2022.10.16〜傷を愛せるか(増補新板)〜
精神科医であり、医療人類学という医学博士である女性のエッセイ。
これまたちょっとドキドキするタイトルだけど(笑)恐れることはなく、筆者の静かな日々の中で、クリアになっていく「決して強くなれない自分をどう生きるか」という内省の軌跡が、日々の様々なエピソードと共に紹介されていく。
ちょっとした事件に巻き込まれた幼少の記憶、身内の不幸、仕事の変化。私達は生きていく中で悲しいことを完全に避けることはできないし、それを完璧に克服できるほどには強くなれない。
特に筆者は精神臨床の第一線に立つことで、他者の痛みとも相対してしまう。その結果、「自分の身を削りながら仕事をしている」と周りから評価されてしまうことも。
その中で筆者なりに、自分が受けた悲しみを昇華させるまでの心の内が丁寧に描写され、まるで自分も、その道を歩いたような気になる。
なんだか強くなれない自分を肯定できるような気持ちになるのだ。
特に印象的だったのは「開くこと、閉じること」というタイトルのエッセイ。変化には「外に開放的な形での変化」と「内にこもったままの変化」があり、細胞分裂をたとえて表現している。細胞が減数分裂をする際は、内外との物質交換を提示する。つまり「外の世界から自分を切り離して」変化を起こすということだ。その際、外的な刺激には非常に無防備になるという。
人間関係を絶つまでは行かなくとも「自分が変化するためにひとりの時間をつくる」という過程の中で、妙に外の世界が気になってしまうことがあるだろう。わたしにも近い時間があったし、筆者と同じような葛藤があった。
けれども、そうした変化を一通り済ませて、改めて世界と連結すると、不思議と自分の成長を感じられるのだ
焦る気持ち、悩む時間は無駄なんかじゃない。確実に自分を強くしてくれているのだと、筆者の紡ぐ言葉に支えてもらえる。
そんな感じの優しい一冊です。
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