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感じる万葉集

 図書館から借りている一冊を読んでみました。読書感想文です。
「感じる万葉集」 上野 誠 著

 「雨はシクシクと降っていた。」擬音語や擬態語(オノマトペ)が今とは少し違いますが、それらが万葉集ではたくさん使われ、今の日本語に影響を与えている。そんなことを感じて欲しいとこの本には書かれています。ちなみにシクシクとは物が重なり合い、しきりにとか絶え間なくという意味で奈良時代に使っていたのだそうです。
雲もシクシク重なり、恋心もシクシク募っていったとか。

 万葉集では当時の日本人の感性などもわかるようです。こと、日本においては春は花、秋は紅葉を愛でることが定番。春の花というのはどの国でも愛でていますが、紅葉の美しいカナダであってもわざわざ紅葉を観に行くという習慣はない。古来より関係の深かった中国もしかり。中国から学び「文集」なくして、万葉集なしと言い得る書物でも、万葉の人々が百科事典のようにしていた「芸文類集」にも片手ほどしか秋の紅葉については記されていないという。そこにきて万葉集では40以上の歌が詠まれている。日本人は昔から秋や「もみじ」を愛でていた国民性であるようです。
 ちなみに、秋は悲しいもの、老いを嘆くという認識のあった中国では「黄葉」と表現され、明るい紅や赤の「紅葉」となるのは日本の平安時代頃となってからと菅原道真が詩にも使われていることから推察されるそう。
万葉集の歌は和歌や俳句へとつながっていくのです。

 また虫の声を「ノイズ」ではなく音と感じられるのは、萩と鹿の鳴き声を秋の情景としてをセットで歌を詠むというように当時の教養としてトレーニング、学習習慣として万葉集の時代から身に着けてきたこと。その練習の積み重ねがシクシクと日本人の感性として育まれ現代に受け継がれている要素のようです。だからこそ「言葉の響きや感覚」、日本語の表現を楽しんでほしいという一冊。原文と新訳も合わせて読むことができます。

 なぜか昔から万葉集にひかれるところがありまして、額田王が好きだったんですよね~。なんともドラマチックというか豪胆な人生を送られたようで
「茜草指す紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」
この恋の歌は遊び心で宴会の席で歌われたらしいですが、天智天皇の妻でありながら、昔の夫、大海人皇子と恋のやり取りを今の夫の前でするという。
(事情が許せば英文科じゃなくて国文科に進むのもアリだったとは思う…)

 歌の内容はともかく、とてもカラフルで美しい情景が浮かび上がる詩だなぁと思っていました。昔から色彩に惹かれるところはありましたけれど、
それだけでなく古のロマンに触れられるのは素敵なことですね。


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