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『ニューオーリンズ・トライアル』:2003、アメリカ

 ニューオーリンズの証券会社に勤務するジェイコブ・ウッドは、妻のセレステと息子のヘンリーの3人で幸せに暮らしていた。
 ある日、出社したジェイコブは銃声と悲鳴を耳にする。リストラされた元社員のケヴィン・ペルティエが銃を持って乗り込んできたのだ。元社員の乱射によって次々に社員が殺され、ジェイコブも犠牲となった。11名を殺害した後、ペルティエはオフィスで自害した。

 2年後、ゲームソフト店に勤務するニック・イースターの元に、陪審員任命書が届いた。ジェイコブらが殺害された事件に関する裁判だ。セレステが、ペルティエが使用した銃の製造会社を訴えたのだ。
 セレステの弁護士を担当するウェンデル・ローアは、陪審コンサルタントのローレンス・グリーンから雇用を求められる。「銃を無くしたい」という言葉を聞き、ローアは彼を雇い入れた。

 一方、製造会社の社長のヘンリー・ジャンクルは、大物陪審コンサルタントのランキン・フィッチを雇った。彼はハイテク機器を揃えた施設を用意し、部下のラムたちに仕事をさせている。
 彼は張り込みをさせたり、囮の女を近付けるなどして陪審員候補者をチェックする。そうすることによって、裁判で勝つために利用できそうな陪審員を選別しているのだ。

 裁判を担当する弁護士はダーウッド・ケイブルという男だが、彼はフィッチの指示通りに動く操り人形でしかない。調査の結果、フィッチは元軍人のフランク・ヘレイラが陪審員長にふさわしい人物だと判断する。さらにフィッチは、個人データの詳細が不明なニックを注意すべき人物だと考え、陪審員から外すようケイブルに命じた。

 原告側と被告側の弁護士、それに陪審員候補の面々が裁判所に集められ、陪審員を決める作業が行われた。ローアとケイブルは候補者に質問し、裁判で不利になりそうな人物を切り捨てていく。
 ケイブルは、イヤホンでフィッチからの指示を受けている。事前にフィッチは部下を使い、スーパー店長のロニー・シェイヴァーが自分側に付くよう買収工作を行っている。

 陪審員選びが続く中、ハーマン・グライムズという盲目の男が現われた。障害者は陪審員を免除されるのだが、グライムズは拒んだ。両弁護士に異論が出なかったため、彼は陪審員に選ばれた。次に呼ばれたニックは、ハーキン判事に対して「賞金が懸かったネットゲームがやりたいので免除してほしい」と告げ、わざと怒りを買う。
 ハーキン判事は、ニックを陪審員に選ぶよう両弁護士に求めた。本来は切り捨てたかったフィッチだが、仕方なくニックを陪審員に選ぶようケイブルに指示した。

 陪審員として選ばれたのはニックの他に、ヘレイラ、グライムズ、シェイヴァー、ヴァネッサ・レンベック、ロリーン・デューク、ステラ・ヒューリック、エディー・ウィーズ、ミリー・デュプリー、リッキー・コールマン、シルヴィア・デシャソ、ジェリー・ヘルナンデスの11人だ。ニックが裁判所で声を掛けた少女のリディア・ディーツは、補欠の1人となった。
 裁判所を後にしたニックは、マーリーという女性と会い、陪審員に選ばれたことを喜び合った。2人は「1500万ドルはふんだくれる」と言い合い、肌を重ねた。

 裁判初日、ニックたちは陪審員室に集まり、陪審員長を選ぶことになった。ヘレイラが立候補するが、他にも数名が手を挙げた。ニックは「ふさわしい人物がいる」と告げ、グライムズを推薦する。他の面々が全て賛成したため、ヘレイラも仕方なく承諾した。
 裁判が開始される中、法廷にマーリーが現われ、警備担当者に「両方の弁護士に渡して」と封筒を託して去った。封筒の中には、「評決を売る。日当16ドルと安いランチでは買えない」と記されていた。

 マーリーは裁判所関係者に成り済ましてランチ業者に電話を掛け、配達の時間を遅らせる。ニックは陪審員室で昼食の到着が遅いことを口にし、判事に尋ねてくると行って外出した。
 ニックはレストランで食事をしているハーキンの元を訪れ、その店で陪審員がレストランで食事を取れるよう手配してもらった。この出来事により、ニックは他の陪審員からの評価を高めた。

