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アスフレ観戦記『23-24シーズンの総括』
アースフレンズ東京Z(アスフレ)の23-24シーズンが終わりました。結果はご存知でしょうが、今回はそこに至る過程を私の目線で振り返ってみます。
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1.春は別れの季節
秋春シーズン制のBリーグにとって、春は別れの季節です。シーズン終了に伴う移籍、引退、契約満了等によって、多くの選手やスタッフが所属していたチームから離れていきます。
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アスフレは、その最たる例と言って良いでしょう。ここ4~5年は、フロントが選手やコーチを一気に放出する『解体』を繰り返しているからです。春が終われば、チームはいつも空っぽでした。
それは、昨年の春も同様です。チーム編成を担うゼネラルマネージャー(GM)に就任した廣瀬幹は、降格を生んだ体制を解体。チームの生え抜きすら放出する徹底ぶりで、選手は誰も残リませんでした。
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解体による選手との別れは、本当に悲しかったです。特に栗原翼は、特別指定の頃から見てきただけに、深い思い入れがありました。別れ受け入れるのは、とても心が痛かったです。でも、だからといって、解体に異論はありませんでした。
あの体制は、数名の選手からフロント批判の声が上がる等、結果だけでなく内情もボロボロ。そもそも継続が困難なうえに、継続ができたとしても明るい未来は全く見えませんでした。残念ながら、解体はもはや避けて通れぬ道だったのです。
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2.取捨選択
ただ、解体に異論がなかったとはいえ、それにあまり期待もしていませんでした。多額の債務超過があるほど経営が苦しいアスフレは、人件費に割ける資金がとにかく少ないため、解体後の編成にはいつも苦戦していたからです。
22-23シーズンの決算
債務超過:約2億9千万円
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参考に昔の編成を見てみると、優れた選手と契約する資金を捻出するためにスタッフを減らす等、人件費の少なさを物語る取捨選択の跡がくっきり残っています。
まぁ、それがうまく働けば良かったのですが、実際は捨てたものがチームに悪影響を及ぼしてしまい、選び取った大きな力を十分に活かすことができませんでした。
それもまた、降格の大きな要因です。
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廣瀬GMが、そういった過去の事例を参考にしたかは分かりません。ただ、編成への取り組みはそれらと完全に真逆。『選手も大事だが、選手に力を発揮させるスタッフも大事』という思想を基にしていたため、誰かを切り捨てるような取捨選択はしなかったです。
具体的には、選手だけでなくスタッフにも、中堅やベテランよりもサラリーが安い若手を積極的に採用。個々のサラリーをちょっとずつ抑えることで、おそらく降格でさらに少なくなった人件費でも、主要な役職に空きがない編成をつくり上げました。
・ハンドラー
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・ウィング
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・ビッグマン
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・スタッフ(一部)
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念のため補足すると、廣瀬GMが取捨選択を全くしなかった訳ではありません。若手が多いということは、即戦力を捨てたとも言えるからです。
『このチームにスーパースターはいない』
そう衛藤HCが明言するほど、選手のタレントは他クラブよりも控えめ。フロントは『1年で昇格』を目標に定めていましたが、現実の戦力と目標の難易度には大きなギャップがあるように見えました。
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3.オムニバス
しかしながら、天皇杯等で試合を現地で観戦すると、その評価は大きく変わりました。というのも、実際の彼らは、字面で見るよりも遥かに逞しかったのです。
そして、その逞しさが顕著に現れたのが、アウェイで東京八王子ビートレインズと戦ったシーズン開幕戦。この試合には、驚きと発見がたくさん詰まっていました。
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第1Q。開幕戦ゆえの緊張感からか、両者ともに得点が生まれない重い展開がしばらく続きました。それを破ったのが、ファイサンバとジェイコブ・ランプキンです。
ストレッチビッグに分類されるサンバの3Pショット。ビッグマンとしては走力があるジェイコブのリムラン。二人のビッグマンがそれぞれの長所をいかして得点を量産。
第1Qは、8点リードで終えることができました。
