インフルエンザ
インフルエンザが猛威を揮っている。
手短にお話ししたいが、医療現場での見立てでは、予防接種を受けていない人が、医院にどっと押し寄せているという。
インフルエンザのワクチンは、幾つかの型があり、毎年予想される型のワクチンを用意することになっている。WHOが英知を尽くして考える。しかし予想が外れたら台無しなのか。否、重症化を防ぐことは見込めるため、無意味になるのではない。今年は、予想がぴったり当たっているらしい。罹患した人に尋ねると、悉く、予防接種を受けなかった、と答えるのだそうだ。
医療現場は、急激にいま負担が大きくなっている。現場をご存じのない方には他人事だろうとは思うが、医院とは、患者が集まるところである。ウイルスがうようよ漂うような場所である。コロナ禍のときのような徹底的な防御服と最高度のマスクなどを常備すればまだよいのだが、いまはそこまでの激しい防御をしているわけではない。すると医療スタッフもインフルエンザに感染することが起こる。だが少人数の医院で複数人が罹患すると、全員が休めるとは限らない。その中で、通常の何倍もの患者が来院すると、特に医療事務担当者は残業が激しくなる。通常でさえ残業が当たり前なのに、この状態では、業務終了から数時間残ることも普通のようになる。インフルエンザウイルスに感染していても、事務は通常の看護師にはできない。
もちろん、大病院など最新のシステムを導入しているところは、人員もさることながら、事務処理もそこまでは負担にならないことだろう。予約人数以上を受け容れない、という医院も、一定以上に患者が増えることはないと思われる。だが、すべての医院がそううまくゆくようになっているわけではない。
このような情況が現場には起こっていることは、もう報道機関も触れないし、殆ど誰も想像すらしないだろう。
実は、コロナ禍においては、冬場にあっても、インフルエンザの患者が、殆ど出なかった事実がある。現場の感覚としては、ゼロに等しいものだったらしい。
何故だろうか。理由は、推測に過ぎないが、皆がマスクをかけ、うがいと手洗いを実行していしたとなると、インフルエンザが流行するはずがなかったのである。衛生管理が徹底すると、コロナウイルスもだが、インフルエンザウイルスも、侵入を防ぐことができていたのである。
いまはどうか。電車の中で、がんがん咳をする人がいる。そういう人に限って、マスクもかけていない。店舗の入口にもアルコールが置かれていないことが多くなったし、置かれていても、それを利用する人は1割いるだろうか、というようにも見える。衛生管理がすっかり緩んでいるのである。インフルエンザと診断されて、医院の窓口に、マスクが欲しいと求めるような人もいるという。医療機関もたまったものではない。
コロナ禍は痛い経験だった。亡くなった方も多いし、その遺族は辛い思いを抱えていることだろう。そのときに学んだ、感染症への対策は、多くの人の命と引き換えに与えられた知恵であった。それを、喉元過ぎれば熱さを忘れる、といわんばかりに、すっかり意識から消えているような世の中が見えるような気がしてならない。
インフルエンザも、統計の方法により数に差がでるが、年間何千人と死者を出しているというから、恐ろしい感染症である。多くの人の犠牲の上に得た知識を用いることができないというのは、なにも戦争におけるばかりではない。人間とは、そういう動物なのであろうか。
高齢者や子どものもとに、そのウイルスは伝わってゆく。自分にできる程度でしかないが、食い止めるための生活をしてゆきたい、と願う。同時に、心ある人の協力を求めたい。