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複雑性トラウマ<30年前、体に刻み込まれた痛みの記憶②>


→続き (写真 マトリックスリローデッド)

私は、覚悟を決めた。

私は、もう、殺されるんだ。

死ぬんだ。


脅威が、ずっと向こうから、襲ってくる。

なにか分からない、得体の知れない敵だ。


私よりもずっと大きく、姿は見えない。

だけども、近づいてくる。

私に侵入してこようとする。


(・・・・・やめて。)


声が出ない。


私の声はもうかすれて出てこない。



(・・・・・こないで)



その脅威とも言える大きな敵は、

まるで大群かと思えるくらいに

一気に増殖した。



真っ黒な人影。

無数の大群となり、こちらへ走ってくる。

襲ってくる。



50m・・・


(・・・・こないで)


10m・・・


私はうずくまった。


ぎゅっと目を閉じた。


体をこれでもかと

強張らせるしかなかった。



(もう、終わりだ。終わった・・・)


恐怖と絶望で意識が飛びそうになった、

そのとき。


パァン!!!!


と、その脅威が弾かれた。


(!? 何が、起こったの・・・?)



次々に襲いかかってくる、

その黒い人影達は、


なぜか、「私」から弾かれ遠くに飛ばされている。


集団で襲ってきても、

まるごと弾かれて吹っ飛んでいく。


私は恐怖に怯えてしまって、目を開けるのも怖かったけど、

おそる、おそる。


ちらりと横目で見てみた。



バリアが張られている・・・??


私の周り、半径1mに透明なバリアがあり、

そこに触れた黒い人影から吹っ飛んでいっている。


私は何が起こったのか全く理解できなかった。


黒い人影は数が減ることはなく、

どんどん増殖して襲ってきている。


だけども、それらは誰一人、

私に触れることなく吹っ飛んでいってる。



(え・・・)


身も心もボロボロの状態である私が、

その弱い気管支で、浅い呼吸を一つ、また一つと繰り返すと

そのバリアは1m、2mとどんどん大きくなっていく。



どんどん、安全地帯が広がっていくのがわかった。


(ど、どうなってるの・・・?)



すると、地平線の遠くから光がさしてきた。


・・・朝日だ。



薄暗い空の中、

黒い人影が大群で襲ってきてはいるが、


その隙間から、一筋の光が差してきた。


私自身はもう、ズタボロなのはわかっていたから、

その場にうずくまるしかなかったけど、

その光がどうなるのかを

ぼうっと見ていた。



その光はどんどん太くなり、

やがて黒い人影を全て焼き尽くしてしまった。


耳がつんざかれるほどの

壮大な悲鳴をあげて、

その脅威たちは泣き叫んだ。


そして、朽ち果てて焼かれ、

次々に消滅していった。




(・・・・・ッ)

私は、絶望の叫びに耳を強く押さえた。


もう呆気にとられて

呆然と見守るしかできなかった。



何が、起こったのか分からない。


しばらくたち、その光で私は包み込まれた。


バリアは、まだそこにあるらしい。


若干の空間の歪みがある。


透明なその境目が、揺らいでいる。



・・・と。


どこから来たのだろう。


今度は小さな妖精が遠くから飛んできた。


そして、何やらステッキを振り回している。



遠く、上空で、その妖精はキラキラと

光りながら、慌ただしく飛び回っている。



ーーーここから妖精の視点ーーー


「んもう〜なんなのよ一体!

こんなに酷い状況にして!!

誰よ!ここまで放ったらかしにしたのは!」


プンスカ怒っているその妖精は

ティンカーベル。


まだ精度が高くないのか、

ステッキをぶんぶん振り回しているが、

そこから出てくる魔法の粉の量は安定していない。


たくさん粉が出るときもあれば、

ちっとも出ないときもある。



「もう〜〜〜こんな広大な怪我、

治すの大変なんだからね!!」


ぶつぶつ言いながら

ステッキを振り回す。



それを、離れた場所から

美しい女神が苦笑しながら見守っている。


ティンカーベルのステッキから放たれる

魔法の粉は、地上に到達して少しずつ、

白く雪のように積もっていく。



2時間、経っただろうか。


その間ずっとティンカーベルは

ステッキを振り回していて、

だいぶ疲れてきたらしい。


もう飛び方もヘロヘロになってきている。


が、ステッキから出る粉の量は

格段に増えて、もうどっさりと地面には

白い粉が降り積もっている。


「さあ。お疲れさま。

そろそろ魔法をかけるわね。」


女神はティンカーベルに声をかけた。


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