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第2Q。遅まきながらエンジンがかかってきた八王子が、トランジションを早めた展開で反撃。それをホームの大歓声が後押しし、流れは八王子に傾きつつあるように見えました。しかし、アスフレはそれを許さなかったです。
ウィングの近藤崚太が、綺麗なアーチで射貫く3Pショット2本を含む8得点。ハンドラーの井手拓実が、緩急織り交ぜたプレーメイクで4得点2アシスト。上位カテゴリーから移籍してきた二人が、質の高いプレーでチームを牽引。
リードをキープしたまま、ハーフタイムタイムを迎えました。
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第3Q。ここまでは静かだった八王子のエース、タレン・サリバンがついに覚醒。このQだけで9得点をあげる大活躍によって、アスフレのリードは一気に3点まで減少。逆転の機運で満たされたホームは、完全にお祭り騒ぎとなっていました。
それでも、アスフレは動じなかったです。ウィングの武本祐ルイスによる連続3Pショット。ハンドラーのキャメロン・パーカーによる華麗なプレーメイク。廣瀬GMが選んだルーキー二人がプレーでホームを黙らせ、逆にリードを11点まで広げました。
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第4Q。追い込まれた八王子があの手この手で仕掛けるも、この日のアスフレには付け入る隙がもうなかったです。井手とパーカー、タイプの違うハンドラー二人がゲームの流れを完全に支配し、最後はルーキーの請田祐哉による3Pショットで勝負あり。
最終的にリードチェンジは第1Qの1回のみ。息が詰まるような展開もありましたが、終わってみれば完勝とも言えるシーズン開幕戦。平日の夜、八王子に集まったアスフレファンは大いに盛り上がり、ほくほくした気持ちでそれぞれの帰路につきました。
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もちろん、私も勝利は嬉しかったです。でも、頭の中はどこか冷静で、ある言葉について色々と思いを巡らせていました。『このチームにスーパースターはいない』。そう衛藤HCの言葉です。
この試合、20得点を超えるような大活躍をした選手はゼロ。誰かの突出した活躍で勝った訳ではありません。ピンチの度に誰かが代わる代わるチームを救いながら、勝利までたどり着きました。
それはまるで、主人公が入れ替わりながら物語を紡ぐオムニバス映画。スーパースターが主演する長編映画とは違うストーリーテリングは、勝利後に独特の余韻を味あわせてくれました。
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4.衛藤HCの真意
その後も、ルイスが劇的なGame winnerを決めたり、請田がルーキー離れした得点力を発揮したり、キャメロンが圧倒的なプレーメイクでゲームを支配したり、主役がどんどん入れ替わるバスケは変わらなかったです。
『このチームにはスーパースターはいない』
この当たりでようやく気づきました。これは、現状への嘆きではなく覚悟の言葉。衛藤HCは、スーパースターがいない現状をありのままに受け入れ、特定の誰かに依存しないバスケで始めから勝つつもりだったのです。
そして、その衛藤HCの覚悟と若手たちの必死さが掛け合わさったバスケは、古参・新規問わず多くの人を魅了。ここ数年は冷え切っていた大田区総合体育館に、どこか懐かしさを覚える応援の熱が戻ってきました。
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もちろん、私も魅了されたファンの一人です。彼らのプレーをもっとたくさん見たくなり、アウェイにも時間とお金と家族が許す限り駆けつけました。すると、これまで知らなった他のB3クラブ独特の文化や魅力を色々と体感し、バスケ観戦の価値観が大きく変わった気がします。
中でもアウェイ金沢は、心に深く残る経験となりました。自身も被災者なのに、地域のために支援活動を率先して行った選手たち。その恩返しで選手たちに溢れんばかりの声援を送る地域の方々。町の小さな体育館は、選手と地域の確かな絆が詰まっていて、本当に温かったです。
地域密着とは何か。応援とは何か。プロとは何か。あの試合を現地で観戦し、改めて色々と考えるきっかけを貰えました。
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5.アスフレの弱点
ただ、肝心の成績は、あまり良くなかったです。上位クラブにも、下位クラブにも1勝1敗。なかなか貯金をつくれず、シーズン前半の成績は9位。成績上位8チームで行われる昇格プレーオフの圏外にいました。
目標は1年で昇格です。それを基準に評価すると、お世辞にも順調とは言えません。なぜそうなってしまったのか。当時、その要因として特に気になっていたのは、ニック・アレンの不調と選手層の薄さです。
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①ニック・アレンの不調
『シュート良し、ドライブ良し、ディフェンス良しと、今シーズンの東京Zを背負って立つプレーヤーの1人です』
ニック・アレンは、このように廣瀬GMから高い評価を受けていた外国籍選手です。しかし、消極的なプレーが多かったり、ターンオーバーが多かったり、シーズン前半は良しとされるプレーがあまり見られませんでした。
