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【後編】花に囲まれて、自分らしく働く!「ローランズファーム横須賀」が描く新しい就労のかたち〈ソーシャルビジネス探検記#4〉
社会課題をビジネスで解決する「ソーシャルビジネス」について、皆さんと一緒に「探検」していくこの連載。
今回は、就労が困難な方々が自己実現できる環境づくりに取り組む、株式会社ローランズの花農園「ローランズファーム横須賀」の現場責任者である佐藤新平さんにお話を伺いました。
前編ではローランズファーム横須賀が取り組んでいる事業や、ファームを取り巻く環境について教えていただきました。後編となる本記事では、佐藤さんがローランズさんに参画した理由ややりがいなどをお伝えします。
「妥協しない」心がけ
障がい者の方が福祉施設で作った商品と聞くと、世間では「弱者救済」といった視点で捉えられることがあります。しかし、佐藤さんはそのような考え方ではなく、プロフェッショナルな姿勢で製品作りに取り組んでいます。佐藤さんが目指すのは、障がい者が単なる「支援の対象」ではなく、「障がい者が社会へ価値を提供する側に参画し、自分らしい生活を送ることができる機会を提供すること」なのです。
「(障がい者が誰かに)『支えられる』と言うより、何かを『支える』側になってもらうことが大事だと思うんです。ですから日々の業務に妥協は許さず、“本当に良いもの”を生みだしてもらっています」
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就労時間「6時間」を目指して働く環境
「社会での価値を認められ、自立した生活を送る」ため、そして一般企業でも活躍できるような人材になってもらえるために佐藤さんが目指していることがあるといいます。
それは、ローランズファーム横須賀で働くスタッフさんが1日あたり「6時間」働くこと。就労継続支援A型事業所における障がい者の方の勤務時間は、1日あたり4時間であることが多いと言われていますが……。
「6時間というのは、一般企業が障がい者を雇用するときの最低基準なんです。もちろん一人ひとりと話しながら働く時間は決めていきますが、6時間を一つの目標として頑張っている状況ですね」
この姿勢は具体的な成果にも結び付いています。
「A型事業所からの(一般企業への)就職実績は年間1人出ればすごい、という水準なんですけど、今年の実績で言うとうちからは9人程度の一般企業への就職が実現しそうです」
また、大手企業で障がい者雇用を担当されていた方がローランズさんに参画し、一般企業への就職を希望する障がい者の方を支援するべく日々面接練習も重ねているそうです。
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佐藤さんがこういった事業所運営にこだわる理由は、ローランズさんへの入社を決めた想いと深く結びついていました。
「上場企業で営業職に携わった後、農業系ベンチャー企業で事業開発を経験しました。この工場では『3年で上場を目指す!』と皆が意気込んでおり、経済合理性を強く意識する環境だったんです。最初は私も目標に向かって熱心に取り組んでいましたが、次第に『持続可能な成長』について考えるようになりました。結果を追求することは大切ですが、その過程で人々の幸せも大切にしたいと気付いたんです」
より「社会貢献性」を重視した仕事をしたいと考える中でローランズさんに出会い、障がい当事者の雇用問題を解決しながら、自らが培ってきた「収益性」を求める事業開発経験を活かしたいと考え、参画を決意したと言います。
そして現在の仕事の成果を、佐藤さんはこう語ります。
「現在は、想定していたよりも地域の農家さん始め、同業種の支援機関の皆様との連携ができていると感じています。基本的な受け入れ態勢は整ってきたので、次は売り上げを伸ばす段階だと考えています。例えば高価格帯で提供できるプロダクトの開発に挑んだり、ToBだけでなくToCもより積極的に取り組んだりといった形で、打ち手をどんどん増やしていきたいです」
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当事者の目線で「会話を楽しむ」
営業や事業開発の経験から、ビジネス視点での福祉事業運営に注力する佐藤さん。一方、障がい当事者の目線に立った細やかな配慮も行き届いています。多くの人が出入りし、複数の商品を作っているともなれば、当然日々の業務は複雑になっていきます。
例えばこのホワイトボードでは、全ての文字をひらがなで表記することで識字に課題がある人への配慮をしているのです。
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障がい者の方に対する配慮は、こういった現場の施策だけではありません。
佐藤さんに話を伺うと、障がい者の想いを汲み取る「組織体制」の姿が見えてきました。
「『福祉部』という介護や福祉で働いてきた人たちが所属する部署では、主に障がい者の方々と面談を行い、一人ひとりの状況を把握する仕組みを作っています。自分たちの商売やサービスにはそれぞれの事業部が向き合い、福祉部は、面談で聞き取った情報をもとに障がい当事者であるスタッフにとって最適な部署や役割を提案してくれています」
このように、従業員の得意分野を生かせる人員配置を行い、役割を明確に棲み分けしていることも特徴のひとつと言えそうです。
また、日々のコミュニケーションにおいても心がけていることがあると言います。
「当たり前ですけど、まずは相手の障がいについて理解することを心がけています。そして、障がいがあってもなくても、他人と自分は違う人。違いに対してイライラするのではなく、違う人から『教えてもらう感覚』を持つことで、次第に違いを知ることが楽しみになってくるかなと思います」
そうして一人ひとりの従業員と向き合う中でのやりがいを、佐藤さんはこう語ってくれました。
「ファームのメンバーが増え、彼らが一般企業への就職が決まったときですかね。最初は、こういう嬉しい結果になるとは、本人も、家族でさえも思っていないことがほとんどです。就職が決まったことでうちが潤うわけではないですが、これは『関わる人全員が嬉しい瞬間』。僕が事業開発を仕事にした理由は誰かの活躍機会を作るため、でしたから、こういう瞬間がやりがいです」
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「出会い」を大切にする
最後に、佐藤さんがこれだけ多くの活動に注力できる「原動力」について伺いました。
「私は、仕事においては『安定=停滞』だと考えています。もともと考えるのが好きで、知らないことを吸収したり話を聞きに行ったりするのですが、これは僕にとっては防衛本能からくるものなんです。つまり、『うまくいっているからいいよね』という感覚に対して恐怖心があるんです」
佐藤さんが大事しているのは、「動く」ことの重要性と、そこで生じる「出会い」だと言います。
「動いてみると離れる人も、共感して近寄ってくれる人もいます。その中で大事にしたい物や人ができると、次第に自分の周りは自分の好きなもので溢れてくると思うんです」
そんな佐藤さんに、若者に対してこんな考えを大切にしてほしい、という言葉を書いていただきました。
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「出会う機会を積極的に作ることは、今も昔も変わらない心がけです。学校教育ってコミュニティが固定化されがちですが、時には飛び越える意識が重要だと思います。僕の場合は『自分が飽きないこと』を原動力にしてきました。その結果として、例えば物理的に働く場所を変えるという選択が生じたのかなと思うんです。いろいろな出会いをする中で、自分がどう生きたいか、棚卸しすることが大事なのかなと思います!」
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佐藤さんのご経験や話し方からは、もっと詳しく聞きたいと思わされるような、「惹きつける力」があると感じました。最後にお話いただいた内容が示しているように、佐藤さんの中でぶれない「芯」があるからこそ、現在のお仕事でも多くの人を引き付けているのだと感じられる時間でした!
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