【私の活動領域①】経営とデザイン
私は、2015年に経営コンサルティングを営む個人事業主として「タツノ経営デザイン」という屋号で活動を始め、翌年法人化する際もその名称を使用しました。「経営デザイン」という言葉には、「中小企業の経営者が経営を深く考えること」=「経営をデザインすること」を支援したいという思いを込めました。また、私はメーカー出身でものづくりに対する思い入れがあるので、「デザイン」という言葉を使いたいと思いました。
国内の中小企業の中には、競合企業や大手企業に負けないような優れた技術を持っている企業が多数存在します。ところがそのような企業であっても、自社商品が思うように売れない、高い技術に見合う価格で製品やサービスを販売できずに苦しい経営を強いられている企業は少なくありません。
一方、従業員数名の企業が、世界に通用する商品を生み出し続け、安定した売り上げを続けている例も多くあります。こうした違いは何から生まれるのでしょうか。私は、自社の経営や事業を、経営者や担当者の意思を持って綿密に設計する「経営をデザインする力」の有無が、そうした違いを生んでいるのではないかと考えています。
中小企業の商品開発と大企業の商品開発
私は2002年から2013年まで電機メーカーに所属し、小物電器製品の商品企画業務を担当しました。2012年の末に中小企業診断士の2次試験に合格したことをきっかけに独立することを決め、電機メーカーを退職しましたが、すぐに独立するのではなく、大学院商学研究科の修士課程に進んで中小製造業の研究を行いました。2年間の在籍時代には、東京都内を中心に数多くの中小製造業者を訪問して経営者に話を聞き、製造現場を見学して回りました。何十台もの大型設備を保有して部品を製造している企業、経営者のアイデアを元に熱心なユーザーに支持される商品を生み出している企業、国内外にほとんど生産者がいない商品を手作業で1つ1つ作る企業など、企業の数だけ個性があり、経営者の数だけ個性を感じることができました。そして、おのずと大企業と中小企業の違いについて考えることになりました。
たとえば商品開発のプロセスを考えると、中小企業で商品開発しようする場合、開発に関わる人間は少数であることが多く、経営者自身が一人であるケースも少なくありません。中小企業から生み出される魅力的な商品の中には、経営者の考えたコンセプトが商品に忠実に体現され、ターゲット顧客に魅力がストレートに伝わり、ヒットに繋がっているものが多くあります。一方、大企業の商品開発では、多くの担当部署・担当者、さらには決裁者が関わります。多くの人間が関わり、意見が採用されていく中で、商品の特長・仕様は「最大公約数」的なものになり、ターゲット顧客にとって魅力の少ない商品となるリスクがあります。
経営資源が少ない中小企業の課題
では、実際に中小企業が開発した商品を見たときに受ける印象はどうだったかというと、「何か足りない」「惜しい」と思うことが少なくありませんでした。例えば、「少しでいいからカラーリングや形状のことに気を配っていれば」「もう少しパッケージをおしゃれにしていれば」「どこで売るのかをもう少し考えていれば」といったことを感じることがあったのです。これは、少人数で商品開発を行うことのリスクが露呈したケースと思われます。
大企業であれば、「デザイン部」「商品開発部」「営業部」といった専門部署があり、商品開発から販売に至るプロセスに関わっています。沢山の専業者・専門家が携わることで、(最大公約数的かもしれないが)商品のクオリティを高めることができます。中小企業の場合は、少数の担当者や経営者が、幅広い業務領域をカバーして開発プロセスを進める中で、彼らのスキルに、商品の出来が左右されてしまうリスクがあるのです。特に中小製造業では、商品の技術力は優れていても、企画・営業・マーケティングといった分野に明るい人材がいないケースがしばしば見られます。
「経営をデザインする力」が企業のありようを変える
商品開発の事例においては、「商品そのものをデザイン」するプロセスが当然含まれますが、クオリティ高くターゲット顧客に受け入れられる商品を作り上げるためには、商品を構想、企画して仕様を決定して商品を生産する、その商品を顧客に届けて使ってもらうまでのプロセスを「デザイン」することも重要です。そして、そのプロセスを実現するために保有するヒト・モノ・カネ・情報の経営資源をどのように活用するのかを考えることが必要になります。特に中小企業では、保有する経営資源の制約が大きいため、自社で活用可能な経営資源を踏まえたテーマ設定や開発規模の設定、また、自社内の人材・スキルを見渡して、必要に応じて他社や外部がもつ経営資源を活用する可能性を検討するなど、商品開発の推進を実現する「経営資源のデザイン」を行うことのウェイトが、大企業よりも大きくなります。
そして、こうした業務全体のデザインが必要なシーンは、商品開発のみならずあらゆるビジネスプロセスにおいて求められます。すなわち、「経営をデザインする力」が資源制約の大きい中小企業のありようを決めると考えられるのです。そこで、私はデザインマネジメントを考え方のベースにした「経営をデザインする力」を経営者の方に持っていただくことで、中小企業が持つ課題の解決に貢献したいと考えています。
※「中小企業と大企業の商品開発」に関する考察は、筆者が2013年に早稲田大学大学院商学研究科で制作した修士論文で取り上げています。
(「調査研究」研究論文よりリンクあり)
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