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ロボット・ドリームズ(ネタバレあり感想)

話題のスペインアニメ映画、ロボットドリームズを視聴しました。
画像は池袋グランドシネマ。雰囲気があって素敵な映画館ですよね。


これは、まさしく芸術ですね。一つとして「無駄」がない、素晴らしい。
キャラクターデザインの少しレトロさを帯びたシンプルな線と色彩、しかし表現されているところの「演技」は現代的に感じました。
そしてその「レトロさ」も物語に説得力を与えるのに一役買っています。それは作品の舞台が1980年代のニューヨークだからというのもありますが、この舞台設定もまた物語に必要不可欠な要素になっているのです。

言葉一切なく動作で心情を表現しているのですが、それゆえに「動作」がとてつもない熱と色気を醸し出している時があり、かわいらしいのにどこかセクシーという印象を与えます。

まさしく、大人のためのアニメーション映画。とても素晴らしいです。

ここからネタバレあり感想

主人公のDOGはちょっと抜けたところがあるけれども心優しい人物です。DOGは一人で過ごすことに飽きて、テレビCMで見た「友達ロボット」を通販し「友達」をお金で買うことにするのですが、DOGのベッドの横にはロボットのフィギュアがいくつか並んでいて、元々DOGがロボットに対して何か親しみと愛情を持っていたことが示唆されています。

そして実際にロボットがやってくるとDOGは早速あちこちに連れ出し、まるで親友のような、恋人のような存在として扱い、大切にします。
ロボットもそのことに気がついていて、DOGに対して大きな信頼と愛情を持ち、自由気ままにDOGと時間を過ごしていたのですが。
海水浴場へ行ったその日、悲劇が起こります。

そもそもロボットなのに潮水大丈夫なの?と思ったらやっぱりダメだったみたいで、ロボットは機能不全を起こして動けなくなってしまうのです。
この時のDOGの必死の動きと表情、一度ロボットを置いて自宅に帰らなければならないと決意し、ロボットを見つめるDOGの表情のエロティックなこと!あのシーンは本当に素晴らしいと思います。
あのシーンだけ切り離してずっと眺めていたい。

さらに最悪なことに次の日ロボットを修理する道具を持って海水浴場へ向かうも「6月の海開きまで立ち入り禁止」と柵で砂浜が閉鎖され、DOGはロボットのもとに駆けつけることができません、ありとあらゆる方法でロボットの救出しようと試みるも、最後には警察にまで捕まり、あえなく「来年の6月まで」ロボット救出を諦めざるおえませんでした。

この時「スマホがあれば!」と思いましたが1980年代なのでスマホはありません、近くの公衆電話も故障していたので配達も頼めないのです。
その後も海岸への一時出入りが市役所に不許可とされたりとか、周りの人たちが冷たすぎるような気もした。こんなに愛情を込めて必死にロボットを助けたいDOGを誰も助けようとしない。ひどい。SNSで拡散したい。

でも1980年代なのでインスタもXもブルスカもないという無情。悲しみ。

そんな中まだ世間知らずのロボットは「いつかDOGが迎えに来てくれること」を信じて、動かない体に顔だけは微笑みを湛えて。寝そべりながら毎日を過ごします。
でも、やっぱり大好きなDOGの元に帰りたいんですよね、ちょくちょくファンタスティックな夢をロボットは見ます。
DOGの元へ帰る夢を。
しかし、いつも夢の中でDOGとは再開できず、どんなに素敵な夢を見ても最後は厳しい現実に戻るだけ。
途中、海岸に人(ほかの動物の姿をしているが)がやって来て「助けてもらえるかも」と思ってもそれはロボットの都合のいい夢でしかなく。誰もロボットを助けてくれません。それどころか足をもいだりします。ひどい。

DOGはDOGでまた「一人の日常」へ戻り、ハロウィンやクリスマスなどのイベントごとをそれなりに楽しんでいますが、ふとした瞬間にロボットのことを思い出してしまいます。
夢だって見ます。それはロボットの見る甘い夢と重なって、素敵なハーモニーを紡いでいるのですが。これは彼らがお互いに「思い合う」ことでダンスを踊っているということなのかもしれない。
そして視聴者である私も、「もしもDOGとロボットが過ごすハロウィンやクリスマスがあったなら」と夢想してしまう。そういう、美しい祈りのような「夢」のワルツを踊る。そんな作品なのです。

二人は、ただお互いのことを考えていたばかりではなく。ロボットには渡り鳥の親子と過ごした時間があり、DOGはDUCKという彼女といい感じになってもう少しで恋人になれるかも、というところまで進むような展開もあります。お互いに、きちんと「自分」を持つ時間が設けられているんですね。
そこがね、ラストに向けて、いい塩梅に効いてくるんですよ。

なのでロボットがスクラップ場に連れていかれバラバラになった時は「どうか悪夢であってくれ」と願わずにはいられなかった。でも、そういう残酷な事件ほど現実だったりするんですよね。

DOGはロボットがスクラップ場でバラバラにされたなんて知らないで、6月にはロボットを救出するためにまた海岸に行って、必死にロボットを捜索します。でも、そこにロボットはいないんです。
そうして、DOGはロボットを諦めるという決断を下すことになります。

そして、もう自分のロボットはどこにもいないと諦めがついたDOGは、展示品としてサービス価格になっていた別のロボットを購入することにします。
以前よりもずっと慎重に、大切に新しいロボットを管理し、海の中にも絶対に入れません。
きっと新しいロボットはとても満ち足りた気持ちになっているでしょう。


バラバラにされたロボットはどうなったかというと、ある日DIY好きのラスカル(アライグマ)に買われ、ラジカセのボディを与えられ復活します。
ロボットはラスカルの愛情を受け、また無邪気に楽しく毎日を過ごし始めるようになりました。

二人は結局再開できないまま、それぞれに幸せな日常を手に入れるのです。

しかし、ある日ロボットは見つけてしまいます。新しいロボットと楽しそうに過ごすDOGの姿を。その瞬間ロボットはDOGに会いたい!という気持ちが爆発し、走り出しますが。それは夢で、夢の終わりにラスカルが自分に笑顔を向けてくれるのです。
ロボットはラスカルが与えてくれたボディと、自分のために編集してくれたカセットと、ラスカルのカセットを見つめます。
なので、DOGがロボットに気がついた時は、姿の見えないところに隠れるんです。ロボットはもうラスカルを裏切れないし、新しいロボットがDOGのことを愛しているのをわかっているから。

でもね、この時のDOGの必死の表情がね、本当に愛情に満ち満ちていて。あの夏の日にロボットを置いて行かなかればならなかったときと同じくらい。エロティックな表情をしているんですよ。
DOGは本当にロボットを愛していたんだと思います。そしてそれはきっと、永遠に変わらない。
それでも二人はもう出会わないことにしたんですよね。ロボットはきっとラスカルと、DOGは新しいロボットと、これから人生を歩み、添い遂げていくんでしょう。

素晴らしい傑作をありがとう

これはこの擬人化された動物たちと、ロボットというキャラクターでしか編み出すことのできなかったストーリーで、全てがそのために存在しているような作品でした。

DOGがロボットを見つめるエロティックな表情は、ギリシャ哲学の名著『饗宴』で語られるところの「偉大なるデーモン」としてのエロスを思い出させました。
互いが引き合う力、そのもの、その神秘性ですね。ここでしか観れない素晴らしい「愛の物語」を観賞させていただきました。

キャラクターとアニメーションでしか表現できないものがここにはある。ぜひ機会がある方はスクリーンで楽しんでいただきたいですね。


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