『二十日鼠と人間』:1992、アメリカ
季節労働者のジョージ・ミルトンは相棒のレニー・スモールを連れて追っ手から逃亡し、身を隠してやり過ごした。2人は夜を待って汽車に無賃乗車し、町に到着した。レニーが行き先を尋ねると、ジョージは「牧場へ働きに行く」と答えた。彼らはバスでソールダッドまで行き、運転手が「すぐ近くに牧場がある」と言ったので下車して徒歩でタイラー牧場を目指すことにした。
レニーは知恵遅れで、ジョージが何を教えても簡単に忘れてしまった。ジョージはレニーに、「今度は忘れるなよ。労働カードを貰っただろ」と釘を刺す。労働カードをレニーが紛失しないよう、ジョージは彼の分も預かって管理していた。
ジョージはレニーがポケットにネズミの死骸を入れていると知り、捨てるよう要求した。レニーは「歩きながら撫でてるだけだ」と言うが、ジョージは奪い取って投げ捨てた。レニーが泣き出すと、彼は「意地悪したんじゃない。あのネズミは不潔だ。綺麗ならいい」と告げる。
レニーが「代わりのネズミをどこで手に入れるんだ?いつもネズミをくれたレディーもいない」と話すと、ジョージは「彼女のことまで忘れたのか。お前の叔母のクララだ」と呆れた。レニーはクララが死んだことさえ覚えていなかった。
牧場までの距離が遠いことを悟ったジョージは、「森で野宿して、牧場には明日行こう」と告げた。彼が豆缶で夕食を済ませようとすると、レニーは「ケチャップ煮がいい」と言う。ジョージが「無い物を欲しがるな」と苛立つと、レニーは慌てて「味付けは何でもいいよ」と述べた。
ジョージは「お前のせいで、どんな仕事もクビだ。尻拭いは必ず俺だ」と声を荒らげるが、レニーが「どこかへ行くよ。アンタを1人にする」と立ち去ろうとすると呼び止めた。
ジョージは焚き火を起こし、「いつか俺たちは小さな家と土地を持ち、牛や豚や鶏を飼う」と語る。レニーが「ウサギの話をしてくれよ」と頼むと、彼は「広い野菜畑を作り、ウサギ小屋を建てるんだ」と言う。ジョージはレニーに、「何かトラブルがあったら、ここへ来て茂みに隠れろ。ウサギが欲しけりゃトラブルは避けろ」と指示した。
翌朝、牧場に到着した2人は、キャンディーという老人の案内で母屋へ向かう。昨夜の到着予定だったので、牧場主は怒っているとキャンディーは話す。牧場主は馬屋係のクルックスに当たり散らしていたが、いつも彼に怒りをぶつけるのだとキャンディーは語った。
牧場主はジョージから「バスの運転手に騙されて」と説明を受けると、「言い訳はいい」と冷淡に告げた。ジョージとレニーを宿舎へ案内したキャンディーは、スマイリーという老犬を可愛がっていた。
牧場主の息子で元ボクサーのカーリーはジョージたちの元へ来て高慢な態度を取り、レニーを威嚇した。カーリーが去った後、キャンディーは「彼は小柄だから大きいレニーをひがんでるんだ」と説明した。ジョージはレニーに、「彼はお前を殴るぞ。何とか避けろ」と警告した。
カーリーの妻が宿舎にやって来ると、レニーは彼女に見とれた。彼女が去った後、「美人だな」と漏らすレニーにジョージは「絶対に彼女を見るな。彼女には近付くな。ネズミの罠だ」と告げた。仕事に入ったジョージたちが休憩していると、穀物班の班長を務めるスリムが声を掛けて来た。
穀物班にはスリムの他に、ウィットやカールソンといった面々がいた。スリムの犬が4匹の子犬を生んだと知ったレニーは、ジョージに「子犬を貰ってくれ」と頼む。その日の作業が終わった後、ジョージはスリムと話を付けた。
