心から好きな人には自然にハグしていた。
一年以上ぶりに会う約束をした。
大切なひとと。
約束の今日は朝から心が躍っていた。
久しぶりにメイク、髪の毛を巻く。
外は暖かかった。
苦手な電車も彼女と会うためならなんのその。
…やっぱり酔った。たった二駅目で眩暈と頭痛。
ウキウキも苦手には勝てなかった。
手元の文庫本から顔を上げる。向かいには、大きいリュックを足に挟み、膝には百貨店の紙袋、横幅のある体をなんとかロングシートの1マスに収めようとぎゅっとなっている男性。
幸い相手はジャンパーに顔を埋めるように眠っているので、目はあわずに済んだ。
頭を窓枠に預け、車窓を眺めながら、話したいことを頭に浮かばせる。
待ち合わせの駅まではあと3つ。
改札を出て、長い階段を下る。
舞台の幕が上がるように、昼間の駅前広場が映る。
あっいた。
木陰に立つ、鮮やかなコートのひと。
待ち合わせた人と目が合う、あの瞬間。それが気の置けない友だちであっても、くすぐったいような、少し照れくさい気持ちになるのはなぜだろう。
楽しい時間はあっという間。
コーヒーと軽食を食べながら、夢中になって話した。
たくさん名前を呼んでくれた。
うなずきながら話を聞いてくれた。
会えて嬉しいと目を見て伝えてくれた。
私も、伝えたいことを目を見て伝えられた。
別れ際、彼女の胸に顔を寄せた。
気がついたら自然に。
うんうん、と優しく手を回し、彼女もそれを受け入れてくれる。
やわらかくてあたたかい。
ずっとこのままでいたかった。
帰りも行きと同じ眩暈と頭痛。
けれど、少し違う。
多幸感に包まれた心地いい疲れを感じながら、電車に揺られる。
ああ。人のぬくもりを感じたのはいつぶりだろう。
またしばらく会えない寂しさよりも、彼女への感謝と幸せで心が満たされていた。