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楽しみに待てるお産を。産後ケア領域から多胎育児家庭をサポートしたい|助産師・宮路由里奈さん

福岡市を拠点に双子や三つ子などの多胎育児を支援する一般社団法人tatamamaです。

多胎児ママ(以下:タタママ)にやさしい街づくりを目指し、公式LINEによる多胎育児情報の発信や多胎児世帯交流会、専門家相談会などを開催しています。

tatamamaの活動は、育児に関する資格やスキルを持つ「tatamamaサポーター」のご協力により進められています。

そんなtatamamaサポーターの素顔に迫るインタビュー。今回は、助産師・宮路(みやじ)由里奈さんにお話を伺いました。

助産師の経験を持つ宮路さんには現在、tatamamaが主催するプレファミリー教室の講師も務めていただいています。

周産期医療の現場で母子に寄り添い続ける宮路さん。「経験がないからこそ、まずは知ることが大事」と話す彼女が目指す、誰もが今すぐ始められる多胎育児支援の在り方について、お話を伺いました。


母子に寄り添い、より適切な産後ケアを。周産期医療の現場に立ち続ける理由

―― 宮路さんのこれまでの経歴を教えてください。

看護師として3年間働いた後、資格を取得して助産師になりました。それ以降13年間、お産の現場に立ち続けています。

はじめの3年間はクリニック、その後は周産期医療を専門とする総合病院に勤務し、多胎児や発育不全、病気を持つ赤ちゃんの分娩を担当しています。
出産を支える立場にある助産師には、重い責任が伴います。

心身ともにストレスもかかりますが、命の誕生の瞬間に立ち会えるこの仕事には、他では得難いやりがいがあります。

―― クリニックから周産期医療専門病院へと勤務先を変えたのはなぜですか?

クリニックで働いていた頃は、主に正常分娩を担当していました。比較的リスクが低い出産ですが、ときどき赤ちゃんやお母さんが危険な状態になり、別の医療機関に運ばれることがあったんですよね。

そのたびに「あのお母さん、赤ちゃんはどうなったかな…」と考えていて。
命をかけて妊娠出産するお母さんと、生まれてくる赤ちゃんのためにもっと寄り添いたい、搬送後のケアについて学びたいと思い、高度な周産期医療を実践している病院を選びました。

―― 精神的負担が増えることも想定できたと思いますが、それでも現場に飛び込もうと決意したのですね。

搬送先でどういった医療やケアが提供されていて、お母さんや赤ちゃん、そのご家族の気持ちにどう寄り添えるのか――。

当時の私は、知らないからこそ、知る必要があると感じていました。知ったうえで、自分にできることを探したかったんです。

周産期医療専門病院に勤務してあっという間に10年が過ぎましたが、ケアのスキルを高める日々にゴールはなく、まだまだ勉強中です。

tatamamaとの出会いで、多胎育児のリアルを知った

―― 宮路さんがtatamamaを知ったきっかけを教えてください。

産後の母子支援について情報収集していた頃、たまたまSNS上で代表の牛島さんの存在を知りました。ご自身も多胎児を育てる当事者でありながら、多胎育児支援の活動に精力的に取り組む姿に驚いたことを覚えています。

「この人と話したい!」と強く感じて、直接メッセージをお送りしたんです。そこで、ちょうど立ち上がってすぐのtatamamaに出会いました。牛島さんからtatamamaでどんな活動をする予定なのかを伺うなかで、私自身もお母さんと生まれてくる赤ちゃん、そしてケアに対する想いを伝えました。

―― tatamamaと関わり、多胎育児についてのイメージは変化しましたか?

多胎育児に関しては、一般的な保健指導が必ずしも正解にならないと改めて感じました。例えば、産院などでは「授乳時間は決めましょう」とよく言われます。ただ、赤ちゃんが2人、3人となると、その「決まり」は守れないことが多いです。

「休めるときに休もう」とアドバイスされても、1人が寝たと思ったら、もう1人が起きてしまうケースが多い多胎育児では、そもそも休める時間を確保することが難しいですよね。

tatamamaを知り、たくさんのお母さんたちの声を聞いたことで、多胎育児の“リアル”を深く知ることができました。臨床の現場でできることを考えるうえで、とても大きな意義があったと思っています。

tatamamaは私にとって、学びを深めさせてくれる場所です。助産師の経験を活かしてサポートしつつ、「多胎育児に懸命に向き合うご家族に対してできることは何か」をともに考え、一緒に探す関係性でいたいですね。

プレファミリー教室で伝えたい、「幸せな多胎育児」をかなえるための情報と生み出したい“つながり”

―― 現在、宮路さんはtatamamaが主催するプレファミリー教室の講師として活動いただいています。教室の内容を教えてください。

これまでの助産師の経験から感じる、多胎児妊娠にまつわる注意点をはじめ、お産に向けての必要な準備についてお伝えしています。牛島さんご家族の24時間スケジュールを参考にしてもらって産後のイメージをつかんでもらったり。