ある日、ジョージはスリムから足の悪いラバを交代させるよう指示され、馬屋へ赴いた。するとカーリーの妻がいて、ジョージを誘惑するような素振りを見せた。そこへカーリーが現れ、ジョージを睨んで「何をしてた?」と凄む。ジョージが「自分の仕事さ」と答えると、彼は「この前、そんなことを言った奴は殴って牧場から放り出した」と言い放った。
夜、キャンディーが宿舎でスマイリーを可愛がっていると、カールソンが「その犬は病気で辛そうだ。それに臭い。俺が撃ち殺してやる。スリムから新しい子犬を貰え」と言う。キャンディーは嫌がるが、カールソンに「その匂いは我慢できん」と凄まれて仕方なくスマイリーを引き渡した。
ジョージはスリムから「頭の弱い男と利口者が組むとは奇妙なコンビだな」と言われ、「レニーの叔母を知ってた。彼は叔母に育てられた。叔母が死んだ後、俺と組んだ」と話す。
ジョージはレニーが何度も騒ぎを起こしていることを語り、「ウォードでは赤いドレスの女を見た。あいつは欲しい物に何でも触れたがる。ドレスに触って、女が悲鳴を上げて大騒ぎだ」と述べた。スリムは彼に、「あいつは悪い奴じゃない。見れば分かる」と告げた。
夜、カーリーが宿舎へ妻を捜しに来るが、スリムが納屋にいると聞いて出て行った。ジョージはレニーから「家の話をしてくれ」と頼まれ、詳しく語る。話を聞いていたキャンディーが「幾らで買える?」と質問すると、ジョージは「600ドルだ。地主が破産した」と答えた。
キャンディーが「ワシは左手が不自由になった時、250ドル貰った。50ドルの預金があるし、月末にはあと50ドル入る。仲間に入りたい」と持ち掛けると、ジョージは「ずっと2人でやって来た」と難色を示す。しかしキャンディーが「犬の最期を見ただろ。邪魔者扱いだ。ワシも撃たれりゃ楽だが、クビになって行き場所も無くなる」と言うと、ジョージは彼を仲間に加えることにした。
ジョージはレニーとキャンディーに、「3人だけの秘密だ」と計画を漏らさないよう釘を刺した。キャンディーはジョージに、「あの犬はワシが撃てば良かった。他人に撃たせたのは間違いだった」と告げる。
そこへスリムが戻り、追って来たカーリーに「ウンザリだ。女房に手を焼いて、俺にどうしろと?クビにしろ」と苛立ちをぶつけた。カーリーはレニーに八つ当たりし、何度も殴り付けた。ジョージは我慢できず、レニーに「やれ」と指示した。レニーはカーリーの左手を掴み、彼を怪力で捻じ伏せた。
レニーは感情とパワーを抑制できず、カーリーの左手を潰そうとする。ジョージは慌てて止めに入り、スリムたちも手伝った。スリムはカーリーに「アンタは機械に手を挟まれたんだ。本当のことを言ったらイジメをバラすぞ」と脅しを掛け、病院へ連れて行く。
ジョージはレニーの傷を手当てし、「傷付けたくなかった。トラブルは避けたかった」と泣く彼に「お前は悪くない」と告げた。翌日以降もカーリーの妻は、相変わらずジョージたちを誘惑する素振りを見せた。ジョージは冷淡に突き放し、徹底して距離を取った。
ある夜、仲間と町へ繰り出すことにしたジョージは、牧場に残ると決めたレニーに「面倒は起こすなよ」と忠告した。明かりを見つけたレニーは、クルックスの小屋に赴いた。クルックスは怒りの形相で、「ここには来るな。何の用だ」と声を荒らげた。
仲間が町へ出掛けたことをレニーが話すと、彼は「ジョージは殺されて戻らない。そしてお前はブタ箱行きだ。鎖で繋がれる」と言う。「変なこと言うな」とレニーが憤慨すると、クルックスは慌てて「ジョージは戻って来るよ」と告げた。
クルックスはレニーに、「お前はジョージがいていいよ。俺は誰もいない」と話す。そこへジョージが町から戻り、クルックスの小屋にいるレニーを見つける。レニーがクルックスと一緒にいることに、ジョージは眉をひそめた。
