若手教員にぜひやってほしい

自由進度学習が近年教育界でトレンドになっていますね。
しかし、かなり高度な実践であり、1970年代後期から80年代の個性化教育において一時期流行の兆しを見せたものの、結局広まらずに現在に至っているということを忘れてはいけません。
簡単ではないし、教員に非常な努力が必要な実践方法なのです。

自由進度学習とは別に、私が以前から若手教員に、ぜひ取り組んでほしいなと思っている授業手法があります。今日はそれを紹介します。

「教えて考えさせる授業」です。

東京大学大学院名誉教授の市川伸一先生が提唱している授業手法です。
認知心理学の考え方を取り入れた習得のための授業手法です。


「教えて考えさせる授業」の中身

「教えて考えさせる授業」は4つの段階で授業を進めます。
まず「教師の説明」で、その時間に習得するべき内容の基本的な部分を教えてしまいます。
次に「理解確認」で、教師から教えられた内容を子供が言語化、表現します。
そして「理解深化」で、教えられた内容を使ってグループで少し難しい応用問題や発展的な問題に取り組みます。
最後に「自己評価」を行い、本時の自分の学びを振り返ります。

この4段階の流れの中に、インプット、アウトプット、メタ認知といった認知心理学的な、学習内容を身に付ける工夫が詰まっています。

「教えて考えさせる授業」登場の背景

「教えて考えさせる授業」が登場したのは2000年代初頭で、当時の学力低下論争からの学力向上を目指す動きの中でのことでした。
そう聞くと、学力向上を目的とした、子供のことを考えないような手法なのでは、と思われるかもしれませんが、実際はとても子供に寄り添った手法なのです。
それというのも「教えて考えさせる授業」は当時、研究の一環として市川先生が取り組んでいた学習相談室で、勉強が分からなくて苦しんでいる子供と関わる中で考案されたからです。
教える中ですべての子供を学習のステージに上げ、考えさせる中でただ「できる」以上の深い理解を目指すという点で、学力低位層の子供をすくい上げ、学力上位層もより学習を深められるという、すべての学力層の子供たちに効かせることができる手法といえます。

小学校の教科学習に向いている「教えて考えさせる授業」

「教えて考えさせる授業」は、習得のための授業手法と冒頭で書きました。
「え、今大切にされているのは『探究的な学び』じゃないの?」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、小学校の教科学習の多くは、習得するものです。
習得した学力があってこそ、探究に取り組むことができます。そして探究の中で、基礎基本の習得に戻っていきます。
若手教員にはまず、基本である習得学習を指導する力をつけてもらいたいと思います。

若手教員が取り組むことの良さ

「教えて考えさせる授業」に取り組むことは、若手教員にとって、授業力を向上させる効果が非常に大きいと考えます。
授業の設計上、「何を子供たちに教えるか」を深く考えることになるので、必然的に深い教材理解のための教材研究を促すことになります。
また、理解深化課題に十分な時間をかけて取り組むためには、教師の説明は短くする必要があります。短い時間で効果的な説明ができるように努力することで、子供に説明する力、提案する力が養われます。
また、短い時間で教え、その後にグループで理解深化課題に取り組むことになるので、子供には授業中の態度取り組み方の切り替えを促すことになります。教師の説明の時はきちんと聞く、グループで取り組むときはしっかり意見を言い合い、考えるという活動を繰り返すことで、子供たちに自然と学習マナーが身に付けられることが期待できます。

なにより良いことは、「教えて考えさせる授業」はたとえ失敗して思うような授業にならなくても、傷が浅く済み、教師の成長につながることが多いと思われることです。
教える部分で最低限必要な内容は提示するので、その質はどうあれ、確実に指導されます。
そして授業の出来について、「説明の仕方はどうだったか」「時間配分はどうだったか」「理解深化課題は妥当だったか」など、教員が振り返る視点が明確で新しい課題を見出しやすいです。

最近注目されていないようで寂しい「教えて考えさせる授業」

最近は「教えて考えさせる授業」が取り上げられることが少ないという体感です。
学力低下論争の中で出てきたということ、「教えて考えさせる」という教師主導感が強い名前であるということが、「ウェルビーイング、子供中心」という最近のトレンドに合わないように受け取られてしまうのが原因ではないかと思います。
でも、実力のある先生が行う「教えて考えさせる授業」は、子供の満足度が高く、とても主体的に取り組む姿が見られるものです。
決して今の時代に合わない手法ではなく、むしろ若手教員が増えている今こそ、スポットライトが当たってほしい指導法だと私は考えています。


若者よ!3年やってみて!

「教えて考えさせる授業」も、利点はたくさんありますが、決してその方法をなぞればうまくいくというものではありません。
その真価を発揮できるように活用するにはそれなりの教師の努力や成長が必要です。簡単ではありません。3年は実践を積み重ねてほしいと思います。
でも、「教えて考えさせる授業」の考え方が理解でき、手法として十分に扱えるようになれば、絶対に自由進度学習や、そのほか最近トレンドの指導法を扱う力も伸びていきます。
自分の指導力に悩みがある若手教員は、自由進度学習などに飛びつく前に、ぜひ、やってみてほしいなと思います。

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