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こころちゃんには選択肢がたくさんあるの

昔、読書も旅のようなものだと誰かが教えてくれました。今日はいつもと違って、本の中の、それも教育の専門書ではなく小説の中から出てきた言葉を紹介させてもらいます。

私が読んだ本は、2017年に刊行されて翌年に本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』(作家:辻村深月氏)です。文庫本化されていたものを本屋で見つけて先週末一気に読み終えました。
最近は、専門書ばかり読んでいたので、久しぶりの小説でしたが、すぐに感情移入し、物語の世界に入り込むことができました。

ネタバレにならない程度に概要をお伝えすると、主人公のこころちゃん(中学1年生女子)は、中学に入って同級生からのいじめを受けて不登校となります。
ただ、一人称で書かれたこの小説の中で、主人公は自分が「いじめ」られているという言葉は使わずに、無視や嫌がらせ、暴力といった個別の行為によって、自身が受けてきたことを表現しています。自分の中で「いじめ」られているという言葉を避けることで、相手に負けていない、屈したくないという心の葛藤が丁寧に描写されているところにも共感しました。

作者がどのような学校生活を送ってきたのか、これまでにどんな人から話を聞いてきたのかは知りませんが、作家の想像力は本当にすごいなぁと感嘆させられます。余談にはなりますが、学校教育では「創造性」の重要性は指摘されていますが、久しぶりに小説を読ませてもらうと「想像性」というのも同じくらい大切なのだと考えさせられます

同級生の暴力を前に、主人公は学校に行かないという不登校の道を選択します。一日中部屋に閉じこもり、勉強をせずにテレビを見ながら時間を過ごす主人公、そんな毎日の生活に負い目を感じていたのですが、「これまでも充分闘ってきたように見えるし、今も、頑張ってるように見えるよ」という言葉を投げかけてくれる、自分のことを自分以上に理解してくれるフリースクールの先生と出会います。

小説では、鏡の中にある城に招待されて、似たような境遇の子ども達と出会うことなるのですが、普通であれば出会うことのない仲間と過ごす時間を通して、主人公の心の変化と成長が綴られています。

物語の終盤、フリースクールの先生は主人公に「学校は、絶対に戻らなきゃいけないところってわけじゃない。・・・こころちゃんが行きたくないと思うのなら、私たちは、他にこころちゃんがどうすればいいのかーどうしたいのか、いくらでも一緒に考えるよ。・・・こころちゃんには選択肢がたくさんあるの」と優しく語りかけます。
その言葉に主人公は救われるのですが、私自身も「こころちゃんには選択肢がたくさんあるの」という言葉に心が震えました。
その時だけ、物語の世界から抜け出して、教育に関わるものとして、この言葉を待ち望んでいる子供達が現実の世界にもたくさんいるのではないか、そう思わずにはいられませんでした。

これは、あくまでフィクションの話です。けれど、作者の想像力は現実と虚構の壁を超えて真実を浮き彫りにしていると感じさせられます。そして、願わくばこの物語のように、不登校で悩み苦しいんでいる多くの子ども達に素敵な出会いが訪れることを祈りながら、続きを読みました。

物語としても優れていますが、教育関係者としても考えさせられる素敵な本ですので、手に取って読んでみてはいかがでしょうか。


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