毎日マクラ「か」☆カレー☆
※以下は落語の冒頭でお話するマクラです。不条理も含まれたりします。
好きな食べ物は何かって聞かれたとき、皆さんはもうコレっていうふうに答えられるモノがありますかね。
これ、私の持論なんですけど、たぶん答えはひとつじゃないと思うんです。いいでしょ、この導入(笑)今日は道徳的な結末になりまそうですよ。
話の流れで「好きな食べ物なにー?」って訊かれたときの答えと、こめかみに黒光りするピストルを突き付けられて両手はもちろん後ろ手で縛られてて妹が遠隔地で人質にとられている状態でいかつい覆面のボスから機械の音声で「好キナ食ベ物ハ何ダ?」と訊かれたときとでは、違う食べ物を言うと思うんですよ。
これの難しいのはね、ピストル有りのほうがより本音を言えるというわけではないんです。
僕の場合ですと、普段何気なく訊かれたときは「カレー」って答えて、ピストル有りの場合だと「冷たいお蕎麦」って答えます。
冷たいお蕎麦だとスピーディーに食べられますしね。蕎麦湯も楽しみたいんですけど、その余裕があるかどうか。とにかく、そこで食べなくちゃいけないという臨場感で考えてしまうんです。
つまり、場合によって好きな食べ物って変わりますよね。それを言うために銃火器の例を持ち出すことはなかったんですが(笑)
僕は常に、カレーとお蕎麦の間で揺れているんです。こういうと、人はけっこう「じゃあカレー南蛮そばは?」って言ってきます。
大好きなお蕎麦に、カレーが加われば、これはもう間違いない。そう思いますよ、僕だってそう思わないわけじゃない。
だけど、そうなると「カレー南蛮そば」という新しい第三項が誕生してしまうんです。
ただ足せばいいんじゃないんだよ!!
カレーとお蕎麦とカレー南蛮そばはそれぞれ全く違う食べ物です。
むしろカレーとお蕎麦のほうが異質なもの同士惹かれあう感じで共通点を持ってます、いわば戦友です。
“ぼくの好きな食べもの”という戦場に何かをささげているわけですからね。
そこへ南蛮渡来の何かが海を越えてやってきちゃう。カレー南蛮という、めちゃくちゃ美味いやつが!
もう宇宙人なんですよ。
もっというと、カレーとお蕎麦が合わさっちゃうってことで、妖怪でいうと鵺のような、いってみれば実在しない食べ物なんです。鵺が鳴き声しか聞こえないように、カレー南蛮は匂いしかしない(笑)
やっぱり、別の食べ物になっちゃってるって気がするんですよねえ。
いつかカレー南蛮が一番になる時を、僕はずっと待つつもりです。きっとその時は、もうカレーも蕎麦もなくなっているかもしれません…。もしそうなったら、受け入れるつもりでいますよ。