執筆時期: 2021/4/31 ~ 2021/5/25

家族のことを思い出し、ようやく心が落ち着いてきた。
それを見越したかのように、声がした。
「さぁ、ご注文を伺いましょう!」とガラク。
「ここは魔法工房!」とラクタ。
家族に会いたいものの、どんな顔をして帰っていけばいいか・・・。それに距離があるし、私のスケジュール的にすぐには無理だった。
「私達は技術者!」とガラク。
「その気になれば、汽車だって、空の上を走ります!」とラクタ。
それなら...と控えめに自分の望みを口から唱える。
「「その願い承ります!」」
そうして二人の子供は私の視界から消え去った。
周りを見渡してもあの道化師のような子供の姿はどこにも見つけられない。
意味もわからずただただ立ちすくんでいると今度は頭の中に声が鳴り響く。
「さあさ、そのまま歩き出して」
「あなたの願いが叶う瞬間はもうすぐ!」
声が聞こえるままに私は足を踏み出した。
地を離れるつま先と、地につくかかと。
一連の足運びがなめらかにつながる。一歩、ニ歩、三歩。
母の手で何度も繕われた簡素な布靴から、ちょっとの傷で捨てられる高級革靴まで。
私の歴史が破片と散らばり、畳み込まれて一つに重なる。万華鏡のようなものだ。
歩数を重ねる。私が歩んだ道が重なる。一歩、ニ歩、三歩。
ふと、随分と背の低くなった私は、海と黄昏ではなく、己の靴を見ていた。
ツギハギの布靴。右手に感じた体温を見上げると、父の顔がそこにある。
父に気付き、そのまま握っている父の手を自分の顔に擦り付けた。微笑んだ顔が上から見つめている。ゴツゴツの手が何処となく好きだったこと、靴のツギハギが増えるたびに思い出が増えていた事に気づいた。
「父さん、ごめんなさい。母さん、ありがとう。」
ようやく伝えるべき言葉を言えた。心が無くなったような気がした。
自然と涙がこぼれた。目を閉じ深呼吸を数度繰り返す。
もう一度父の顔を見ようとまぶたをあけるとそこにはもう父の姿はなかった。
かすかに頬に残るぬくもりが意識をかろうじて繋ぎとめてくれた。
でも、もうここに意識を残す必要はない。願いは確かに叶ったのだから。
思い残すことも...もうない。
私は笑みを浮かべて駆けだし道の終わりで地面を蹴って空中へと飛び立った。
そして、だんだんと意識は薄れ身体も黄昏の中に溶けていった。

振り返り

思いがけず連編となった今回の小説。せっかくなので前編込で軽く振り返ることとします。

全体を通して、

『貧困に喘ぐ幼少時の苦しみを、家族との繋がりごと捨てることで成り上がった人が、ガラクタ兄弟の道具を通して蓋をしていた自身の罪悪感や諦めていた幸せの別の形と折り合いをつけるお話』

といった感じになりました。

前編での書き出しに会話(というか売り文句?)を持ってきたことで、音として心地よい文章でスタートを切れたのは良かったかなと思っています。

逆に後編でせっかく出来ていた今までの小説とは違う印象を、いつもの印象に戻してしまう節を書いたのも自分だったのでその点は反省です。あと全然、後編の書き出しで提示された情報を噛み砕いて使いこなせなかったという。

我々の書く小説の主人公は、答えを自分の内側に求める内向的な人物として書かれてしまう傾向が強いので、次回以降はその傾向から外れた人物像についても深ぼっていきたいですね。

以上となります。

では次のリレー小説もお楽しみに。


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