もちろん、敗戦の全責任をニックに押し付けるつもりはないです。でも、外国籍選手との契約には、やはり特別な活躍の期待が込められています。その期待が外れてしまったら、勝つのはどうしても難しくなってしまうのです。
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②選手層
人件費の少なさは、選手のタレントだけでなく、選手層の薄さにも繋がっていました。しかも、主力選手とその他の選手との間にかなりの実力差があったようです。シーズン前半のブレータイムは、主力選手に大きく偏っていました。
まぁ、それでも勝てるなら問題はありません。しかし、プレータイムの偏りからくる主力選手の疲労は、勝敗に大きな影響を与えていました。12月1日に香川ファイブアローズとアウェイで戦った第9節のGame1は 、その一例です。
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若手を主体とした編成のアスフレ。B2並の大型補強をしている香川。同じタイミングで降格し、同じ目標『1年で昇格』を目指す両者でしたが、 戦力の面で有利があったのは香川です。
それでも、アスフレは十分に戦えていました。11月以降はアシストと得点の両面でスペシャルな活躍をしていたパーカーが、28得点7アシストの大活躍でチームを牽引してくれたからです。
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ただ、試合を決めきるまでは至らず、勝負はオーバータイム、さらにダブルオーバータイムまで持ち越されました。
すると、7人ローテーションで戦っていたアスフレの足が止まり始め、10人ローテーションで戦っていた香川が一方的に押し込む展開が増加。そのうえ、それまで一人で相手の外国籍エースを止め続けた近藤が5ファールで退場。
ダブルオーバータイムのアスフレには、強豪クラブとまともに戦えるだけの力がもはや残っていなかったです。選手はそれでも最後まで本当によく頑張ってくれたのですが、点差以上に力の差を痛感する敗戦となってしまいました。
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念のため捕捉すると、この議論において、勝ち負けの結果はさほど重要ではありません。
問題なのは、7人ローテーションでしか戦えなかったことです。こんな無茶な戦い方をこの後も続けるのか。そう考えると、長いシーズンを戦って勝ち取る『1年で昇格』が、夢物語にしか見えなくなってしまいました。
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6.見えた完成形
主に選手層の観点から限界が見えましたが、廣瀬GMは年明け早々に新戦力の『ザック 遼 モーア』を迎えることで改善を図りました。
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日本国籍を持つザックは、3Pショットとリバウンドが得意なウィング。21-22シーズンは大阪エヴェッサ、22-23シーズンは京都ハンナリーズ、B1クラブでプレーしてきただけあって、その実力は確かです。
特にリバウンド。B3の日本人選手の中では大柄な体格をいかし、攻守のリバウンドで大きな存在感を発揮。ザックの加入は、選手層の改善だけに留まらず、インサイドの安定にも繋がりました。
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また、選手層と同様に懸念事項だったニックに関しても、年明け以降はプレーの質と積極性が向上。『シュート良し、ドライブ良し』と廣瀬GMが評価した通りの力を発揮するようになり、チームのオフェンスはより強力になりました。
選手層の改善。ニックの復調。懸念事項が立て続けに解消され、チーム力はシーズンベストと言える状態。残り2ヵ月、依然として昇格プレーオフの圏外に位置していましたが、ここから巻き返せると“この頃”は本気で信じていました。
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7.恐れていたこと
しかし、物事はそう簡単に進まなかったです。シーズンが終盤に差し掛かる頃から、主力選手の怪我が五月雨式に発生。シーズンベストとも言える状態は、急に一転しました。
井手拓実
・怪我の内容:怪我練習中に左足関節捻挫
・欠場期間:1/27から約1ヶ月
・欠場試合数:8試合
近藤崚太
・怪我の内容:試合中に右手中指中手骨骨頭骨折
・欠場期間:2/24からシーズンエンドまで
・欠場試合数:14試合
ザック 遼 モーア
・怪我の内容:脳震盪(2回)
・欠場期間:2/25からシーズンエンドまで
(一度復帰するも2度目の脳震盪で再欠場)
・欠場試合数:9試合
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それでも、代わりに出場機会を得た金城知紗や池田慶次郎が活躍したり、追加の補強で下田平翔や坂本龍平と契約したり、アスフレは適切な対応ができているように見えました。
ただ、抜けた主力たちの実力は、上位カテゴリーの選手と比べても遜色ないレベル。適切な対応でも彼らの穴を埋めきるのは難しく、勝敗はあまり伸びなかったです。
最終的な順位は10位。残念ながら、昇格プレーオフには届きませんでした。
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8.結果が全て?
