クラブ活動と私#12:𝐻𝑎𝑝𝑝𝑦 𝑏𝑖𝑟𝑡ℎ𝑑𝑎𝑦 to 女子
《これまでのまとめ》
※前回までのおはなし?※
うちらの学年、男子>女子
先輩と後輩、女子>男子
歪な部員数にもなると、不思議な習慣も…?
創作部にはいつの頃からかとあるイベントが
度々発生するようになっていた。
女子部員のお誕生日になると、男子部員が
お金を出し合ってプレゼントを贈る、という
バレンタインデーのようなイベントだ。
創作部内は自然といくつかのグルーブに
分かれている状態だった。
私達TRPGリプレイ制作隊、マンガ・イラスト組、
美術部寄りの諸先輩方、文芸派、無党派層・・・。
あくまで固定ではなくその時々でグループを
移りながら各々が活動し、お手伝いもする。
同じグループで活動を続けていくうちに
仲良くなった女子にグループ内で男子が
プレゼントを贈る、それが定例化していた。
プレゼントをもらった女子は、そのお礼に
お手製のお菓子を振る舞ったりという側面も
あって、これもまた楽しみだった。
創作部というところはクラスではどこか
浮いているような所謂”ヲタクの集まり”。
そこにいるのは気弱なヲタク男子ばかり。
それでもそこは思春期真っ只中の野郎たち。
何かしら女子とお近づきになるキッカケは
ほしいところだ。
それがこうしたひとつのイベントとして
”具現化”したのだろう。
もちろんそうしてプレゼントを贈る男子の
中にはそのお相手が”意中の人”だったりする
ケースもあるわけだ。
そうなってくると俄然盛り上がる”面倒な”
人種が世の中には存在する。
『お節介焼き』である。
私なり、氷子さんなり、ネコマタさんなり・・・。
まぁこの人たち、とにかくそういう事に関して
アンテナが鋭く、そんな電波をキャッチしたら
首を突っ込まずにはいられないのだ。
プレゼントを渡す係はもちろん何かしらの
想いを秘めたその人になるよう仕向ける。
そのうえでどうにかお膳立てというかキッカケ
作りにもっていけないか考える。
まぁ大体上手くいかない。普通にプレゼントを
渡してその場は終わってしまう。
所詮ヘタレなヲタク男子の悲しい性だ。
じゃあ何がしたいのか。
首突っ込んでニヤニヤしたいだけである。(タチ悪いなヲイ!)
でも、うまくいってほしいとは思っていた。
これもいつの頃から言われ始めたのか、
創作部にはある”ジンクス”があった。
『部活内恋愛は、成就しない。』
誰かがこれを破らないといけないと思っていた。
そのためにも何かしたかったという思いはあった。
なお、女子から男子にというのはあまりなかった。
皆でお祝いしてもらえたのは部長のBAN太さん
くらいだろう。
誰が見てもお人好しで気遣いが上手く、いざと
いう時には頼りになる、若干ぽっちゃり気味で、
その見掛けからは想像できない可愛いイラストを
描く、部員全員から愛される部長だった。
他に女子から男子へのプレゼントとなると、
あとは個人的なやり取りだけになる。
そうなるとカンのいい人間が見れば
「告白してるのも同然」だったりするのだが・・・
3月某日。
間もなく3学期も終わろうとしている頃。
私たちはまたプレゼントを買いに出掛けた。
氷子さんにもアドバイザーとして同伴して
いただいた。
そう、今回お誕生日にプレゼントを渡す相手は
”玉ちゃん”である。
プレゼントは事前に相談して決めていた。
以前玉ちゃんが興味津々だった香炉とお香だ。
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物が物だけに近くの商店街というわけにも
いかず、みんなで大阪・梅田に繰り出した。
まだスマホなどもない時代。
「どこにあるんやろ?」などと手探りで
探し回って、ようやく取り扱いのあるお店に。
そこで「このデザイン可愛い」と氷子さんの
目に止まった香炉と、ネコマタさんから事前に
聞いていた(どこで買ったかもその時聞いとけ)
お香を購入、贈り物として包装をお願いする。
それを氷子さんは「頑張れ!」といわんばかりに
私に託してきた。”望むところ”だった。
帰り道、それぞれが自宅への最寄り駅で電車を
降りる中、私の最寄り駅で氷子さんが一緒に
降りた。普段氷子さんはこの駅で乗り換えて
1駅先の駅まで帰るのだが。
実はその日付き合ってもらったお礼にと、
氷子さんをお茶に誘ったのは私のほうである。
1年でヘタレん坊将軍も少しは成長したらしい。
ほとんど貸切みたいな喫茶店でクリームソーダを
2人で頼んだ。
そこでハッパをかけられながら、私は氷子さんに
もう一度買い物に付き合ってほしいとお願いする。
今度は”私個人からのプレゼント”を買うために。
氷子さんがヤバいくらいにニコニコしている。
(あ、オレもこんな感じなんかな?)
首突っ込みすぎるのもよくないな、と少し思った。
駅前の商店街を散策していると、露天で
アクセサリーを売っているお店があった。
そこである物に目が止まった私は、氷子さんに
「これ、どうですか?」と訊ねてみた。
氷子さんは目をキラキラ輝かせながら
「いいよK(私)ちゃん!絶対似合うと思う!」
と太鼓判を押してくれた。
当日。
「これ皆からと・・・あとこっちはオレからです。」
とんでもない速さで心臓が鼓動を打つ中、
私は玉ちゃんにプレゼントを”2つ”渡す。
玉ちゃんもK君同様、鈍感力の塊である。
この程度のアプローチでは、おそらく何も
気づいてはくれない。それでも・・・。
「わぁ・・・ありがとう。」
その笑顔だけで、充分満たされた。
後日。
春休みに入り、人もまばらな部室。
そこでリプレイを書いていると、後ろから
玉ちゃんに声を掛けられた。
「K(私)~ちゃん。コレ。」
そう言ってクルッと後ろを向いた玉ちゃん。
その髪は、紺色の大きなリボンが付いた
シニヨンネットで束ねられていた。
それは”私がプレゼントした物”だ。
「・・・どう?」
そう聞かれて、また一気に鼓動が速くなった。
「似合ってますよ、それ。氷子さんと一緒に
選んだんで間違いないです。」
私は”ちょっと余計な”ひと言を言った。
「ありがとね。」
そう言ってイラストを描き始める玉ちゃんの
後ろ姿を、私はずーっと眺めていた。
《浴衣姿についてはこちら》
1ヶ月後。
明日からゴールデンウィークを迎えるという中、
帰り際にさっきまで同じ卓を囲んでいた玉ちゃんに
呼び止められる。
「K(私)ちゃん、お誕生日おめでとう。こないだの
お礼に。」
たしかに明日は私の誕生日だ。
それにしても全く予想もしないところからの、
強烈な不意打ちである。
いつから玉ちゃんはシーフになって、
バックスタビングなんて覚えたんだろう。
そもそも玉ちゃんに自分の誕生日を教えた事なんて
なかったハズ。
「ビターなほうが好みって聞いて、そんな感じで
作ってみたから、お口に合うといいんだけど。」
・・・これは間違いなく氷子さんの仕業だ。
してやられた。絶対どこかでニヤニヤしてる。
「じゃ、また来週!」
そう言って部室を出ていく玉ちゃんの後ろ姿と
紺色のリボンを、私はしばし眺めていた。
玉ちゃんがくれたのは、少し甘さを抑えた
しっとりした感じのチョコレートスポンジケーキ。
これが本当に美味しかった。
あのスポンジケーキの味は、一生忘れる事はない。
《裏話》