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クラブ活動と私#16-2:文化祭②

《これまでのまとめ》

※前回のあらすじ(!)※

マンガ主体の”薄い本”『キメラ』の原稿を
製本所に預け、次なる作業に移る創作部。
しかし、修羅場はまだまだ終わらない。


『キメラ』については、あとは製本を待つだけだ。

しかし、あれで準備が終わった訳では無い。
次に待ち受けるのは文筆集『寄木細工』の製本。
こちらは学校内ですべてを行なう。

まずは上がって来た原稿のワープロ打ちだ。
自宅で自分で作業を終えてくる人もいるが、大半は
部室にあるワープロでの打ち込みになる。
他に絵やイラストなどの作業がない人が担当する
ことになるのだが、これをほぼ任されていたのが
かくいう私である。
打ち込みながら推敲や校正も平行してやっていく。

「HAさん、これのこの部分なんですけど・・・。」
気になったところがあれば本人と相談して、場合に
よってはその場で修正していく。
HA先輩はTRPGのリプレイ制作に関わるプレイヤーの
1人であり、ブラックユーモアを交えた短編なども
書いている。
「”長き時の流れに~”より”長き時の流れの中に~”
  にしたほうが語呂が良さそうなんですけど、どう
  思いますか?あと”長き”と”永き”、どっちがいい
  です?」
この辺りのこだわりのせいで、ワープロ打ちをほぽ
専属的に任されるようになったのだ。
「K(私)くん、そこは任せるわ。」
「はいな!」

そうやって次々と手書きの原稿を活字にしていく
作業に没頭していくのだが。
「あ、インクリボン切れた。」
「え、あ、困ったな・・・。」
ちなみにこのワープロ、「表現の奇行子」氷子さんが
持ち込んでいる”私物”である。
「買いに行くにしても、今日は無理やもんなぁ。」
そう呟く氷子さん。すでに下校時間が迫っている。
今から電器屋まで行ってももう間に合わない。
明日授業が終わったらその足で一旦買い出しに
行くしかなさそうだ。

「Kちゃん、あとどれくらい掛かりそう?」
「この続きと、あと2本ですね。余裕みてリボンは
  3本欲しいかも。」
「うーん、予算が・・・。」
『キメラ』の製本だけでその大半を費やし、他の
備品なども含め文化祭のために部費はほぼ底をつく
ほどにまでなくなっている。
「しゃあない、やるか。」
「あ、じゃオレも出しますよ。」
何が始まるかというと、”カンパ”である。
有志から寄付を募るわけだ。

創作部は基本的に毎年”赤字”を出している。
『キメラ』はその製本にかかる費用に対してかなり
販売価格を抑えて出品しているためだ。
この規模の同人誌を即売会で売るなら普通は倍の
値段をつけている。そうでもしないと元は取れない。
こうした損失補填は毎回部員の”善意”で行なって
いるのである。


様々なトラブルに見舞われながらもどうにか
出来上がった原本。
これを印刷するのにコピー機では時間が掛かり
すぎてしまうため、職員室脇の印刷室にある
輪転機をお借りする。

デジタル印刷機(輪転機)。
サムネイルにある旧式の手回しの物を
自動で行えるようにしたもの。
プリントやテスト用紙の大量印刷に使われる。

しかし、これを使用するためには先生方の印刷の
合間を縫わなければいけないうえ、ライバルがいる。
『文芸部』である。
文芸部からしてみれば、我々創作部の”それ”は邪道
そのものである。自分たちこそが”王道”の文筆集を
作っているという自負があるのだ。
とはいえ、こちらも譲る気は毛頭ない。

「よかろう、ここから先は競走だ。」

どこかのエラそうな人がそんな事を言っていたか
どうかは知らないが、まさに”早い者勝ち”である。

こうした熾烈な競争を勝ち抜いても、まだ戦いは
終わらない。
あくまで印刷が終わっただけだ。
こちらは製本まで「手作業」である。

紙を半分に折る者。
折った物をページ順に揃える者。
揃えた物を製本用のステープラー(ホッチキス)で
がっちゃんがっちゃん留める者。

ギリギリの時間の中、部員総出の流れ作業が
ほぼ全員無言の中続いていく。

『キメラ』はその性質上”華やか”であるのに対して
『寄木細工』は一見”地味”だ。表紙ですら控えめの
挿し絵程度のものに留めてある。紙もざら半紙。
しかし、そこには『キメラ』同様、部員たちの心血が
注ぎ込まれているのである。

こうして創作部にとって命ともいうべき2冊の冊子、
『キメラ』と『寄木細工』は用意される。

あとは前日、部室の段取りをするだけだ。
しかし、これも一筋縄ではいかないのである。

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