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  • 片方だけおっぱい

    中編小説「片方だけおっぱい」の記事です。

  • 【西村たとえ短編集】共振

    2020年にkindleで発売した短編集「共振」を無料公開しています。

  • あなたが好きだと言ったそれに僕はなりたい

    2018年にkindleで出版した短編小説「あなたが好きだと言ったそれに僕はなりたい」を公開しています。

最近の記事

  • 固定された記事

2016年の病んでいるメモが出てきたので供養させてください。

昨年度末に複数の仕事を解雇された。 はじめてというわけではないので、全く冷静に、本当に自分って終わってるな~と思いながら会社側との最後のミーティングを終えた。自分の仕事内容そのものに致命的な過失があったとは全く思っていなくて、問題は目上の人間とのコミュニケーションの取り方を学ばないところにある。事実、それらは社長秘書から暗に伝えられたのだ。改善方法は全く謎だけれども、こういった社会にある程度適応しないと社会的な抹殺は免れない。しかし、人生三周目くらいでないと、そこまで正常に

    • 【第三話】片方だけおっぱい

      「落ち込むなよっ。それくらいでさっ。私なんて彼氏にBL好きなのバレたばっかりなんだしっ」 「……」 「まぁ、見られては困るものを見られて愛が深まるっていうかさ……」  緑さんは、ふっ、と艶っぽい息を吐いた。 「いや、違いますけど、もう、じゃあ、それでいいです……」 「なんだよ。彼女がAVに興味津々だったからショックだったのか」  緑さんは急に核心にふれた。視線、体温、しぐさ、すべてを隠そうとするが、きっと無駄なのだと思う。いくら逃れようとしても、おれがただダサくな

      • 【第二話】片方だけおっぱい

         次の日。  女店員に怪しまれながらも、おれはアダルトコーナーに息を潜めていた。今日はどんな乳にも、おれは反応できそうにない。そう感じつつ、昨日と同じルートでエロの巣窟の最深部へと向かう。それぞれの色々な乳がおれにアプローチしてくる。しかし、そんなものよりも、もっと気になるものがある。  企画もののおねえさんが踊っている角を曲がる。  あ、いた。  まっすぐ伸びた黒髪が、静かに景色に溶けていた。昨日よりも、さらに切なさを増した彼女の表情がいっそう美しい。大きな目を細め

        • 【第一話】片方だけおっぱい

           入るか、否か。今、おれは究極の選択に立たされているといえる。  「十八歳未満立ち入り禁止」という意味を持ちながら、両手でおれを突っぱねている絵柄が、息もできない距離でゆれる。この黒い幕の向こう側には、まだ見知らぬ神秘の世界が広がっているのだろう。  今、ここで入らなければ、ずっと後悔するだろう。無論、チャンスなんて次回でも、そのまた次回でも、いくらでもあるのだけれど、実際おれはもうすでに、アダルトな領域に片足を踏み入れているわけで、この中途半端な状態を美人な店員にでも見

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        2016年の病んでいるメモが出てきたので供養させてください。

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        • 片方だけおっぱい
          3本
        • 【西村たとえ短編集】共振
          2本
        • あなたが好きだと言ったそれに僕はなりたい
          3本

        記事

          【第2話】ラスボスの子

           九月のある日。予報通り、台風が接近していて、ぼくはうんざりした。教室は薄暗くなり、まだお昼だというのに照明はすべて全力を出している。こんなことは滅多にない。  台風のときの独特の空気、非日常感を、クラスメイト達は存分に楽しんでいる。男の子たちは雷や強風にびっくりしながらも、いかに平気さを振舞うかにおいて勝負をかけている。反対に、女の子たちはいかに怯えているかにおいて勝負をかけているらしい。  担任の先生はせかせかと教室と昇降口を行き来していて、落ち着きのない様子だった。村人

          【第2話】ラスボスの子

          【第1話】ラスボスの子

           ぼくはときどき自分のことをクソださいと思う。ぼくはこの世界のラスボスの子どもなのに、あんなことで怒るなんて。  その日は授業参観で発表するための「感謝の手紙」を書いていた。学校という場に来て早々、こんなことをやらされるなんて。まったく、村人という奴らはくだらないことをしている。魔城に住んでいた頃にはこんなこと考えられなかったよ。  あいつらのペンを走らせるいくつもの音は、ひそひそと教室の端々で内緒話をしているような陰湿さを秘めていた。凶器の先端が紙の上を滑り、また一枚、また