目標の『1年で昇格』には未達。『プロは結果が全て』という価値観で評価すれば、廣瀬GMがつくった体制は明確に失敗です。
ただ、少なくとも私は、勝敗だけで評価をしたくありません。彼らは、未来へ繋がる取り組みにも力を入れていたからです。
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例えば、若手の育成。廣瀬GMが将来有望な若手を多く集めたこと。衛藤HCが若手主体でも勝てる方法に取り組んだこと。それらが相乗効果を発揮し、成長した若手がコート上で躍動する姿をたくさん見られました。
特に請田。優れた身体能力と巧みな駆け引きで優位な状況をつくってからの3Pショットは、B3トップクラスの破壊力です。その証拠に、ルーキーながらアスフレのシーズン3Pショット成功記録を塗り替えています。
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また、育成はトップチームだけに留まりません。
ユースがアメリカでトレーニングキャンプを実施したり、ユースU15の佐藤久遠とU18の竹垣凛玖人をトップチームの選手に登録したり、廣瀬GMが就任してからのアスフレは、ユース育成への投資がかなり増えています。
ユース、トップチーム、そしてフロント。つまり、今はクラブが一体となって育成を推し進めているのです。人を入れ替えることでしかチームの強化を図れなかった過去から、大きく変わり始めています。
フロントも現場もボロボロだった状態からの再建1年目。もちろん勝てるに越したことはないのですが、その変わり始めたことだけでも十分な気がします。焦らずじっくりと歩みを進めましょう。
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9.春は別れの季節
最後に今シーズンの総括をします。
無茶な取捨選択を止めた編成にしたこと。スーパースターがいなくても勝てる方法を模索したこと。未来へ向けて育成を推し進めていること。どれもこれも、クラブの身の丈に合ったチームビルディングです。
だからか、久しぶりに等身大のアスフレと向き合うことができて、そもそも何故このクラブを好きになったのかを思い出しました。廣瀬GMを筆頭としたフロントには、感謝を申し上げます。ありがとうございました。
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また、現場の人たちにも感謝を申し上げます。
昇格はできなかったけど、皆さんのバスケは本当に面白かったですし、スーパースターはいなくても、一人ひとりの人柄が本当に素晴らしかったです。
初めてのB3で色々と不安なことがありましたが、皆さんのおかけで充実した観戦ライフを送ることができました。ありがとうございました。
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できることならば、もう1年共に昇格を目指して戦いたいと強く願っています。ただ、これを書いている今の日付は、シーズン終了から5日が経過した4月12日です。またもや別れの季節を迎えています。
廣瀬GMがいれば、間違いなく継続路線なのです。しかし、ここで一身上の都合により退任。新しいGMには、「飯田 タッド 龍彦」が就任することになりました。
そうなると、廣瀬GMがつくった体制はどうなるのか。悪いところを変えるのはウェルカムなんですが、今の育成をメインに据えた良い流れは崩して欲しくないです。
このオフシーズンは、飯田GMの動きに注目しましょう。
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最後になりましたが、TeamUmeとZgirlsの皆さまにも感謝を申し上げます。降格の影響からか、演出の予算縮小が見受けられましたが、皆さまのパフォーマンスによって醸成される会場の雰囲気は、とても素晴らしかったです。ありがとうございました。
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では、選手、スタッフ、演出、Zgirls、そしてファンの皆さまにとって、このオフシーズンが充実したものになることを願って、あの言葉で今シーズンを締めます。
Go Win Z ! ! !
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