いのちの約束
子どものころ白黒戦争映画をテレビでよく見た。母親が見るから見ていた。
ナチが出てくる映画だと、ユダヤ人を並ばせて銃殺するシーンがある。
第三帝国にかぎらない、むかしの映像作品では、無法者が捕らえた人たちを並ばせて殺すシーンがよくあった。いまはどうか知らない。
殺すために並ばせた人たちの中から、彼らの生殺与奪の権を握る邪悪な者が、おい、お前、とひとりを選ぶ。
選ばれた人を手下が乱暴に引っ立てる。
お前に銃を貸してやる、こいつらを撃て。
撃てばお前は助けてやる。
バリエーションはいろいろあり、集団を並ばせるだけじゃない。
拉致した人に、裏切り者を、密告者を知っているだろう、言え。言えばお前は助けてやる、とか。
肉体的拷問もある。
人間はいのちが大切なのはもちろん、信義も大切だ。
信義はいのちに根ざしている?
いのちの約束──あなたを殺しません。
こいつらを殺せばお前は助けてやると持ちかけれた人にとって、「こいつら」はたまたま一緒に捕まっただけの見ず知らずの赤の他人だとしても、はいそうですか、と反故にするような約束ではない。
「提案者」はそれを知って提案しているのだから、邪悪な上にも邪悪だ。
いのちの約束を破った人は、子どものころ見た映画にはいなかったと思う。
50年くらい、考えつづけている。
わたしがこの人なら、わたしはどうするんだろう。
希望は、約束に忠実なふるまいを自分にしてほしい。
拷問には絶対耐えられないと思う。
そんなことになりませんように、そんなことになりませんように、祈るしかない。
ヒトラーに抵抗した人々
ドイツの人たちは敗戦後忍耐強く第三帝国と向き合ってきたと、読みもするし、ドイツがヨーロッパで重要な地位にあるのは、世界情勢に疎くてもさすがにわかる。ドイツが認められているのは、ドイツがいい加減にお茶を濁してこなかったからだ。
そのドイツにしても、敗戦の国民たちは憑き物が落ちたように第三帝国を忌まわしく思ったわけではなかったと、この本を読むまで知らなかった。わたし(たち)は遺体の山の写真を見たし、絶滅収容所を生き延びた骸骨のような人たちの写真を見た。当然ドイツの人たちも見たはず、ヒトラーへの熱は一気になくなったはずと、考えるともなく考えていたんだとわかった。
人間はそんなに簡単じゃない、それはそうだ。
連合国の占領方針などさまざまな事情もからみ、ヒトラーに抵抗し、処刑された《七月二〇事件》の人々の遺族たちは、「裏切り者」として敗戦後も苦難の道を歩まざるを得なかった。
でも負けなかった。自暴自棄にならなかった。
人生の選択
天使のガブリエルが、デーケン少年のお話を聞いてきてほしいと神さまに頼まれ、少年の好きなネコの姿になって会いにいくところからはじまり、はじまり・・・
父さんと母さんのいる台所
これを読んで、本を買うと決めた。ごはんの時間が楽しかった人なんだ🎵
食後、居間に集まってお祈りをし、最後に父さんが必ず言う言葉。
人が消える
フォン・ガーレン司教がミサの説教で、町からお年寄り、心を病んだ人、障がいのある人が連れ去られ、あとから家族に死亡通知が届くことを話した。
父さんはある晩、家族全員にこの話をしてくれた。
「ヒトラーに抵抗した人々」で、教会は(ごく一部を除いて)ナチに屈しなかったと読んだ。
ある日、父さんはロシアで戦っているドイツの兵士たちに、司教の説教を送りたい、それをアルフォンスに手伝ってほしいと話した。
となり町のポスト
アルフォンスはとなり町のポストに父さんに託された手紙を投函する危険な任務を果たし無事帰ってきた。
手紙は届いたらしく、またヒトラーは司教を恐れていたこともあり、「安楽死」作戦は一時的におさまった。
パウラの死
母さんの作るケーキ
母さんは子どもたちの注目の中、ぴったりと同じ大きさにケーキをきりわけた。死んでしまったパウラを入れて7人きょうだいなので、ケーキは鋭い二等辺三角形だった。
しばらくするとパウラの分を切り分けない、ゆるやかな二等辺三角形になったが、アルフォンスは鋭い二等辺三角形の時代のほうが幸せだったと思った。
女の子が誕生し、父さんはその子をパウラと名づけた。
わたしは夭逝した姉の名をつけられたパウラが気になる。
ネコは笑うのか
アルフォンスの12匹のネコたち。
「人間は、笑うことのできる唯一の生き物だ」と父さんが言ったのでアルフォンスは実験で確めることにした。ネコたちに変顔を見せて笑うかどうか。
親友のゲオルグ
空襲警報が鳴り、アルフォンスの家族は地下にある防空壕に避難した。
爆撃機が去り外に出たアルフォンスはゲオルグの家が燃えているのを見た。
「戦争は、気づいたら始まっていたのだ。」
《ぼくは行きません》
アルフォンスは血が引いて言葉が出なかった。いぶかしんだ校長が、「なぜ喜ばないのだ?」と問う。
アルフォンスは養成学校に行かない本当の理由を言わなかった。父さんがナチに連れ去られることになるから。
このページの下に、アルフォンスが暮らしていた町では当時、収容所で「ユダヤ人が殺されていることを知る人はいなかった。」と記されている。
12歳のルドビコ茨木(いばらき)
ナチのエリート養成学校への入学を断ったアルフォンスはクラスメートにいじめられ、ひとりぼっちになった。
家の近くの教会で祈っていたら、神父さまが「アルフォンス、どうしたの?」
神父さまは話を聞き、「教会の図書係をしませんか」ということで、アルフォンスは図書係になった。本を読む時間もいっぱいあって、日本26聖人のひとり「12歳の殉教者ルドビコ茨木」の本と出会う。
うさぎのように逃げる
学校の帰りにアルフォンスは戦闘機の機銃掃射を受けた。もうおしまいだと思って、野原に全身を投げ出し時、右の耳を弾丸がかすめ、もう一発が心臓のすぐそばの土にめり込んだ。
《ぼくは聞いています》
九死に一生を得た日からアルフォンスの思いは命の源へ向かっていった。
心に、かすかな呼びかけが聞こえた。
森でねころんでいると、木々のあいだから青空が見えた。
森を作ろう
父さんは長男には自分の不動産業を継いでもらい、アルフォンスには弁護士になってほしいと願い、広大な土地を買ってくれた。父さんとアルフォンスはその土地にポプラやカシワなどの苗木を植えた。
父さんと苗木を植え続けるアルフォンス。神さまの呼びかけが次第に確信へ変わっていった。聖フランシスコ・ザビエルのように日本に行き、神父になりたい。
父さんはアルフォンスの決心を喜ばなかったが、反対しなかった。
美しい冒険
アルフォンス・デーケン神父の追想
デーケン神父は青年の時から、近くの森を散策しながらノヴァーリスの詩を朗読したそうだ。聞き手は友だちや兄弟。
ノヴァーリス「夜のうた」は6部構成で5番目の最後が今(2018年8月3日 86歳の誕生日)の気持ちと一致してます、と。
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