 マーリーはローアとフィッチに電話を掛け、「陪審員はどちらにも傾く。自分に金を払えば好きなように評決を変えることが出来る」と告げた。ニックは陪審員室でのヘレイラとの言い合いの中、湾岸戦争で友人が亡くなったと口にする。
 ニックは友人のために何かしてあげたいと陪審員に持ち掛けた。他の面々はニックに同情し、開廷直前に全員で起立し、愛国心を皆で唱えた。

 裁判では、銃砲店の店主カイル・マーフィーが証人として呼ばれた。彼の店から大量の銃を購入したマイケル・キンゲイドという男が、非合法なルートでペルティエに転売したのだ。
 マーフィーの店は、ジャンクルの会社の系列店だ。ローアの質問により、マーフィーと妻がジャンクルの会社の計らいで海外旅行に招待されていたことが分かった。

 フィッチはニックが要注意人物だと考え、部下のドイルに彼の部屋を調べさせた。部屋に侵入してパソコンを調べていたドイルは、帰宅したニックに発見され、慌てて逃亡する。ニックは密かに防犯カメラを設置しており、顔は判別できないものの、ドイルが暴れて逃げ出す様子は捉えられていた。

 ニックは陪審員室でステラが密かに酒を飲んでいることに気付き、2日酔いの芝居をして話し掛ける。ステラが酒を勧めてきたので、ニックは誤って手が当たったように見せ掛け、彼女の酒瓶を落として監視官に発見させる。これにより、ステラは陪審員から外され、補欠だったリディアが新たに加わった。
 フィッチは陪審員の弱点を調べ上げ、そこを突いて味方に付けようとする。ニッキーの浮気、エディーのHIV感染、メアリーの夫の悪徳不動産事業が、その標的となった。

 フィッチはニックが重要なデータをパソコンからアイポッドに移していると知り、部下のドイルとジャノヴィッチに奪うよう命じた。ドイルとジャノヴィッチはニックの部屋に侵入してアイポッドを盗み出し、部屋に火を付けた。
 ニッキーは自殺を図り、ニックが救急車を呼んだ。ニックは自宅の放火を知り、フィッチのやり方に恐怖を覚え、マーリーに会って弱音を吐いた。ニックはドイルが逃げた時の映像をハーキン判事に提出し、残りの審理が済むまで陪審員を隔離してもらう。

 独自に調査を進めていたグリーンはローアに対し、ニックが評決を売り込んできたという確信を口にした。そして防犯カメラに映っていた男は、フィッチが探りに行かせたのだと告げた。
 マーリーはフィッチに会い、被告を勝たせる見返りに1千万ドルを要求する。フィッチは50万ドルの小切手で手を打つよう高圧的な態度を取るが、マーリーは相手にしなかった。続いて彼女は、ローアにも会った。ローアは金で評決を操作することに批判的だが、マーリーはセレステとヘンリーのために現実的になるよう説く。

 フィッチはドイルに指示を出し、ニックについて徹底的に調査させる。ドイルはニックが以前にデヴィッド・ランカスターという名で陪審員になり損ねていたことを突き止め、さらに調査を進める。そんな中で審理は続き、証人としてジャンクルが召喚された。
 ローアの執拗な尋問に、思わずジャンクルは暴言を吐いてしまった。そのままでは負けると確信したフィッチは、マーリーに連絡を取って1千万ドルを支払うと約束する。だが、その一方で彼は、手下を使ってマーリーを襲撃させる…。

 監督はゲイリー・フレダー、原作はジョン・グリシャム、脚本はブライアン・コッペルマン&デヴィッド・レヴィーン&リック・クリーヴランド&マシュー・チャップマン、製作はゲイリー・フレダー&クリストファー・マンキーウィッツ&アーノン・ミルチャン、製作総指揮はジェフリー・ダウナー、撮影はロバート・エルスウィット、編集はウィリアム・スタインカンプ&ジェフ・ウィリアムズ、美術はネルソン・コーテス、衣装はアビゲイル・マーレイ、音楽はクリストファー・ヤング。

 出演はジョン・キューザック、ジーン・ハックマン、ダスティン・ホフマン、レイチェル・ワイズ、ブルース・デイヴィソン、ブルース・マッギル、ジェレミー・ピヴェン、ニック・サーシー、スタンリー・アンダーソン、クリフ・カーティス、ネストール・セラノ、リーランド・オーサー、ジェニファー・ビールス、ジェリー・バマン、ジョアンナ・ゴーイング、ビル・ナン、ホアニータ・ジェニングス、マーガリート・モロー、ノーラ・ダン、ガイ・トーリー、ラスティ・シュウィマー他。