レニーとジョージが宿舎に戻ろうとすると、カーリーの妻がやって来た。レニーたちが関わり合いになることを避けて冷たい態度を取ると、彼女は「いつか私は町に行って、二度と戻らないわ。主人とも彼の父親とも牧童ともお別れよ」と喚き、泣きながら走り去った…。
監督はゲイリー・シニーズ、原作はジョン・スタインベック、脚本はホートン・フート、製作はラス・スミス&ゲイリー・シニーズ、製作総指揮はアラン・C・ブロンクィスト、撮影はケネス・マクミラン、美術はデヴィッド・グロップマン、編集はロバート・L・シニーズ、衣装はシェイ・カンリフ、音楽はマーク・アイシャム。
出演はジョン・マルコヴィッチ、ゲイリー・シニーズ、アレクシス・アークエット、シェリリン・フェン、ジョー・モートン、リチャード・リール、ケイシー・シーマツコ、ジョン・テリー、レイ・ウォルストン、ノーブル・ウィリンガム、ジョー・ダンジェリオ、タック・ミリガン、デヴィッド・スティーン、モイラ・ハリス、マーク・ブーン・ジュニア他。
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ジョン・スタインベックの同名小説を基にした作品。監督は『マイルズ・フロム・ホーム』のゲイリー・シニーズで、ジョージ役で出演もしている。脚本は『アラバマ物語』『バウンティフルへの旅』のホートン・フート。
レニーをジョン・マルコヴィッチ、ジョージをゲイリー・シニーズ、ウィットをアレクシス・アークエット、カーリーの妻をシェリリン・フェン、クルックスをジョー・モートン、カールソンをリチャード・リール、カーリーをケイシー・シーマツコが演じている。
レニー役がジョン・マルコヴィッチってのは、ミスキャストじゃないだろうか。ジョージとレニーって、「小柄で頭のキレる短気な男」と「大柄でオツムの弱い愚鈍な男」というコンビのはずだ。だけどゲイリー・シニーズとジョン・マルコヴィッチって、そんなに体格差があるようには見えない。
そもそもゲイリー・シニーズの身長が175cmなので、そんなに小柄ではない。おまけにジョン・マルコヴィッチは183cmなので、そりゃあ体格差がクッキリしていないのは当然だろう。もちろん演技力は重要だけど、この両名に関しては見た目の体格差ってのも重要なポイントのはずで。
冒頭、まず赤いドレスの女性(ちなみに演じているのはゲイニー・シニーズ夫人のモイラ・ハリス)が怯えた様子で逃走している姿が画面に写し出される。次にジョージとレニーが追っ手から逃げている様子が描かれる。
最初の女性がジョージたちから逃げているのか、あるいは同じ連中から逃げているのか、まるで無関係なのか、その辺りは全く分からない。そしてジョージとレニーが追っ手をやり過ごすと、女性の存在は完全に忘れ去られる。
時系列をシャッフルし、後で出てくるシーンを冒頭に配置して、ジョージたちの逃走シーンと重ね合わせるような演出でもしているのかと、そんな風にも推理してみた。成功しているとは言い難いが、そうとでも解釈しないと、女性の存在が意味不明なだけだからだ。
しかし、そうではなかった。ジョージがスリムにウィードでの騒ぎを語るシーンで、赤いドレスの女の正体が明らかになる。ただ、そこで意味は分かるけど、赤いドレスの女を登場させなくても全く支障は無いのよね。
