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小雪舞う古都にて①”計画”:私小説「クラブ活動と私」

♪~~

口笛が聞こえる。
高らかに鳴り響く”ゼビウス”のファンファーレ。
金田かねだが迎えに来たらしいな。

アイツはいつも、ウチの前を自転車で通る時は
挨拶がわりにあの口笛を吹いていく。
無駄に上手いんだよなぁ、あの口笛。

「おう、かみちゃん!行こか。」


オレは上村かみむら 博昭ひろあき、Y高の1年生だ。

で、コイツは金田かねだ まこと
近所に住んでる幼馴染で親友、いや腐れ縁かな。

小学生の間は金田の親父さんの仕事の都合で
しばらく離れ離れだったけど、幼・中と同じ学び舎に
通い、この春からは晴れて同じ高校へと進学した。
中2で同じクラスになった時、コイツのおかげで
オレはテーブルトークRPGの世界に飛び込んだ。
3年の時の担任にはもう1ランク上の高校を
勧められたけど、コイツや同じ卓を囲んだ友達と
一緒に居たくて、オレはY高を選んだんだ。

だからって、まさか学校でダイスを振ることに
なるとは思ってなかったけど・・・。


入学して間もない頃。
放課後に新入生向けに行なわれたクラブ見学会。
そこで見たのは『創作部』という聞き慣れない
クラブ名と、華やかに展示された絵画やイラスト。
そして書道室にはまったく似つかわしくない
彩色されたメタルフィギュア。

それからオレや金田は、テーブルトークRPGの
リプレイやそれを元にした短編小説なんかを
書くために日々部室でセッションをしている。
始めた頃は一部の先輩方には睨まれたなぁ。
傍から見れば遊んでるようにしか見えないし、
まぁ仕方ないんだけど。
でも毎月の『お題』はちゃんと提出してたし、
金田なんかそれとは別にイラストなんかも
描いてたんだから、部活の趣旨には沿ってる
ハズなんだけどね。


金田の親父さんはデザイナーだ。
金田もその道を進むためにとにかく頑張ってる。
天野喜孝先生みたいになりたい、とは金田の口癖。
夢があるっていうのはいいよな。

オレなんか何も考えてないわ、将来のこととか。
今はこの部室に来て、帰りにゲーセン寄って、
たまにカラオケなんかも行ったりして、毎日が
楽しければそれでいいか、って感じ。

それにしても、金田は創作部だと何故かモテる。
今までこんなことなかったのに。
まぁ周りからはどこか”ズレてる”ような独特の
センスと、それすらアドリブで活かすトーク力は
確かに人を惹きつけるものはあるのかな。
オレは普段あまり自分から話すほうじゃないから、
コイツのこういうところには助けられてるし。

おちゃらけてるように見えて、結構気遣いも
出来るんだよなコイツ。
そういうのが女子ウケしてるのかも。

なのにコイツときたら、恋愛のほうはからっきし。
自分がそういう対象になってるとも、誰かを
そういう対象にしようとも、全く思ってない。
だからこそ異性を意識しないで話せるんだろうし、
それが幸か不幸か”モテ”に繋がってるんだろうか。

少しは幼馴染のオレの身にもなってくれよな。
オマエ宛ての恋愛相談、全部オレのところに
来てるんやからさ。
って”超”鈍感なオマエが気付く訳ないんやけど。


かみちゃん、今日ってホンマにオレ要るんか?」
駐輪場から駅へ向かう途中、金田が聞いてきた。
「当たり前やん。オレ1人で先輩2人の相手なんか
出来ると思うか?」
「そうやけど。えぇんちゃうのハーレムでも。」
金田が冗談っぽく笑う。
どの口が言うとんねん、と言ってやりたい。

「カンベンしてくれ。間が持たへんのはオマエかて
わかるやろ。」
「そやなぁ、かみちゃんやもんなぁ。」
「わかってるんやったら助けてくれや。」

などとその場でそれらしい理由を取り繕う。
オレにはコイツを是が非でも連れて行かないと
いけない理由が他にもあった。

待ち合わせ場所は京都方面行きのホーム。
オレと金田の最寄り駅は急行が止まる乗換駅だ。
こうした時の待ち合わせには丁度よかった。
ホームに向かい階段を上がっていくと、そこには
すでに先輩が1人待っていた。

「金田くーん!かみちゃーん!」
そこに居たのは小塚こづか先輩だ。


小塚こづか めぐみ先輩。創作部の2年生。
ペンネームは『表現の奇行子きこうし・氷子』。

大きくパッチリとした目とスっと通った鼻筋、
厚めの唇がチャームポイントの、どことなく
異国情緒漂うエキゾチックな雰囲気のなかなかの美人べっぴんさん。
その雰囲気に違わず情熱的な一面もある。
明るくて積極的で、諸先輩方の中ではちょっとした
ムードメーカー的な存在。
情に厚く、細かいところまで配慮の出来る、
思いやりにあふれた先輩だ。
時折オレたちと一緒に卓を囲んでダイスを振る
こともある。そこでのロールプレイはいつも
熱が入っている。セッションの様子を録音した
テープからリプレイを書き起こす時、小塚さんが
参加しているといつもクスッと笑ってしまう。

小塚さんは今回の京都行きの”仕掛け人”でもある。


2学期もあと1週間という12月の半ば。

小塚さんから皆で「二年参り」に行こうという
提案が持ち上がった。
場所は京都、八坂神社。
その場に居た部員のほぼ全員が賛成し、集合場所や
時間などを決めていった後、小塚さんがオレの
ところに話を持ち掛けてきた。

かみちゃん、1度京都まで下見に行きたいんやけど、
付き合ってもらえる?」
いつも”色々と”お世話になってる小塚さんの頼みだ。
断れるワケがない。
「いいですよ。2人でですか?」
それはそれで少しばかり緊張しそうかな、などと
思ったら小塚さんの返しは予想の上を行っていた。
かみちゃん、金田くん誘ってくれる?
私も”ちーぱん”誘ってみるから。」

そういうことか。
小塚さんの狙いは金田その人。
そして”ちーぱん”こと松川まつかわ先輩はオレの”憧れの人”。
夏祭りの時に小塚さんが撮った松川さんの浴衣姿。
その写真の焼き増しをお願いしたのをきっかけに、
オレと小塚さんは”共同戦線”を張っていた。
これは下見という名のいわゆるWデートの計画だ。

「これ、どっちの企画が本命なんです?」
オレはわざとらしく小塚さんに聞いてみた。
「そりゃもちろん、どっちも。」
満面の笑みで応える小塚さん。
まだ残り2人、声も掛けてないけど・・・。
この人には敵わないな、そう思わされた。



小塚さんと合流し、3人で雑談モードに。
金田をイジる小塚さんと、それにツッコミやら
ノリボケやらで軽妙に返す金田。
いつもの光景だ。
オレは話を振られない限り、ただ聞くだけの
立ち位置へとシフトした。
ここはオレの出る幕じゃない。

「なんでやねん!」
微妙にイントネーションのズレた、宮崎弁混じりの
おかしな関西弁でのツッコミにオレと小塚さんが
思わず吹き出す。
その時だった。
さっき上がってきた階段にそのまま背を向けて
立っていたオレの後ろから声がした。

耳心地のいい、優しい声。

「お待たせ~。」
乗換の都合、隣りのホームから移動して階段を
上がってきた松川さんがそこに居た。

心拍数が徐々に上がっていくのを感じた。


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