能「皇帝」に思うこと その4
金剛巌先生と皇帝
金剛流の先代御宗家と先々代御宗家は「金剛巌(こんごういわお)」というお名前で、時代を考えると陰翳礼讃の中では先々代の御宗家の事を言及している。
今から100年前に起こった関東大震災の影響で京都に移った谷崎潤一郎が、おそらく金剛能楽堂で見た事を思い出しているのだと推測される。陰翳礼讃が出版されたのが90年前なので、執筆の数年ほど前の事であろう。
楊貴妃の役は子方でもツレでも勤める事があるのだそうだが、この時はおそらくツレだったのだろう。海外のアーティストが話す「陰翳礼讃」の世界が急に自分の世界と繋がった瞬間だった。その後の文章もとても興味深いものだった。
能楽のほんとうの持ち味
もしも現在・能楽堂で用いる照明が谷崎のいう「近代の照明」だとしたら、ほんとうの持ち味は既に半分以上失われていることになる。これはいささかショックだった。逆にそれまでは「能楽はなぜ照明効果を狙わないのだろう。もっと演出があってもいいのに」なんてことを考えたりもしたからだ。
能楽の照明は基本的に地明かりで、照明を転換することは近年においても稀である。なぜ照明をあえて“放置”しているのだろうか。そして、能楽のほんとうの持ち味とは何なのか。それを活かす照明とは、一体なんだろうか。……そのヒントは昔の演能形態「五番立て」に隠されていた。
つづく
第八回竜成の会「皇帝」ー流行病と蝋燭ー
令和5年5月28日(日)14時開演
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