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#9|魚豊|2024.09.26

魚豊『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』

昨年末に1巻が出て、1年経たないうちにしっかり完結。

このスピード感が、まずすごい。このテーマをこの速さで語り切れちゃうってのは、本当に現役マンガ家最速級かも。

デビュー作『ひゃくえむ。』が「100m走」、続く出世作『チ。』が「地動説」と、ニッチな題材ながら、壮大な物語を生み出してきた作者が、次に題材に選んだのが「陰謀論」と聞いたときには、思わず膝を打った。

世界が転覆するような「物語」「地動説」のパワーを熟知した作者なれば、それと表裏一体の「物語」「陰謀論」をテーマに選ぶというのは、この上なくリーズナブルに思えたからだ。

自分なりに魚豊作品の特徴を抜き出せば、こんな感じ。

何かが 何かが 湧いていた 胸の底から 何かが確実に 湧いていた そうだ これは、熱だ。

『ひゃくえむ。』vol.1

何かを根拠ぜんていにしないと、論理を立てられない人間理性の本質的限界として、思考すると常になんらかの権威ぜんていが成り立ち、誰もその枠組みからは出られないのかもしれない。そういう状況下で駆動した情熱が、暴走とも言える軌跡を経て、時には偉業うつくしさを、時には悲劇みにくさを生む。

『チ。』第7集

何かに「熱」を抱く(要するに、ハマる)こと。その「暴走」はときに「うつくし」く、ときに「みにく」い。のだとして、そのことに気づいてしまったとき、その者がどう行動するのか、あるいは本能レベルで、体がどう動いてしまうのか。これまで魚豊作品が繰り返し描き続けてきたのは、この一瞬間の緊張だったのではないだろうか。

にしても、今回読み返してやっぱり一貫して、作者は超言葉特化型のマンガ家だと思った。ストーリーテリングとセリフ、ようはその言葉に「スピード」「バイブス」「パンチライン」の全部がバチバチにある。

現代マンガ、屈指の「しゃべり」力だと思う。

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