ジョージとレニーは、表面的には「ジョージがレニーの面倒を見て苦労させられている」という保護者と被保護者の関係性だ。ジョージにとってレニーは厄介な存在であり、「お前がいなけりゃ、どんなに快適かと思うんだ」と口にする。しかし実際には、共依存の関係性と言っていいだろう。
ジョージはレニーに苛立ちを示したり怒鳴り付けたりするが、どんなにレニーが迷惑を掛けても、決して見捨てないで一緒にいる。それはジョージの優しさや使命感ではなく、面倒を見ることで負け犬人生や貧乏生活の言い訳にしているのだ。
スリムはジョージ&レニーに声を掛けた時、「2人組は滅多にいない。結局は互いを信用できないんだ」と告げる。この台詞はジョージとレニーの関係性を表す上で、大きな意味を持っている。レニーはバカだが純朴なので、ジョージを全面的に信用している。
ジョージは頭がキレるし精神的にも大人だが、だからこそレニーを全面的に信用することは出来ない。っていうか、今までに教えたことをレニーが忘れたせいで何度も裏切られて来たので、ジョージが不審を抱くのは当然のことだろう。それでも2人の関係が続くのは、レニーがジョージを一途に信じ続けているってことが大きい。
キャンディーはカールソンからスマイリーについて「その犬はリウマチで、生きてるだけでも辛そうだ。殺したらどうだ?」と言われた時、「ワシには出来ん。長年の友達だからな」と語る。この会話劇も、ジョージとレニーの関係に重なってくる。
スマイリーが病気だろうが何だろうが、そんなことは関係ない。キャンディーにとって重要なのは、ずっと一緒にいた友達ってことなのだ。だから病気になっても、そう簡単に見捨てることなど出来ない。
しかし後になって、キャンディーはジョージに「あの犬はワシが撃てば良かった。他人に撃たせたのは間違いだった」と言う。これを他の誰でもなく、ジョージに話すのだ。この台詞は、ジョージとレニーの関係を連想させるものだ。
レニーはオツムに問題があるが、もちろん見捨てるのは辛いし、離れるのは悲しい。しかし友人だからこそ、どうしても殺さなくてはいけなくなった時には、他人に任せず自分で手を下すべきってことだ。
ジョージはスリムからレニーとの関係を問われた時、「彼は頭が弱い。良くからかった。ある時、サクラメント川に大勢がいる前で、飛び込めと命じた。彼はカナヅチなのに飛び込んだ。溺れる前に助けたら、命令されたことも忘れて感謝された」と語る。
たぶん最初の頃は、ジョージがレニーをイジメの対象にしていたんだろう。しかし、あまりにもレニーが無邪気で純粋なので、ジョージの攻撃性が薄まって、「守ってやらねば」という思いに変化したのだと思われる。でも、それは純粋な優しさや慈愛の精神ではなく、弱者を保護することで高みに立ちたかった、自尊心を得たかったということなのかもしれない。
レニーは無垢な人間であり、悪意を持って行動することは一度も無い。終盤には犬を殺してしまうが、それも決して怒りや憎しみの感情を抑え切れなかったわけではない。彼は可愛がっていただけで、しかし力のコントロールが出来ずに殺してしまうのだ。その直後、カーリーの妻を殺してしまうのも、同じようなことだ。
しかし「無垢だから」「悪意が無いから」というだけで、その犯行を「仕方が無い」「許すべき」と思えるかというと、それは無い。特にカーリーの妻に関しては、「相手がニンゲンだから罪は重い」というだけでなく、彼女の不憫な境遇を考えると、ますます「レニー許すまじ」という気持ちになってしまう。
そんなレニーがリンチされることを阻止するため、ジョージは自らの手で射殺する。誰にも悪意の無い2つの殺人が連続し、最後に強烈な虚しさを残して映画は幕を閉じる。
(観賞日:2019年8月26日)