見出し画像

untouchable

布団の中で10数えたら地球が爆発するんだというのは、思いつきでも気づきでもなくて、外から降ってきた声で、8と9を死ぬほどゆっくり数えて、バクバクの心臓で10を唱えても、辺りは静まり返ってて、おかしいな、これは逆に私が刹那的に天国へ移送された状態なのではなかろうか、それにしてもあの世とこの世って寸分違わないつくりになっているんだな、私の名を呼ぶ母の声まで全く一緒ではないか・・・とここまで考えてやっべ遅刻しそう、とハッとするときの感じ。別に夢を見ていたわけではないし、アイドルになりたいとか欲をもって妄想していたわけでもないのに、現実に戻ったときに空しくてでもなにが空しいのかわからない、爆発願望も特にないし、ただ、あ、現実って思うだけのあの感じ。

萌絵は二つ上の大学院の先輩のことが気になっていた。二言くらいしか話したことがないから、先輩に恋人がいるかどうかもわからない。同回の男子を使って聞き出そうか、他の先輩に聞いてみようか、と毎晩作戦を立てていて、その時は、この手ならいけるぞと根拠のない自信が漲るのだが、実行されたものは一つもない。ゼミで後方の席をとって、先輩の後ろ姿をいざ眺めると、その偉大さに、申し訳なくて仕方がなくなるのだ。朝どれ程時間をかけて支度をして、満点でドアを開けてきたとしても、実物を目にすると、「先輩」というのがどういうものかを悟ってしまう。
そしてフラれてもないのに傷心で帰宅して、爆食してしまう。昨日は今日のゼミで先輩とすれ違う一瞬のためだけにジョギングができたのに、今日はお風呂に入る気力すらなくて永遠にパンを貪っているんだ。あーあ、こんなことなら失恋してしまいたいのに。それかニトログリセリン。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?