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【前編】花に囲まれて、自分らしく働く!「ローランズファーム横須賀」が描く新しい就労のかたち〈ソーシャルビジネス探検記#4〉

社会課題をビジネスで解決する「ソーシャルビジネス」。この連載では、その最前線で活躍する方々の取り組みを皆様と共に「探検」していきます。

今回取材したのは、「休眠預金活用事業」のパートナー企業の一つとして、トラストバンクが併走させていただいている株式会社ローランズさんの事業開発担当、佐藤新平さんです。佐藤さんは花農園「ローランズファーム横須賀」の立ち上げメンバーのお一人。この農園では、就労が困難な方々が自己実現できる環境づくりに取り組んでいます。

本記事では、その取り組みと情熱的な想いに迫ります!

最初は何もないところからのスタートだった

神奈川県横須賀市にある「ローランズファーム横須賀」には、11月初旬に訪問させていただきました。

バス停のある通りを曲がって細い道をしばらく進むと、鮮やかなオレンジ色に染まり始めたマリーゴールドが咲き誇る、素敵な区画が見えてきました。そしてそこでは、障がい者の方々が笑顔とともに生き生きと作業に取り組んでいらっしゃいました。

美しい花畑が広がっている。

ですが佐藤さんによると、現在の活気や光景が最初から存在していたわけではないと言います。

「最初は何もなくて。本当に草が生い茂っているところからのスタートだったんで、感慨深いですね」

障がい者の方の活躍機会を広げるべく事業展開に奔走する佐藤さんは、横須賀における障がい者雇用の状況について、このように教えてくれました。

「特別支援学校などはありますが、A型事業所(障がい者と雇用契約を結んで働いてもらう福祉事業所)が少ないのが現状です」

株式会社ローランズ 事業開発グループ 佐藤 新平さん

こういった課題を踏まえ、ローランズファーム横須賀では、地域の学校等からの視察実習を積極的に受け入れ、地域全体の障がい者雇用に貢献されています。そして、実際に見学に来た方たちも、今回の私と同様に「こんなにおしゃれな空間なんだ」という驚く人が多いそう。

「仕事の体制が整っているし、どんよりせず笑いが出る環境だから『誰が障がい当事者か分からない』と言われることもありますね」

では、ここで働かれている方々は具体的にどんな仕事をされているのか。施設の内部を見学させていただきました。

みんなで障がい者雇用を実現する「算定特例制度」

ローランズファーム横須賀では花の栽培をはじめ、ポプリ等の加工品の製造にも着手するなど様々な事業展開に挑戦しています。そのために整備された花壇や、色とりどりの花々が目を楽しませてくれますが、ひと際目を引くのは、奥川にあるビニールハウス内に広がるシイタケ栽培の光景でした。

「ローランズでは算定特例制度を活用して、地域の大手スーパーとも協力しています。この制度を使うと複数の企業が一緒になって障がい者の雇用を進められるのですが、そのためには障がい者の方々が取り組む『仕事』と、その『成果物』を提供することが必要です。そこで私たちは、シイタケ栽培を始めることにしたんです」

算定特例制度とは、複数の企業が共同で障がい者の雇用率を満たすために活用できる制度。障がい者の雇用機会を確保するために、事業主には「法定雇用率」という一定割合での障がい者の雇用が義務付けられています。しかし、仕事の内容や職場環境が整わず、自社だけでこの雇用率を満たすのは難しい場合も少なくありません。

一方この制度を利用すると、要件を満たした事業協同組合とその加盟企業が一体となり、雇用率を通算して計算することができます。ローランズさんが運営する事業協同組合(ウィズダイバーシティ組合)もこの制度を活用しており、今では日本最大規模を誇る組合にまで成長しているといいます。

現在(※2024年1月)、算定特例認可企業数が日本で一番大きな事業協同組合となり、多くの障害者の雇用が生まれています。

With Diversity 公式ホームページより
出典:厚生労働省「事業協同組合等算定特例」P61より引用

数ある作物の中でも、シイタケ栽培を選んだ理由は、比較的少ない面積で多くの量を栽培できること、菌床(シイタケを栽培するためのブロック)を複数回利用して栽培できること、オペレーションが比較的細分化できること等を総合して、福祉事業所と相性が良い野菜であるからと教えてくれました。

また、ローランズファーム横須賀では、シイタケ栽培にあたる作業を、横須賀にある別のA型事業所の方々にも委託しています。地域にある別の施設と連携することで、地域全体で障がい者の能力を活かす機会を増やそうとしているのです。

さらに、地域のシイタケ農家さんに技術サポートをしていただきながら、調達が難しい高品質な菌床で栽培を行っているとか。単なる慈善事業ではなく、ビジネスとして取り組む力強い覚悟が感じられました。

「算定特例制度」を利用して、スーパーに納品するためのシイタケ。
(身が大きい……!)

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後編では、佐藤さんがローランズさんに参画した理由ややりがい、若者が大切にしてほしいと思う言葉についてお伺いします!



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