          【第1話】ラスボスの子

          過剰の自意識(原作:中井正一「過剰の意識」)

           二時間程度デスクに向かったが、そのあいだタイピングをする手は全然動いてくれなかった。原稿の締め切りは近いのに、何のアイデアも浮かばない。首の骨を鳴らすと着ている服が臭いことに気づき、汗くさい服で煮詰まったカゴを持ってアパートを出た。  自宅に洗濯機が欲しい、とコインランドリーの洗濯機を前にして思う。なぜおれがわざわざコインランドリーまで来て、洗濯機を回す必要があるのか。  洗濯機も部屋に置けないアパートにしか住むことのできない自分に腹が立つ。おまけに、こんな古くて安いコイン

          過剰の自意識(原作:中井正一「過剰の意識」)

          稀代の後継者(原作:太宰治「走れメロス」)

           明朗(めいろう)は激怒しなかった。  一切、怒りはしなかった。  正確には、怒り方がわからなかった。  怒りという、身体の芯から沸騰するようなあの感覚は、もはや忘れてしまった。そもそもそんなものは自分に備わっていたのだろうかと考えた。怒りのあぶくの一つすら見えてこない明朗は、自分には何かが欠けているのだろうと感じた。  クラスの中心は、いつでも明朗の担任の教師だった。彼は、いつも軽そうな身をかかえて、快活に教室に入ってくる。イケメンの顔が現れると、生徒の誰かが元気に挨拶をし

          稀代の後継者(原作:太宰治「走れメロス」)

          【短編】あなたが好きだと言ったそれに僕はなりたい【最終話】

          「ただいま」  引き戸をひくと、漂ってきたのはカレーの匂い。キッチンの大鍋を覗いてみると、具沢山のさらさらなカレーが、深さ知れず、火にかけられていた。この後、僕の皿にはなみなみと盛られて、おかわりは? と訊かれるだろう。僕は大丈夫、とこたえて、家族の会話は一度止まる。間を埋めるのはたいていテレビのニュース、幾度も持ち上げられては据え置かれる食器の重み。  居間のほうに見慣れないシャツがかかっていて、これお父さんの? と僕は叔母に訊く。 「ああ、お父さんがね、これをすぐに洗濯し

          【短編】あなたが好きだと言ったそれに僕はなりたい【最終話】

          【短編】あなたが好きだと言ったそれに僕はなりたい【第二話】

           放課後は、鋭く高鳴る。一番聴覚が敏感になるような時間。見えなくても、触れなくても、十分に感じられて、ひどく気分が沈む。何かが僕らにもあるかもしれないと思い、なんとなく帰宅部は学校に残る。  けれど、たいていそこには何もなくて、いつでも何かが起こっても良いようにその時を待つ。そのための無為なおしゃべりは、たまに迷子になったりして、その隙間を埋めるために、必死に言葉を探す。  僕はそうはならない。その裏側に、また別の時間が流れているのだ。中学生同士の秘密の時間。たいてい、放課後

          【短編】あなたが好きだと言ったそれに僕はなりたい【第二話】

          【短編】あなたが好きだと言ったそれに僕はなりたい【第一話】

           揺れている。左右か、上下か、そのどちらかに、その両方に  いつもの、ひどい家鳴りだと思ったけれど、違った。感じるのは音だけではなくて、身体が振動に乗っているのがわかる。よく知りもしないのにきちんと恐怖のメロディが枕元で流れている。手を伸ばして布団を探索するが、掴めるのは柔らかいところだけ。  くっついた瞼の隙間から影がぼんやり。白い頭。黒い腕。叔父が僕の顔を覗き込んでいる様子が僅かにみえる。  僕をみている?  ついさっきまで確かに頬にあった熱の感触が、だんだんとほどけてい

          【短編】あなたが好きだと言ったそれに僕はなりたい【第一話】