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【与太話⑧】魚になった男!鮎編


「…ん? なんだ、この川のせせらぎは…?」

目を覚ますと、耳に心地よい水音が響いていた。あたりを見回すと、そこは自宅の寝室ではなく、清流の川底だった。

「また…魚に…? しかも今回は…」


そう、私は過去に何度も魚に変身してきた男。鮭、鯖、鯵、カレイ、マグロ、タイ、フグ…そして今回は、なんと鮎になってしまったのだ。

「鮎か…」


これまでの経験から、もはや驚きよりも先に、ある種の感慨のようなものがこみ上げてきた。しかし、鮎は他の魚とは違う。あの美しい姿、そして清流を泳ぐ姿…。

「これは…もしかしたら…」


私は、わずかな期待を胸に、川の中を泳ぎ始めた。すると、体が水流に逆らい、力強く上流へと進んでいく。

「おお…!」

冷たい水、川底の石、水草の揺らめき…すべてが新鮮で、美しい。私は、鮎になったことで、自然の力強さ、そして美しさを肌で感じることができた。

「これが…鮎の見る世界…」

私は川を遡上し、他の鮎たちと出会った。彼らは皆、力強く、そして美しく、生命力に満ち溢れていた。

「みんな…すごい…」

私は、鮎たちと共に川を泳ぎ、餌となる藻を食べた。その味は、清らかで、自然の恵みを感じさせるものだった。

「美味しい…」

私は、鮎として生きる喜びを感じていた。しかし、鮎の命は儚い。産卵を終えると、彼らは命を終えるのだ。

「そうか…命は有限なんだ…」

私は、命の尊さ、そして儚さを、鮎として実感した。そして、産卵の時期が訪れた。私は、他の鮎たちと共に、上流を目指して泳ぎ続けた。

「これが…私の使命…」

そして、ついに産卵の場所に到着した。私は、全身の力を振り絞り、卵を産み落とした。

「ああ…」


私の体は、力尽き、川の流れに身を任せた。そして、意識がゆっくりと薄れていく中で、私は、人間の姿に戻っていた。

「…夢だったのか…?」

私は、自宅の寝室で目を覚ました。しかし、私の心には、鮎として生きた記憶が鮮明に残っていた。

「…いや、夢じゃない…」

私は、鮎になったことで、命の儚さ、そして美しさを知ることができたのだ。そして、これからも、命を大切に生きていこうと決意した。

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