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人魚の沈黙

カフカは語る

人魚の歌声には抗えない
しかし歌声よりも強力な武器は
人魚の沈黙だとー

世俗的に喩えてみる
人魚があなたの恋人ならば?
あなたの妻ならば?

美しい声に抗えない
金切り声には辟易とする

しかしー
もっと怖いのは沈黙ではなかろうか


_智将オデュッセウスは
帆柱にその身を鎖で縛り付け
耳に蝋を詰め
人魚の歌声に抗った

鎖と蝋を信じきり
人魚に向かって船を進めた

『鎖と蝋など人魚の前では役に立たない』という俗説を信じてなかったのだ―

①思い込み

実際、人魚は歌ってなどいなかったのだ
人魚の沈黙はカフカの創作に過ぎない。

★私的考察

「思い込み」の力は心理的錯覚をうむ。見えないものを見させる。
オデッセウスには沈黙する人魚たちが、歌っているように見えた。

②「プラシーボ効果」:偽薬を与えると症状が回復する。

③「ゲシュタルト崩壊」:全体性が失われ、各部分に切り離された状態で認識される現象。


人魚の「沈黙」は失敗した。
_オデュッセウスに慢心や油断が生じなかったので、彼の船が岩礁にぶつかり木っ端みじんになることはなかった。オデュッセウスは彼がめざす「遥かな方へと一心不乱に目を据えていた。」_


_このとき人魚たちは、実に美しかった。彼女らは「決意に満ちたオデュッセウス」、「遥かな方へと一心不乱に目を据えるオデュッセウス」に見惚れ陶然としていた。_帰結。

別説
「智将オデュッセウスが煮ても焼いても食えないズル狐だ」という説もある。
彼は人魚の「沈黙」に気づいていたが、船乗りたちの慢心と油断から、船が岩礁にぶつかり難破するのを避けたかった。そこで「両耳に蝋を詰め、鎖で船の帆柱に身を縛って」一連の"芝居゙をやってのけた。

④「敵を欺くにはまず味方から」



カフカ(1883-1924)「人魚の沈黙」(1917)『カフカ短編集』岩波文庫(池内紀編訳)より

カフカは生前、死んだら作品を全て焼却して欲しいと依頼していしていました。

カフカの物語は
絶望の中から生まれた戯れであり
正解などありません。

謎を残し読者を放置。

わからないものを味わう、考えることを馬鹿げているのか
わたしは考えることに意味を見出だします。

愚考にお付き合い下さり
有り難うございました。


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