「菜の花の沖」第五巻 世界一周の巻
北前船のことが知りたい、と読み始めたこの本。
あらすじは。
第四巻では、蝦夷地やアイヌ人が物語のメインだった。
第五巻は、ほぼ丸ごと、日本との通商をせまる当時のロシアの話に。
ロシアの国の始まりから、司馬遼󠄁太郎は語りだす。
なんと、ロシアの原型のような国は、今のウクライナにあった。
キエフ政権とか、キエフ国家といったそうだ。
北前船の本を読むつもりだったのに、ウクライナの話しにまで広がるとは。
キエフ国家はその後、モンゴル帝国などによって崩壊されたそうだが、後にロシア帝国が生まれる。
ロシアの貴族は、土地と農奴をセットで持っていて、厳しく働かせていたため、たくさんの作物を外国に売ることにより力をつけることができた。そして、先進国であるヨーロッパに追いつくために、技術を貪欲に取り入れて、また軍備にも相当金をかけたそうだ。
当時、未開の土地は、それを見つけた国のものとされる慣習があり、ロシアはシベリア奥深く入り込み、どんどんと領地にしていき、動物を獲り毛皮にしてヨーロッパに売っていた。
そしてついにユーラシア大陸の東端までたどり着き、千島列島を南下、日本の領土とぶつかることになる。
東に進むほど、シベリアの端で採れた毛皮をヨーロッパに運ぶのは非常に効率の悪いことになり、シベリアに来ている軍や組織の人間の食料を確保するのも困難だった。
ロシア皇帝や、シベリアで毛皮商人をしている国策会社の人間は、毛皮を日本に売って、食料を買うことができれば、非常にビジネスが上手くいくため、それを望んで通商条約を結ぶべく、使者を送ることにした。
船で日本に向かうが、出発地点がなんとサンクトペテルブルク、というロシア西端のバルト海の港から。
イギリスを越えて喜望峰を周り、当時ロシア領だったアラスカまでぐるっと巡り南下して日本へ。
ものすごい旅だ。まだ世界一周に近いこの航路を巡った国はなく、ヨーロッパ中が注目していたそうだ。
航海は成功したものの、日本は鎖国中。
当時の開国をしている国では全くありえない非礼な対応を幕府がして、それが二国間での問題を深くしていく。応酬が加熱していく。
司馬遼󠄁太郎は、国家が近代化すればするほど、紛争の時には、野蛮な人間の本性に左右される、と書いてある。なるほど…
本当にそうかも知れない。
江戸幕府の対応を読んで行くと、さすがに酷いと思うが、それは今の時代に生きているから、そう思えるだけであって、私が当時の幕臣だったら、同じことをしてしまっただろう。
古きを温めて新しきを知る。
今の日本でも、あとの世から考えたら、同じくらい酷いことをやっている部分が、今あるかも知れない。
歴史から学ぶことは大事だ。
それにしても、江戸時代には、戦争を起こさせないため、幕府を転覆する力を持たせないために、武器も船も、それ以前のものから進化させていない、というのは世界情勢のなかでは本当に恐ろしいことなんだと気付かされた。また、明治時代になって一気に軍備拡張に走った日本は、様々な無理をしてきたんだろう、と思いをはせた。
まるで、江戸時代の日露関係の歴史本の様な、そして主人公がほとんど出てこない第五巻が終わった。
ロシア側の思惑に、主人公が巻き込まれるのが、最終巻の第六巻。
本当に、今の時代にぴったりの一冊。
お楽しみに。
追記: Eテレの名番組「100分de名著」で、取り上げてほしい本のアンケートがあったので、「菜の花の沖」と書いて送った。
本当に取り上げられたら、その時は自慢したい。
それでは、おやすみなさい。
(歴史的に、また司馬遼󠄁太郎の文脈と違っている所があれば、教えてください。)