はっくしゅん #07

いつからだろう。
自分のくしゃみに違和感がある。

わたしはくしゃみをする際に、我慢をせずにするタイプだ。
周りの女の子たちは

「ックシュっ」

みたいな、かわいらしいくしゃみをする。

わたしも、あんなくしゃみをしてみたい。

違和感を持った頃からそんな風に思うようになった。
親からも「そんなくしゃみをする子に産んだ覚えはない」であるとか、
お友達からも、少し間をおいて「…大丈夫?」と心配される。

人に聞くと「はっくしゅん」の「はっ」の部分がおかしい、であるとか「くしゅん」の部分が「ぶるん」としてる、であるとか、言い方は様々だ。
そして、この「様々」を総合するとつまり、わたしのくしゃみは、おっさんのそれである。

嘘だろ…!!

時々、電車の中で、突然とてつもない大きさでくしゃみをするおじさんがいる。わたしはいつも、死ぬほど驚く。びくっとしたこの身体は、隣の人にまで響いているだろう。あの、台風のような瞬間。それなのに、くしゃみをした本人は、しれっとしているのだ。

まさかわたしが、「そっち側」にいるとは。

この、「そっち側」にいるかもしれない事態によって、わたしは本格的に、くしゃみをかわいらしくする練習を始めた。

しかし。
これは結構至難の技で、くしゃみが出るまでに「くる!」という瞬間を感じ取れても、練習ゆえに逆に変なくしゃみになってしまったり、「くる!」を感じ取れないまま、突き上げるほどの速さでありのまま出てしまうことがある。
こうなるともうどうにもならない。落ち着くのを待つしかない。

まるで獰猛な犬を鼻の中で飼っているようである。吠えられる、と分かっていれば備えられるが、突然吠えられては備えられない。
(一体何に備えるのか、のツッコミはなしでお願いしたい)

しかも最近は困ったことに、「突き上げてくる」タイプが、三連発で出てしまうのである。

困った。非常に困った。

そして昨日。
久々に入ったカフェで、本を読んでいた。

そのカフェは、席はまあまあ埋まっているものの、一人で利用している人がほとんどで、作業をしたり勉強をしている人ばかりで、話し声もなく、とても静かだったのだ。隣は空席で、一つ空けたところに、きれいなお姉さんがPCで作業をしていた。とても快適な空間である。

それなのに。

「突き上げてくる」タイプが一気に三連発。


その瞬間、お姉さんのタイピング音が、止まった。


まずいな。

まずいよ、これは。

おそらく、わたしのくしゃみは、時々電車の中で聞くおじさんのくしゃみと同じだったんじゃないだろうか。
作業をしていた彼女にとって、それはとてつもない大きさで、びっくりさせてしまったのではないだろうか。はらはらとする。お姉さんの方を向いたら、こちらを見ていそうで、怖い。
だからせめて、しれっと読書に戻るのではなく、少し申し訳なさそうに、読書に戻った。

とにかく、かわいらしいくしゃみが出ない。
わたしは「突き上げてくる」タイプのくしゃみでも、かわいらしいくしゃみをしたい。

こんなに技術が発達した令和の社会だ。
手術とかで、くしゃみをかわいらしくできないのだろうか。

わたしは「ッチューン」というくしゃみをしたい。
もしくは「ックシっ」というやつだ。

※ちなみにこれは「ッチューン」でも「ックシッ」でもない。
「ッチューン」であり「ックシっ」なのである。
ちゃんと伝わっているだろうか。

例えば、耳鼻科とかで、「A.へっクシュン」「B.イークシっ」など様々なバリエーションのくしゃみが録音されたサンプラーがあって、ボタンを押すと試しに聴けるようになっている。
そして、「Bにします」とか言うと、お医者さんがその場でササッと処置をしてくれて、帰り道からは「イークシっ」のくしゃみが出せるようになっている、とか。
レーシックができるんだから、それくらいできるのではないだろうか。

と、そんなくだらないことを考えながら、今日もいつくるかわからない、くしゃみの瞬間を待ちながら、練習に励む。はっっくしゅううぅ。また失敗。

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