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#29 茶道における「風炉」と「炉」の違い

茶道における「風炉」と「炉」の違い


日本文化を象徴する茶道では、季節に応じてお点前に使う道具や設えが変化します。その中でも特に象徴的なのが「風炉」と「炉」の違いです。これらはお茶を点てる際に湯を沸かすための道具であり、同時に茶室の雰囲気や季節感を演出する重要な要素でもあります。

1. 風炉と炉の基本的な違い

• 風炉(ふろ)

風炉は、炭や電熱器を用いて湯を沸かす可動式の器具です。主に**夏の季節(5月~10月頃)**に使用されます。
風炉は畳の上に直接置くため、移動が簡単で、茶室の設えにも柔軟性があります。また、風炉のデザインには、金属製、陶器製、さらには釜の形状によっても趣が異なり、見た目でも季節感を楽しむことができます。

• 炉(ろ)

炉は畳の一部を切り取って設置される固定式の設えです。主に**冬の季節(11月~4月頃)**に使われます。
炉を切ることで茶室の空間に暖かさを取り入れ、冬の寒さを和らげるという役割があります。また、茶室の床に掘り込む炉には、火が茶室全体をやさしく包み込むような雰囲気を作り出す効果もあります。

2. 季節感を演出する道具の違い


風炉と炉は、ただ湯を沸かすためだけの道具ではなく、茶室の季節感を象徴する存在でもあります。たとえば、風炉では涼しげな素材や色合いの道具が用いられる一方、炉では暖かみのある釜や掛け軸、花が選ばれます。

具体的には、風炉の時期には涼やかな青磁や白磁の茶碗が好まれ、炉の季節には重厚感のある黒茶碗や備前焼のような土ものが使われることが多いです。

3. 茶道の精神における違い


茶道では「一期一会」の精神を大切にしますが、その中で風炉と炉は、茶室での一期一会をさらに特別なものにしてくれる存在です。
風炉は外の空気が軽やかになり、開放感を与えるものとして、夏の空気を取り入れる役割を担います。一方、炉は寒い季節に人を茶室へと招き入れ、心を温め合う空間を提供します。

茶道における音の美学:「松風」を感じるひととき


茶道と聞くと、静寂そのものの世界を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、茶席は決して「完全な無音」の空間ではありません。むしろ、茶道では「音」が重要な役割を果たし、それが茶の湯の世界に豊かな情感を与えています。その中でも特に象徴的なのが、釜の湯が沸く音「松風(しょうふう)」です。

松風とは何か


松風は、釜の湯が煮える際に生じる音を指し、これがまるで松の木々を吹き抜ける風の音のように聞こえることから名付けられました。この音は茶室の静寂を心地よく満たし、聞く人の心を和ませます。松風は、茶道の精神を象徴する音ともいえるでしょう。

釜の音がもたらす美しさ


釜の音には段階があり、茶席で適した音が生まれるタイミングを見極めるのは、亭主の腕の見せ所です。茶の湯では、釜の湯が穏やかに煮える音が最適とされ、それが「松風」と呼ばれる状態に近づきます。この音は、茶の湯において心を落ち着け、集中を促すものとして重要視されています。

茶席で響くさまざまな音


茶道では、釜の音だけでなく、さまざまな音が生まれます。たとえば、以下のような音が挙げられます:
• 襖や障子が静かに開閉する音
• 柄杓からお湯が注がれる音
• 茶筅が茶碗に触れる微細な音
• お客様が抹茶を吸い切るときの音

これらの音はすべて、茶席の一部として調和を生み出します。茶室での音は、決して目立つものではなく、「耳を澄ませて初めて感じられる」ほどの静けさの中に存在しています。

音を楽しむ心


茶道において音は、茶室における「一期一会」の精神を深く感じるための重要な要素です。釜の音に耳を傾けることで、茶席における一瞬一瞬の特別さが際立ちます。これは、日常生活でも応用できる感性ではないでしょうか。忙しい日々の中で、ふと湯が沸く音や木々の揺れる音に意識を向けるだけで、心が静まり、自然と調和する瞬間を味わえます。

おわりに


茶道は「静寂」を追求するものではなく、静けさの中に潜む「音」を感じ、楽しむ事ができます。その象徴である松風の音は、単なる湯気や熱の音ではなく、自然のリズムや心の平穏を感じるための音です。日々のお稽古や茶席の中で、音に耳を傾ける時間を持つことは、茶道をより深く味わう一然の道となるでしょう。これらを意識してお稽古や茶会に臨むことで、より深く茶道を楽しむことができるのではないでしょうか。

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