
孤独と分断を乗り越える優しいヒント
(第二、第四水曜日20時~開催されている「島田啓介さんの寺子屋:『ティク・ナット・ハンの般若心経』を読む」第6回目の開催レポートです。山田直さんが寄稿してくださいました。)
マインドフルネス・ビレッジ村長、島田 啓介さんの寺子屋。
毎回「ティク・ナット・ハンの般若心経」を読み進めています。
孤独が強い社会でつながりを感じるには
今回は第二章「何が空っぽなのか?ー空」に入ったのですが、その中で出てきた参加者から出てきたシェアがとても印象的でした。それは、
「ティク・ナット・ハンがこの本のように語りかけた人達は、時代的に孤独感を強く感じていた人が多かったのではないのか?」というものでした。
それは具体的には、ティク・ナット・ハン師が講話を行っていたアメリカやヨーロッパなどの人々のことを指し示す。
「人は人、自分は自分」といった西洋の近代化・個人主義によって人と人とが切り離され、強い孤独を持つ社会において、般若心経の中で強く言っている「つながり」というものを伝えるのは容易ではない。そんな仏教的な下地がない人々が多かったから、ティク・ナット・ハン師はよりわかりやすくこの本を書き直し、また伝わりやすい言葉で人々に語りかけていたのではないかということ。
それに対し、今回も参加していただいた翻訳者の馬籠 久美子さんは、
「アメリカでは、自分は他人から切り離されているという思いーそれが当たり前と感じている人が多い」と言われました。それは例えば、
『自分の親は知っているけれども、その前の世代はどこの国から来たのかも知らない』
『誰が自分の血と繋がっているかまったく知らない』など。
そんなルーツ、先祖とのつながりが分断されている人々の中では、個人主義が発達している裏側で「自分」という意識が病的に膨れ上がり、苦しんでいるそうです。
それはキリスト教の顕在意識(人間には理性と自由意志が神により与えられていて、その結果に対して人は全責任を負うというもの)も大きく関係し、
「私がいけない。この私がいけないんだ。」と自分を責める人々が、多く存在している。その思いにがんじがらめに絡まっている。
そして馬籠さんは、ティク・ナット・ハン師の有名な講話を紹介してくれました。
ある女性が「私は本当に駄目です。他の人が許しても私は私を許せません。こんなひどい私を、私はどうやったら許すことができるでしょうか?」
と泣きながら、ガタガタと震えながら、絞り出すようにそういう質問をした。するとティク・ナット・ハン師は、
「でも、そんな私っていう私、無いんですけどね。。」と答える。
するとしばらくしてから、後ろの方でそれを聞いていた人達が、「クスクス」と笑い出した。そしたら、その女性も何となくつられて「クス」っと笑ってしまった。そんなエピソードです。
自笑とは、自分を対象化して観て、そんな自分に起こっていることに客観的に気づき、その中に可笑しみを感じて起こる現象。つまりこの女性は、私、私と言っている自分から離れ、その私ではないところに自分を解放したのでしょう。そしてその私の緊張から解き放たれて、ゆるみ、笑った。
このエピソードの解釈は賛否両論いろいろあるでしょうが、そんな真面目で、がんじがらめに陥っている人達が読んでも楽なように、ティク・ナット・ハン師がこの般若心経の本を作っていったのは確かなようです。

「実体がない」とは
最後に島田 啓介さんが、般若心経の中では、無いとされる「実体」についての質問に答えていました。
他と関係なく私というものは単独では存在できない。「これが私です」と単独で指し示すことができる私はいない。それが実体が無いということ。インタービーイング。だけれども、私がやることで生まれる縁に対しては、答えていく責任(responsibility)がある。すべてが繋がっているからこそ、私がやったこと、思ったことが世界に影響を与えるからだ。
それがごっちゃになると危うくなる。「実体が無いんだから何だっていい」といった無責任な思いを持ってしまうかもしれない。そのバランスが大事だと。特にこの今の時代に平和を築いていくためには。
個人の抱える孤独。そして、コロナ禍や戦争による他者や社会との分断の苦しみを乗り越えて繋がっていくための優しいヒントが、この般若心経の本には隠されているようです。

ヨガ講師