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【前編】醤油と味噌とともに生きる。未来を見据えた自分にしかできない仕掛け-町田醤油味噌醸造場 町田靖典さん

皆さんは原風景と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
夕陽に輝く山々、太陽に煌めく地平線、風に揺れる黄金色の稲穂道…

おそらく誰にとっても懐かしい原風景があると思います。そしてその原風景と共に記憶されるのは、「香り」です。忘れない風景や思い出は、その土地の香りとともに紐づいて頭から離れないもの。ある香りを嗅いだ時、不意に子供時代の懐かしい光景が蘇る経験は誰もがお持ちでしょう。変わらずにある香りと原風景が、この上越には多く息づいています。

芳醇でどこか懐かしい馴染みのある香りが漂う東本町の一角。町家と雁木が並ぶ通りに、忽然と姿を現したのが町田醤油味噌醸造場でした。
売り場は雁木通りのひと区画、3畳ほどのスペースに日本人にとって“いつもの味”である醤油と味噌が立ち並んでいました。

「縦に長い町家で、工場が売場の奥にあるものだから、自社で製造していると思われないことが多いんですよね。」
「小学生の方がよく知っているんですよね、町田さんちで醤油作ってるよって。今日はフワッと醤油の香りがしたとか、家に帰って話をするようで。」

6代目の町田靖典さん(以下、町田さん)がそう話し、私達を温かくにこやかに出迎えてくださいました。

150年続く歴史と伝統の“いつもの味”

 町田醤油味噌醸造場は遡ること150年前、明治8年創業の歴史があります。
町家の特徴で奥に深く工場が広がっており、主に醤油と味噌の自社製造を従業員6名で手掛けているとのこと。醤油は2種の製造法で仕込みから一貫生産しており、大豆本来の旨味とすっきりした風味がある本醸造と、発酵熟成した諸味にアミノ酸液を加えて味にコクとまろやかさを加えた混合醸造が楽しめます。
 
 味噌は越後味噌の特徴である米こうじ味噌で、米由来の甘味が特徴です。
醤油は毎週、味噌は年中仕込みを行い、150年止まることなく休むことなく生み出されてきました。毎日の食事を何気なく彩る“いつもの味”として、そして家庭にとって変わらない存在として、町田醤油味噌醸造場の醤油と味噌は上越の家庭の味を支えてきたのです。

 「ひとまず創業180年を迎える2055年を目指し、その後は事業を畳むことも視野に入れつつっていうのが正直な気持ちなんです。それまではどうぞ、うちの味を楽しんでくださいっていう思いで仕事をしています。」
 突然、笑いながら町田さんがそう言いました。150年の歴史に終わりを決めた心意気は何であろう。代替わりを自ら経験した町田さんが考えた、始まりと終わりとは何であろう…
 町田さんは口を開き、少しずつ語り始めました。

夢を諦めつつ継いだ家業の始まりと日々

 「私はどちらかというと美術とかデザインとかの仕事がしたくて。広告代理店みたいなところで働きたくて、デザインをしたり絵を描いたりということを趣味でやっていたり…あと、物作りが好きなのでシルバーアクセサリーを粘土焼いて作ったり趣味でやっていたんですけど、男だったら大学に行きなさいと親に言われて。」

 幼い頃から芸術が好きで、趣味で物作りをしていた町田さんは、芸術系の大学に進学したいと考えていたと言います。しかし、両親からは芸術系の大学に進学することを反対され、泣く泣く断念。家を継ぐことや食品分野に進めば将来的に生活に困らないだろうという思いから、東京農業大学醸造学科へ進学することになりました。大学時代は授業に遊びと順風満帆に過ごし、覚えている思い出はバイトをとにかく頑張ったこと。

「就職試験も受けて内定をもらったところもあったんですけど、親が帰ってきなさいって。」

 大学卒業を控え、就職活動をして内定ももらっていた矢先のことでした。
両親から実家に戻ってくるように言われた町田さんは内定を取りやめ、家業である町田醤油味噌醸造場を継ぐ選択をします。若干23歳のことでした。

 「その後、6年間は蔵(製造担当)の中にいたんです。ですが、平成17年…2005年くらいですかね。稲田に金井味噌という味噌屋さんがあったんですね。後継者不在ということで親戚関係にあったうちが事業を引き継いだんです。」

 「そこから18年間は専務として営業職をしてきたんですね。なので実際は6年間しか製造現場にいなくて、あとは製造しながら営業に出たりとかしていましたけど、ほぼ営業職で外に出ることが多くて。」

 家業を継いで6年ほど製造担当として蔵仕事を行っていたところにやってきた事業譲渡の話。その後、明日から専務と突如任命され、営業の活動を開始したと町田さんは笑いながら話します。

 「明日から商談に行ってくれと言われても、商談って何だろうって、全くわからなくて。地元スーパーのバイヤーさんや地元企業の当時専務さんと話す中で揉まれてきて、今のやり方とか商売の仕方というものを自分なりに盗みながら考えながら、日々やってきました。」

 営業の経験は全くなく、最初は右も左もわからず何をしたらいいのかわからない状態だったと言います。物を売るということがわからない中で、わからないながらも経験を積み、もがいてきたからこそ見える自分自身の売り方や見せ方を学んできたというバイタリティーは、町田さんにとって大きな強みになったと言えるでしょう。

町田さんへのインタビュー【前編】はここまで。
【後編】は以下のリンクよりご覧ください。
https://note.com/tateyokosyoten/n/n40de326b394a

取材・文:石塚美沙希

町田さんがつくる製品は、たてよこ書店の店舗やオンラインショップからお買い求めいただけます。
<オンラインショップ>
Coming soon…

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