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#5|箱男とインターネット|2024.08.29

石井岳龍『箱男』

頭からダンボールを被り、長方形にくり抜いた覗き穴から、一方的に世界を眺める者となり、都市を徘徊する「箱男」(永瀬正敏)。元カメラマンの彼は、街を撮影しながら、思考をノートにひたすら書き溜めている。そこに迫り来るのが、偽医者(浅野忠信)、軍医(佐藤浩一)、看護師の葉子(白本彩奈)、ワッペン乞食(渋川清彦)らで……。

正直言うと、前半のコミカルなアクションをもっと見たかった。箱男が映画泥棒のアイツみたいに街中を走り回ってるだけで、結構楽しかったし。自撮り棒的なのに取り付けた鏡で、必死に部屋を覗こうとしたり、一方的に見る存在だとか言っときながら、街の人からちゃんと変な奴がいるって思われてたり、もろもろ滑稽で可愛げあった。

煎じ詰めれば、自分の身は安全圏に置きつつ、何か批評したい欲、あるいは、自分の素性は伏せたまま、誰かに何か言いたい欲、の話(まあ、SNSとか?)。「1人1台、スマホという自分専用の「箱」を持ち歩く現代人は、みんな箱男だ」的な結論も、エンドロールの「どうせ、これ終わったらスマホ見るんでしょ?」的な挑発も、まあその通りだと思う。実際、こうやってコソコソnote書いてるんだから、紛う方なき箱男だ。

原作は、1973年に発表された安部公房の同名小説。

今回久々に読み返したら、時代感の割に、思いのほかインターネット的空間の話をしてて驚いた。

匿名の市民だけのための、匿名の都市ーー扉という扉が、誰のためにもへだてなく開かれていて、他人どうしだろうと、とくに身構える必要はなく、逆立ちして歩こうと、道端で眠り込もうと咎められず、人々を呼び止めるのに、特別な許可はいらず、歌自慢なら、いくら勝手に歌いかけようと自由だし、それが済めば、いつでも好きな時に、無名の人ごみにまぎれ込むことが出来る、そんな街〔……〕。

安部公房「箱男」

人類が到達できなかったほうの、理想のネットの話だけど。

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