心の不思議
心とはなんだろう? それは不思議なものに思えます。
趣味で西アフリカのジェンベ (Djembe)という太鼓をやっている。昔はとても感情的に叩いていた。「太鼓でパンクをやる!」とか馬鹿な事を本気で言っていた。
伝統的なスタイルを習い始めた時、僕が叩くと先生は即座に「そんなに入り込んだらあかん!持ってかれるで!」と言った。どきりとした。持ってかれても構わないと、どこかで思っていたからです。
不思議な人だった。辛い気持ちで叩くと、その音を聴いたとたんに顔つきが変わり「お前なぁ、自分だけが辛いと思ったらあかんで。みんなそれぞれ抱えてるんや。お前だけやない」と言う。何で分かるのだろうと驚きました。
先生と先生の師匠は音色を大切にする人だった。同じ太鼓とは思えないような美しい音色だった。僕もそれを目指した。今でも先生達にはとても及ばないが、ある時、それなりに納得のいく音色が出せるようになった。するとそれまでのように感情を込めて叩けなくなった。僕の中にあった怒りのようなものが消えてしまった。不思議な感覚だった。
心が乱れるとタッチも乱れ、音色も汚くなる。しかし1度綺麗な音色が出せると、乱れた音に耐えられないから、タッチは自然と修正される。すると心の乱れも治まって来るのです。
それまで自分のものと思っていた感情は、重要性を失ってしまった。自分の内にあると思っていた心とは、今は太鼓の音色なのだ。そしてクリアーな音を出せるようになると、心が乱れない範囲で意図的に音を濁らせることも出来るようになる。もちろんこのような事は太鼓の演奏に没頭している間だけの事で、その他では乱れてばかりではあるのだが。
心とはなんだろう? 僕よりはるかに美しい音色を奏でる名人達はどんな風に感じているのだろう? 何だか少し恐ろしい気さえするのです。
太鼓の師 砂川正和先生の師匠 Abdoulaye Diakite
(Abdouli Diakite)翁の
アルバム「JebeBara: The Bamana Djembe」
何とも美しい音色です。
太鼓修行の旅
Djembe 奏者 Yaya Diallo の生涯を描いた名著 (柳田知子訳) 西アフリカのバンバラ人の生活と文化がよく分かります。
エッセイ