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リンゴ箱に紙をはった勉強机でいいから勉強できる環境を

岩手県が1960年代から始めている教育振興運動についてご紹介させていただきます。
当時の岩手県は、厳しい経済状況等を背景として、学力に大きな課題を抱えていました。
全国学力調査の平均点も他県と比べて低く、1966年の全国学力調査(小学校5年生・数学)の結果を見ると、全国平均が39.5に対して、県平均は31.5、岩手県僻地校では26.5となっています。〔出典:『北上山地に生きる』河北新報盛岡支社編集部〕

ちなみに、岩手県二戸市の鳩岡教育長に紹介してもらったこの『北上山地に生きる』という本は、その当時の生活環境や子ども達の様子が丁寧に綴られていてとても勉強になります。
今から50年前の岩手県は、厳しい経済状況のため、父親は年の大半を都会に出稼ぎに行き、母親が一人で田んぼと牛の世話に追われる中で、子どもに手をかけてあげることも、会話も十分にできず、読み・書き・計算だけでなく、そもそもの学力のベースとなる部分を満足に身に付けさせることのできない地域が多くあったようです。
本著では「クレヨンもライオンも知らず一人黙々と土いじりをする子、貧しく忙しい親たちと語り合ったこともなく、学校で口を閉ざしたままの子ー北上山地に数知れないこの子たちに出会った時、国や県の偉い人たちはなんと語りかけるのか」と、厳しい現状を訴えています。

そんな本県で始まったのが「教育振興運動」と呼ばれるもので、子どもの教育に対して、学校と保護者、子ども自身に加え、地域社会と行政が責任(Responsibility)を持たなければならないという意味の「5R」運動を展開していきます。
この運動は、元岩手県知事で文部政務次官も歴任された工藤巌氏が県教委時代に中心となって取り組んだ運動であり、今でも岩手県の教育に深く根付いています。

そのエピソードの一つとして、子供たちに勉強机を買ってあげられないのなら、せめてリンゴ箱に紙をはった勉強机でいいから、勉強できる環境を作ってあげよう、という声かけを始めます。
この言葉からは、どんなに厳しい状況であっても、学校と家庭、地域、行政が一体となって子どもが勉強できる環境をつくっていこう、子どもの教育にみんなで関心を持ち続けよう、という気概を感じます。
当時を知る人に聞くと、この他にも「子どもをお風呂に入れましょう」「お土産に本を買ってあげましょう」といった声掛け運動もあったようです。
教育振興や学力向上に魔法の杖はなく、そうやって一つ一つ積み重ねていく中で、岩手県の教育は文字どおり「振興」してきたのだと思います。

現在は、先人達の血の滲むような努力の結果、経済状況や教育環境の向上により、当時のような著しい教育格差は是正されています。
ただ、完全に地域の格差が無くたのかと問われれば、僻地教育の振興が今も国の重要な課題であることからも、離島・中山間地域の教育振興は現在進行形で続いている課題だと言えます。
加えて、今は、都会と僻地というエリアの問題を超えて、子どもの貧困問題としてさらに根深い問題となっています。
だからこそ、学校や保護者、地域社会、行政がそれぞれの責任を自覚し、一体となって取り組んでいく教育振興運動の理念は、今の時代だからこそ、より一層必要な取り組みだと思います。


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