多胎児妊娠、出産についての情報は単胎児に比べると得にくく、それが多胎児を支えるご家庭の負担や不安の原因のひとつになっています。

だからこそ、出産する本人だけでなく、パートナー含め、多胎育児についての正しい知識を家族みんなで持つことが大切だと思っています。事前に準備しておけば不安を軽減できますし、自分たちに合った産後の支援を考えるきっかけにもなるはずです。

出産までに必要なタスクを少しずつこなし、不安を和らげるために情報を集めたり、あらかじめ受けられるケアをリサーチしたり。サポ―トの選択肢を広げられるといいですね。

――みんなで準備をする意識は大切だと強く感じます。

特に多胎児妊娠の場合、お母さん1人ではとても赤ちゃん全員を抱えきれません。だからこそ、教室にはお母さんだけでなく、家族全員に参加してもらいたいですね。

教室で何より大切にしているのは、多胎児妊娠出産のリアルを伝え、そのうえでみんなで“楽しみに”赤ちゃんを迎えること。

多胎児妊娠や出産のリスク、その後に続く育児のハードさは確かにありますが、だからといって、私は皆さんを不安にさせたいわけじゃないんです。

妊娠を喜び、育児のなかで自分たちの手で楽しみや幸せをつくっていけるように準備をしてほしい。プレファミリー教室を通じて、自分たちなりの「出産に向けて必要な準備体操」をしてもらえたら嬉しいです。

―― 今後のプレファミリー教室で実践したいことはありますか?

内容を妊娠週数別にすることを検討しています。妊娠の時期によって注意する点は異なりますし、特に後期になると長時間座っていることもしんどくなるため、講義スタイルの工夫も必要です。

また、参加者同士の交流をメインにした内容も考えています。ここでできたつながりが出産後も続いて、お互いサポートしあえる関係が生まれたらいいな、とも思います。

先日、1回目の教室が終わったところなので、内容については今後、さらにブラッシュアップしていく予定です。まだ講師経験が浅い私ですが、一つひとつの機会を大切にしながら、必要な情報を的確に伝え、多胎児家庭同士のつながりを生み出す一助になれたらと考えています。

当事者でなくてもできることがある。誰もができる「知る」ことから始まる多胎育児サポート


―― 今後、多胎育児支援の現場で挑戦したいこと、取り組みたいことを教えてください。

産院から退院後、その足でいける「助産師と過ごせる場所やサポート」を提供したいです。

日本の多くの産院では、疲れた身体を休める間もなく、お母さんたちは産後すぐから授乳やおむつ替え、退院後に必要な最低限の育児スキルを身につけるよう指導されます。そうして家に帰った後、怒涛の「育児サバイバル」が始まるんですよね。

日本は産院での入院期間は比較的長いものの、産後のサポートは少ない。退院後の生活に不安を抱えるご家族が多いと感じます。

だからこそ、授乳サポートや多胎児育児の練習ができるような場所が身近にあれば、お母さんたちも安心して育児の一歩目を踏み出せると思うんです。
子育ては、それぞれの家庭が中心になって行われるものです。でも、決して自分たちだけで抱え込む必要はないと考えています。

ずっと続く「子育て」だからこそ、その時々で必要な支援が日常のすぐそばにある社会だといいなと思っています。

―― ふとした時に頼れる場所が社会に増えたら、子育てももっと軽やかなものになると感じます。

イメージするのは、他人だけれど他人じゃない、そんなゆるやかなつながりのある関係性です。まるで、縁側に座る近所のおばあちゃんのような。
ドアを開ければいつでも「はい、いるよ」と返事ができる存在になりたいですし、そんな場所を生み出していきたい。

まずはボランティアとして、tatamamaでの活動を通してお母さんや赤ちゃん、ご家族に寄り添い続けながら、できることの幅を広げていこうと思っています。

―― そんな場所があれば、救われる人がどれだけいるでしょうか......!最後に、宮路さんのようにtatamamaサポーターとして活動してみたいと考える方に、メッセージをお願いします。

よく「私には経験がないから」とサポートすることを躊躇される方がいらっしゃいます。ただ私は、知らないことはマイナスではないと思っていて。
経験してないからこそ、知ろうとすることはできる。知らなければ寄り添えませんが、知っていることが増えていくと、自ずと自分にできることも見えてくるはずです。

何ができるかわからないと思ったら、臆せず「私にできることありますか?」と聞いてみたらいいですね。

とはいえ、その一歩がなかなか踏み出せない場合もあります。そんな時は、例えば街中で双子、三つ子連れのご家庭を見かけたら、「子どもが走り出さないかな」と片方の子を目で追っておくだけでもいいと思うんです。エレベーターを譲ったり、ベビーカーが大きくて困っているかもしれないな、と意識を向けたり。

多胎育児に興味を持ち、知ろうする人の存在は、当事者の皆さんにとって何より心強いものですから。

tatamamaの活動やサポートを知り、共感して寄り添おうとする姿勢が何より大切ですし、そんな想いを持つ方がこれから増えていくといいなぁと願っています!

―― できることは今、この瞬間にあるんだなと感じました。お話を聞かせていただきありがとうございました。

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