愛について(2)

彼氏ができた。数年ぶりだ。あなたと別れてから。

十中八九この日に告白されるだろうなと思っていた日にちゃんと告白された。元々それなりに気が合うと思っていたので、断る理由もないしと思い、そのまま付き合った。私があまりにも恋愛事に関心がなく、年齢的にも親が心配しているとも思った。

その日の前日に夢を見た。あなたが出てきた。夢で見たのは初めてだったと思う。あなたにプロポーズされる夢だった。

朝起きて、えもいわれぬ謎の感情に襲われた。正直家から出たくなかった。そのまま寝ていたかった。夢の続きを見たかった。

その日遊んでいる間も、気付いたらうわの空になっている時間があった。時々どうしたの?と聞かれて、その時目に入った適当なものの感想を述べて誤魔化した。あなたの勤務先のビルが見えて、いま何をしているだろうと考えながら見つめていた。雨が降っていた。

私はあなたから貰った物も、あげようと思って渡せずになってしまった物も、一緒に遊びに行った時の思い出の品も、一緒に読んでいた本も、全て捨てられていない。付き合っていた時から引っ越しもしたのに、処分することなく一緒に連れてきた。

家に帰ってから、思い出の物が詰まっている箱を開けてみた。一緒に初詣に行った時のおみくじが入っていた。ふと中を開いて見てみると「大吉」の文字と、その下には「恋愛 この人となら幸福あり」と記されていた。

私たちにとって「幸福」とはなんだったんだろう。別々の道で歩んでいくことだったのか。今となってはそうとしか考えられない。あなたも今はもう新しい恋人がいるんだろうか。結婚を考えていたりするのだろうか。もしくはもう結婚してしまったのだろうか。いずれにしても、私たちの恋愛関係における幸福は、一般的な幸福ではなかったようだ。

今の彼氏に私のどこが好きか聞くと、「頭が良くて、考え方が合って、かわいい」と言われた。何気なく聞いた質問だったが、またあなたのことを思い出してしまった。あなたはいつも私のことを「優しい」と言ってくれた。好きなところを聞いた時に「優しい」が初めにきて、その後「頭が良くて、かわいい」と言ってくれた。それが嬉しかった。付き合う前も、一度別れた後も、いつも「優しいよ」と言ってくれていた。私がこの世で言われて一番嬉しい褒め言葉だった。

私は、どんなに辛いことや悲しいことがあっても、人に相談しない。相談したところで、どうしようもないからだ。ただ、あまりにも全てのことを内に溜めておくので、彼氏には「あんまり溜め込まずに、僕にはちゃんと話してほしい」と言われる。遠くを眺めながら、私はいつも上の空で、うん、と答える。

言えるわけない、こんなこと。付き合う前日の夜に前の恋人からプロポーズされる夢を見たこと、思い出の品物を捨てられずに持っていること、おみくじに書かれた「この人となら幸運あり」の文字を見て泣いたこと。

また私のことを一番に「優しい」と言ってくれる人と出会いたい。でもそれはあなたしかいない気がする。だからもう出会えない。


おわり

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