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Dear ママ 2024.8.23

ちょっと前にパパが電子書籍を出版しているのをたまたま知ったんだけど、あれは一体何なの?

ママに聞いたところで「知らないっ!」って返ってきそうだけど。
ごめんね、パパの話なんて聞きたくないのは分かってるんだけど、ちょっとあれはないわと思ってね。ママの名誉挽回のためにも、ちょっとどこかに書いておかないと気が済まないというか。

ご存じの通り、パパとはもう20年以上会ってないし連絡も取ってないから、どこで何をやっているのかも知らないんだけど、たぶんママが死んだことを噂で聞いたんだろうね。ママが死んだ時、パパとママの共通の友人知人にも連絡してるから、たぶんその辺の人達から伝わっていったんだろうな。

パパの作品なんて正直どうでもいいんだけど、ひとつだけ目に留まった本があったんだよね。本の表紙が私達が住んでいた場所だったから。嫌な予感がして本の概要を見たら「自伝的青春小説」だってさ。「きっとそうじゃん・・・」て思ったね。他の作品には全く興味が湧かないんだけど、というよりタイトルだけで気持ちが悪くて「ひぃーーー」ってなってたんだけど、おそらく私達のことが書いてあるであろうあの小説だけはやっぱりどうしても内容が気になって。あとは何を書かれてるか分かんないから確認しなきゃいけないような気もしてさ。パパの本にお金払いたくなかったんだけど、買って読んでみた。しかも上下巻あるし・・・2冊って・・・(!!)

あれはひどい。
パパのことだから、きっとパパ自身のことを美しく真っ当な人間として描いているんだろうなとは思ってたけど、予想以上にひどかった。とにかく自分は悪くない、自分は常に被害者、そんなかんじだね。変わんないなぁ。
それにしてもママのことをひどく描き過ぎてる。死んだからってあんなにひどく書くもんかね。てかさ、私がパパとママがどんなんだったか覚えてないとでも思ってんのかね?パパと暮らしていたのは小1の夏休みくらいまでだったけど、結構普通に覚えてるからね。しかも、最近、ママの死(グリーフ)だけでなく、自分自身とも向き合おうと思って割と定期的に今までの人生の振り返りをしてるから、忘れかけてたこととかもどんどん思い出してるんだよね。小さかったからそんなに覚えてないだろうなんて思ったら大間違いだから。

しかもさ、何で私だけ実名なの?すごい嫌だったんだけど。他の登場人物はみんな仮名なのに。あの作品は私に対する何らかのメッセージなの?私に対する弁解?執着?それとも、パパと再婚相手のM子さんが如何に純愛だったかを今の家族にでも示したいのかね。純愛と思っているのは本人達だけで、傍から見たら、ね・・・。

あの小説で書かれているパパとM子さんの関係が本当だったとしたら、また人間不信。M子さん良い人だと思ってたのにな。もう谷底に突き落とされたような衝撃だったよ。もしあの内容が本当だとしたら、ママが長年苦しめられていたもののひとつがあれで、私が知っていたのは本当に断片的なところだけで、何だか色々なことが私の中でリンクしたような気もするんだよね。今、ようやくママの苦しみのひとつを本当の意味で理解できたというか。恐ろしいことだよ、もしあれが本当なら。

あの小説はまさに「死人に口なし」な内容だよね。しかも出版したタイミングもまた絶妙。ママが生きている間にあんなの出したら、ママに訴えられると思ったんだろうね。あのタイミングで出すところがまた何だかせこくて相変わらずだなって思った。

ごめんね、ママからしたらパパの話なんか聞きたくもないのは重々承知しています。でもさ、ママくらいにしかこんな話できないんだよね。ゆうさんに話したところでパパと会ったことないし。このパパの小説についてはおばあちゃんにもききちゃんにも言ってないし。てか、言えない。おばあちゃんがもしこの小説の内容を知ったら、眩暈起こすだろうからね。こちら側があの小説を読んでどう思うか、とかはパパは考えなかったんだろうか。私は読んだ後に非常に不快な内容だと思ったけど、ポジティブなこともネガティブなことも含めてこちら側がどう感じるか、あるいは、どう感じる可能性があるか、とかある程度は予測できると思うんだけどな。相手への配慮が足らないというか。だから離婚したんだろうけど。

私はさ、申し訳ないけど、パパとママの離婚に関してはどちらの肩も持ってないからさ、子供の私からしたらどっちも悪いと思ってるんだよね。どっちも無責任だと思ってる。でもね、自分の父親のことをあんまりひどくは思いたくはないんだけど、ひどいもんはひどい。本当にあの人私のお父さんなんだろうか?と思ってしまう。けど、あいにく、顔がそっくりだからお父さんなんだよね。嫌悪感を抱いている相手に容姿が似ていることで今までどれだけ苦しんだことか。でもね、ゆうさんに言われたの。「お父さんは生物学的な父親ってだけだよ。てーてるとお父さんは全く別の人間だから。見た目が似てるのかもしれないけど、全然違うから」って。やっとパパの呪縛から解き放たれたような気がした。

ママ、私はママのことが大好きだった。ママはパパと違って、時々きつい言い方をして私を傷つけることもあったけど、ママがいつも私のことを一生懸命に考えてくれているのは十分に伝わってたよ。ママはいつも私を尊重してくれて自由にさせてくれました。パパは口では綺麗なことばかり言ってたけど行動が伴ってなかった。そしていつも「てーてるはこういう子だから」と決め付けていた。そういうところもすごく嫌だった。あんだけママのことが大好きだったんだもん、パパが小説でママのことを悪く言ったところで私の心が揺らぐことは決してありません。パパの周りの人達はどうであれ、大丈夫、ママのことをちゃんと分かってくれている人達はたくさんいるから。ママは素晴らしい人だったんだもん。ママは私の憧れでした。そりゃ、人間だからダメなところもあるけど、そんなところも全部ひっくるめてママのことが大好きでした。ママには本当に感謝しています。親になった今、ママの偉大さに改めて気が付かされることばかりです。まだ若かったのに仕事も育児も家事も本当によく頑張ったと思う。本当にすごいよ。私にはあそこまで出来ない。たくさん無理したね。たくさん嫌な思いも悲しい思いも悔しい思いもしたね。

どうして私はママに寄り添えなかったんだろう。
何で何もしてあげられなかったんだろう。
自分のことでいっぱいいっぱいで、「あと少しだから待ってて」って思いながら、ママの面倒を見れるように必死に働いて。でも肝心なことを忘れていた。ちゃんと言葉で伝えるということ。「分かってるだろう」じゃないんだよ。人はちゃんと伝えないと結局何も分からないんだ。

今でも後悔ばかりです。
本当にバカだったと思う。

本当にごめんなさい。
「私は望まれて生まれてきた子じゃないんだ」とか「生まれてこない方が良かったんだ」とずっと思っていたこともごめんなさい。
若いママがたくさんたくさん考えて自分の夢を諦めて産んだのに。
たくさんたくさん愛情をくれていたのに。本当にごめんなさい。


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