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第2話: 近代心理学の夜明け ~実験心理学の誕生~
物語
19世紀後半、ドイツのライプツィヒ。
石畳の街並みを馬車が行き交う中、ライプツィヒ大学の一室では、革新的な試みが始まろうとしていた。
「さあ、諸君! 心の謎を解き明かす、新たな時代が到来したのだ!」
情熱に満ちた声で宣言するのは、ヴィルヘルム・ヴント教授。
彼は、哲学から独立した、科学的な心理学を確立しようと、世界で初めての実験心理学研究室を設立した人物である。
「心は、もはや捉えどころのない、曖昧なものではない! 実験と測定によって、その法則を明らかにするのだ!」
ヴントは、人間の意識を、構成要素に分解し、分析することで心の構造を理解できると考えた。
「意識とは、感覚、感情、表象といった要素の複合体である!」
彼は、学生たちに語りかける。
「これらの要素を、精密な実験によって測定し、分析することで、心のメカニズムを解明できるのだ!」
研究室には、ヴントが自ら設計した、様々な実験装置が並んでいた。
音の高さや強さを正確に測定する装置、光の明暗や色を調整する装置、反応時間をミリ秒単位で計測する装置…。
学生たちは、自ら被験者となり、様々な実験に参加した。
「この音は、先ほどの音より高く聞こえますか?」
「この二つの光は、同じ明るさに見えますか?」
「この図形を見て、どのような感情が湧き上がりますか?」
実験は、厳密な条件下で行われ、得られたデータは、丁寧に記録され、分析された。
ヴントの研究室からは、多くの優れた心理学者が輩出された。
ヘルマン・エビングハウスは、無意味な音節を記憶する実験を行い、記憶の法則性を明らかにした。彼は、自ら被験者となり、膨大な数のリストを記憶し、その結果を分析することで、忘却曲線と呼ばれる、記憶の減衰を示すグラフを作成した。
グスタフ・テオドール・フェヒナーは、物理的な刺激と心理的な感覚の間に、数学的な関係があることを発見した。彼は、音の大きさや光の明るさといった物理的な刺激の強さと、人間が感じる感覚の強さとの関係を、数式で表すことに成功したのだ。
彼らの研究は、心理学を科学の俎上に載せるための重要な一歩となった。
ヴントの功績は、心理学を哲学から独立させ、科学的な学問として確立したことにある。
彼の思想は、その後の心理学の発展に大きな影響を与え、現代の認知心理学の礎を築いたと言えるだろう。
解説
近代心理学の誕生
19世紀、自然科学が急速に発展する中で、心理学もまた、科学としての道を歩み始めた。
1879年、ヴントがライプツィヒ大学に世界初の実験心理学研究室を設立したことが、近代心理学の誕生とされている。
ヴィルヘルム・ヴント
ヴントは、人間の意識を、構成要素に分解し、分析することで心の構造を理解できると考えた。
彼は、このアプローチを「構成主義」と呼び、意識を構成する要素として、感覚、感情、表象を挙げた。
ヴントは、内観法と呼ばれる手法を用いて、被験者に自身の意識内容を報告させ、それを分析することで、心の働きを解明しようと試みた。
実験心理学の発展
ヴントの研究室からは、多くの優れた心理学者が輩出され、様々な研究が行われた。
●ヘルマン・エビングハウス: 無意味な音節を記憶する実験を行い、忘却曲線を発見。記憶のメカニズムを科学的に解明しようと試みた。
●グスタフ・テオドール・フェヒナー: 物理的な刺激と心理的な感覚の間に、数学的な関係があることを発見(ウェーバー・フェヒナーの法則)。心理学に数学的手法を導入した先駆者。
●オスヴァルト・キュルペ: ヴントの弟子。思考過程を研究し、「心的過程は全体として捉えるべき」という「全体説」を提唱。これは、後のゲシュタルト心理学に影響を与えた。
実験心理学の限界とその後
ヴントの内観法は、客観性に欠けるという批判もあり、その後、行動主義心理学などの新しい学派が登場する。
しかし、ヴントが心理学を科学として確立した功績は大きく、現代の認知心理学にも繋がる重要な礎を築いたと言えるだろう。
まとめ
近代心理学は、ヴントの実験心理学研究室の設立を起点として、科学的な学問として発展を遂げてきた。
実験心理学は、人間の心を客観的に研究する道を開き、現代心理学の基礎を築いた。
参考文献
●E.G.ボーリング『心理学史』
●高橋澪子『心の科学史 西洋心理学の背景と実験心理学の誕生』
次回予告
第3話では、「心の深層へ ~フロイトと精神分析~」をテーマに、フロイトの精神分析理論とその影響について解説します。
お楽しみに!
あなたは、自分の心を、どのように捉えていますか?
科学的な視点から、心のメカニズムを探求してみたいと思いませんか?
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