2022.07.03〜移動図書館 ひまわり号〜
住んでいる街に図書館があって、無料で本を借りられる。ない本は気軽にリクエストができる。
そんな当たり前に感じることが、たった数十年前はそうじゃなかったなんて、本当に信じられない。
日本の公立図書館の先駆けである「日野市立図書館」がどのように誕生し、発展していったか、館長による記録を綴った本。テレビが家庭に流通し、図書館の利用率が減っていく中、公立の図書館はどうあるべきなのか、について筆者が立ち返ることから、物語が始まっていく。
筆者はイギリスに行き、日本とイギリスの図書館の立ち位置の違いに圧倒される。当時の日本の図書館は、市民に本を「与える」ことに重きが置かれていた。「市民は自発的に本を読まないもの」と定義され、図書館側が市民に何を読ませるのかを検討し、それに沿った選書になっていたということだ。
イギリスでは全く異なり、すでに市民の中に読みたい本、得たい情報が確立されている。それは十人十色で個性として強調され、社会に反映されていく。それほどまでに市民が精神的に熟していることを行政側が認識しているという現れだった。筆者は、この価値観の違いに衝撃を受けたそうだ。市民社会全体の発展に寄り添う形で図書館が育っていくべきだ、ということを痛感させられる。
日野市立図書館はまず、移動図書館の活動が始まる。街中に車を走らせる中で、筆者は市民の意識を肌で感じるようになる。まず、リクエストサービスによって市民から求められる書籍のレベルが予想以上に高い。市民は本を読まないわけではない。図書館に対して諦めの感情を抱いていただけだったのだ。
日野市の取り組みが行われていたのは、昭和三十年代〜五十年代頃が中心だ。教育自体が今よりもずっとずっと、選ばれた者の権利、垣根の高いもののように思われていたのだろう。
こうした方々の尽力によって、何の努力をしなくとも生まれた頃から歩いてすぐの場所に図書館があり、書籍に触れやすい環境があったことに心からただただ、感謝するばかりだった。
自分も本に触れる良さを、次代に伝えていきたいし、その発展に貢献できればと思う。