SWIM MEETS THE FUTURE ~若者よ、泳げ!(世界水泳を見に行った話)~
本当は競泳選手になりたかった。
学生時代は、決勝で入場する瞬間の高揚感が、どんな高級な三度の飯よりも、正直当時の恋人よりも、一番好きだった。
選手時代はひたすら、強烈に、競泳にそして青色の世界に憧れ恋焦がれていた。
ただただ実力が伴わなくて結局違う道にいったけれど、今でも競泳は好きだ。
世界水泳は、夏季オリンピックの前後年におこなわれる大会で、水泳選手にとってはオリンピックに次ぐ非常に重要なレースである。
福岡大会は本当は2021年開催予定だった。行く計画もたてたのに、コロナで延期となってしまった。そしてようやく、2年越しの開催となったのだった。
今年は個人的に行きづらかったのだが、世界大会の国内開催なんて滅多に見れるものではないからと、学生時代の部員数名となんとか行くこととなった。
国際大会というものに行くのが初めてだったのでワクワクだった。
そんな時一緒に行く女子の後輩Aからlineがきた。
「福岡いくなら浴衣きませんか??今Bとも着ようって話してて^^」
??????
あれ、福岡ってそんな場所だったっけ??
でも、なんか二人も浴衣着ようと思うなら、もしかしたらそういう場所だったのかもしれない。なんか古い都だった気がしてきた。
急に自信が無くなった私は「私は実家探さないと無いと思うからもっていかないけど、二人きてくれていいよー」と無難な返事だけした。
いざ、FUKUOKA
世界水泳は会場についた瞬間から楽しかった。
会場前には協賛企業の出店?みたいなものがワラワラしていてお祭り気分だし、いろいろな世界水泳グッズが売り出されていた。有名選手の集合写真がデーン!!と張り出されている。あとキャラのシーライちゃんとなんとかちゃんがなんとも可愛い。そしていかつい海外の選手とコーチもグッズショップや道をやたらうろうろしている。うおお、国際大会パワーすげー・・・!
もちろん本題のレースも迫力があって家族かチームの一員かのように思わず声を出して応援してしまった。テレビの方が、選手や試合を一番間近で見れる&プロの解説も入るから良いという側面もあるのだろうけれど、この空間そのものに身を置いていることって全然違う。初日のレオンマルシャンの個人メドレーは本当に圧倒的だった。フェルプスの最後の記録を、彼はついに打ち破ったのである。怪物にも、本物が、いる。
※ちなみに私の推しは圧倒的に本多灯です。本当にかっこよかったです。結婚してください。
いざ、帰途
興奮冷めやらぬ中、私は思わず買ってしまった大量のグッズを抱えながら、みんなと帰途についた。
あ、そういえば。
「浴衣、結局やめたの?」
後輩Bは少し笑った。
「やめてないですよ。持ってきてますよ」
え、本当に。怖い・・・。
「観光地だからイケるって思ったんですけど福岡ってそういう感じじゃなかったですね」
後輩Aが混ざってくる。
「私も今持ってるんですけど、私着付け出来ないので、着れないんですよ」
ますますなんで持ち歩いてるんだ・・・。
部員たちとお別れし、日が沈んでも熱が醒めない福岡の街並みを一人歩く。
大きくなるって、自分ができないことを理解していくことでもあったよなあと思う。
どんなに必死に泳いでも、自分より先を泳いでいる人が視界に入るとき、私は何を思っていたんだっけ。
自分が必死になってもがいてもがき続けてやっとたどり着いた場所を、最初から超えていく人がいる。
そうやって削り落ちていったところに、手元に残っている何かがある。この人もっとこうしたらいいのにな、これはもっとこうすればいいのに、と誰に言われずとも思えるものがあった。そのくせ、なんで分かるのか自分でも分からない。ああ、これは自分の得意分野なんだ。と10年以上たってから気が付いた。
総括
日本選手も海外選手も、何かを極めている人って本当に尊い。
選手全員の日ごろの努力が全て報われるのは無理な話なんだけど、本当に、報われてほしいと選手を見ていると思う。
お疲れさまでした。
競泳は大変な面も多くあるんだけど、時折青の世界の中を滑っているような美しさにとらわれる瞬間があった。その世界をみる時、私は他の全てのものがどうでもよくなって、ただひたすらにその中をかき分けて、ぐねぐねとゆらめく陽の光をあびて、息をしていたのだった。
そういう時はタイムもよく出たものだったなあ。
帰ったら、久しぶりに泳ごうか。お土産の、世界水泳のキャップをかぶって。