詩 金木犀

金木犀の薫りがする

甘く柔らかな薫り

秋の匂いだ


20年以上も前だ

稲刈りが終わり

籾殻が舞う時期に

金木犀の薫りが漂う


少し冷たい風と

収穫を祝う祭り

酒の匂いと共に

荒れる村人たち


自ずと思い出す

決して忘れることのない

身体に染み付いた

秋の記憶


僕は生きて来たんだな

短いようで長い

この人生でも

忘れられない

染み付いた記憶が

いくつもある


季節は記憶を呼び起こす


そんな風に君のことも

僕は思い出す

君の薫りや

共に歩いた場所

食べたものや

飲んだもの


色んなものが

君との記憶に結びついては

思い出す

君との時間を

君への気持ちを


君との記憶も同じように

僕の身体に

染み付いているみたいだ


君の笑顔や

小さな君の体を

僕は思い出しては

後ろから抱き締めて


もう離しはしないと

強く強く抱き締める


時間は流れていく

様々なものが変化し

君の中の僕はどんどんと

薄れていくのかもしれない


それでも僕は君を思い出し

君の言葉を思い出し

季節を感じるように

巡る歳月の中で

ふと君の姿を思い描く


薫りがまた

僕のもとに届いた

かすかに残る

君の温かさを

僕は思い出した

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