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人口知能がどれだけ進化しても生徒との信頼関係をつくるのは教師にしかできない

今年(2021年)の1月に中央教育審議会において「令和の日本型教育の構築を目指して」と題した答申が出されました。令和という新しい時代における初等中等教育の在り方が提言されていて、小学校専科指導の導入や高校の普通化改革など、多様な児童生徒が誰一人として取り残されないために、学校、教育委員会、文部科学省、地域社会などの関係機関が一体となって進むべき方向性が示されています。

近年、クラウド技術や人工知能(AI)技術の発達により、自動採点だけでなく生徒の習熟度に合わせて問題を出題するオンラインドリルの開発・普及のスピードは凄まじく、コロナ禍での臨時休校の影響も相まって一気に学校現場に浸透してきています。
上記の中教審答申においても「補充的・発展的な学習を行う際には、例えば知識及び技能の習得に当たって、ICT を活用したドリル学習等を組み合わせていくことも考えられる」と明記されています。

児童生徒一人一人の学習理解度や定着度の幅が大きい義務教育において、教師が準備するプリントや紙のドリルだけでは、きめ細かに対応することには限界があります。基礎的な問題に取り組んだ方が良い児童生徒もいれば、応用問題や予習的な問題に取り組んだ方が良い児童生徒もいますが、教師がいくら頑張っても準備できる問題の種類には限りがある中で、その壁を技術革新で超えることができるのであれば、児童生徒にとっても教師にとってもプラスです。

それでも、教育関係者の中にAIドリルなどの導入に抵抗を感じる人が少なからずいるのは、人工知能を搭載したオンラインドリルが、これまで日本の学校教育が大切にしてきたものを蔑ろにしてしまうのではないかと感じるからではないかと分析しています。
だからこそ、中教審の答申でも、「ICT の活用に当たっては、教育効果を考えながら活用することが重要であり、ICTを活用すること自体が目的化しないようにするとともに、例えば旧来型の学習観に基づく機械的なドリル学習等に偏った ICT の活用に陥らないように注意する必要がある。また、空間や時間を共有することで得られるものが失われる危険もあるため、その活用方法については、教師と児童生徒との具体的関係の中でしっかりと見極めることが必要である」との留意点も付されるなど、活用については慎重な表現になっています。

私自身は、学校現場でオンラインドリルを始めとするICT技術を活用することに前向きです。何も、授業のすべてをオンラインドリルに置き換えるべきと言っているのではなく、これまでも授業や朝学習、家庭学習など様々な場面で紙のドリル(小学生で今も使っている縦長のドリル)を使っているので、その部分をデジタルに置き換えるだけでも、効果的・効率的だと考えているからです。

そして、楽観的と言われるかもしれませんが、私は、どんなに便利な機能がオンラインドリルなどのICTにあっても、それだけに依存して授業の質を下げたり、児童生徒に悪影響が出るのを看過する教師はいないと確信しているからです。以前の投稿でも書きましたが、教師はテクノロジーの分野に対しては専門家ではありませんが、児童生徒の変化を看取るのはプロですので、オンラインドリルを積極的に活用して生じる課題の部分についても、現場で十分に対応できると思います。

加えて、私がオンラインドリルの活用に前向きな理由がタイトルにある「人口知能がどれだけ進化しても生徒との信頼関係をつくるのは教師にしかできない」という言葉です。
このタイトルの言葉は「Qubena」というAI機能付きのオンラインドリルを提供している株式会社COMPASSの代表取締役であり、令和の日本型教育の構築の答申を取りまとめたときの中教審委員でもある神野元基氏の言葉です。

神野氏とは、中教審答申の取りまとめに向けて、何度もお話をする機会がありました。オンラインドリルの可能性について議論する中で、逆にオンラインドリル・AIドリルではできないことを尋ねたとき、神野氏は「人口知能がどれだけ進化しても生徒との信頼関係をつくるのは教師にしかできない。児童生徒がタブレットに向き合って学ぼうとする、その意欲を引き出すのはあくまで人間である教師であり、人間と見分けのつかない完璧なアンドロイドでも開発されないかぎり、児童生徒との人間関係を築いていくことは人口知能には決してできない」と語ってくれました。

私は、この言葉を聞いて、AI機能を持つオンラインドリルはこれまでの日本の学校教育が大切にしてきた児童生徒と教師との人間関係を土台として作られている道具の一つであり、それを否定するものではないと腹にストンと落ちました。そして、そうであるならば、安心して積極的に使っても良いのではないかと思うようになったのです。

児童生徒との信頼関係を築くことができるのは教師しかいない、それを見失わずに常に中心に置いていれば、オンラインドリルなどの技術革新の導入に躊躇う必要はないと思っています。
現在、岩手県でも高校や市町村にオンラインドリルの導入を始めとするICT教育の導入が進んでいます。すべての子ども達にイノベーションによる学びを届けたい、それこそがGIGAスクール構想(Global and Innovation Gateway for ALL)が掲げる理念です。

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