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 ジョン・グリシャムの小説『陪審評決』を基にした作品。ビデオタイトルは『ニューオーリンズ・トライアル/陪審評決』。
 劇場公開時の邦題だと何の映画か分かりにくいので、サブタイトルを付けたのは悪くない判断だと思う。
 「ニューオーリンズ・トライアル」と聞いて法廷サスペンスだと考える人は少ないだろう。むしろ、法廷サスペンスだと思わせたくなかったのかな。

 ニックをジョン・キューザック、フィッチをジーン・ハックマン、ローアをダスティン・ホフマン、マーリーをレイチェル・ワイズ、ケイブルをブルース・デイヴィソン、ハーキンをブルース・マッギル、グリーンをジェレミー・ピヴェン、ドイルをニック・サーシー、ジャンクルをスタンリー・アンダーソン、ヘレイラをクリフ・カーティス、ジャノヴィッチをネストール・セラノ、ラムをリーランド・オーサー、ヴァネッサをジェニファー・ビールス、グライムズをジェリー・バマンが演じている。
 他に、セレステをジョアンナ・ゴーイング、シェイヴァーをビル・ナン、ロリーンをホアニータ・ジェニングス、フィッチの秘書モンローをマーガリート・モロー、ステラをノーラ・ダン、エディーをガイ・トーリー、ミリーをラスティー・シュウィマーが演じている。
 またアンクレジットだが、ヘルナンデスをルイス・グズマン、ジェイコブをディラン・マクダーモットが演じている。

 ジーン・ハックマンとダスティン・ホフマンは、決して男前ではない。そのため、まだ若かった頃に所属していたカリフォルニアの劇団“パサディナ・プレイハウス”では、「最も将来の成功が無さそうな俳優」の投票でトップを争っていたそうだ。
 そんな2人だが、その投票結果を見事に覆してハリウッドの一流俳優となった。
 そんなハックマンとホフマン、もちろん多くの映画に出演しているのだが、なんと本作品が初共演となる。

 ジョン・グリシャムの原作だから、当然のことながら裁判モノだ。
 裁判モノといえば、通常は原告側と被告側の弁護士、あるいは検事が法廷で激しく言葉をぶつけ合ったり、証人への尋問から新たな事実を探り出したり、陪審員の心を掴むために巧みな弁舌を行ったりするという内容になることが多いと思う。
 だが、この映画では原告側と被告側の対決の構図を描きながらも、そこに軸は無い。陪審員の中に裁判を操作する人物を配置して、弁護士と陪審員の間に対決の構図を描いているのだ。

 原作では被告はタバコ会社だったが、タバコ会社の訴訟問題を扱った映画『インサイダー』が1999年に公開されてしまったため、銃器メーカーに変更されている。
 被告の扱う商品をタバコから銃に変更するだけでなく、ローアの性格設定も原作の「金目当ての醜悪な男」から「正義に燃える男」に変更したのは正解だろう。これによって、深作欣二監督みたいな「悪い奴らの醜い争い」ではなく、分かりやすい善玉と悪玉の戦いの構図になった。

 もちろん分かりやすい善悪の色分けがマイナスになる場合もあるが、この映画が銃に関する社会的メッセージを含んでいることを考えれば、分かりやすい対立にして正解だろう。
 そのことに伴って、ニックとマーリーが最初から単なる金目当ての裁判ゴロではなく正義の心を持っていることが見え見えになってしまうという弊害はあるものの、全体としてはプラスの方が大きいはずだ。
 もちろんジョン・グリシャムの原作も優れているんだろうけど、かなり大幅に内容は変更されているようだし、復讐劇にしたことも含め、脚本家の力は大きいと思う。

 メッセージ性のある社会派の内容でありながら、同時に娯楽精神に溢れた映画となっている。
 これがローアもフィッチと同じようにイヤな野郎だったり、評決がスッキリしない結果だったりすると、メッセージ色の強い社会派映画としては成立しただろうが、モヤモヤの残るイヤな後味となり、娯楽映画としての満足感は得られなかったことだろう。

 ジーン・ハックマンとダスティン・ホフマンは、「善悪に関わらず勝つためなら汚いことでも平気でやる悪徳ボス」と「理想主義者で良心的だが時に迷いや弱さも見せる男」というキャラを演じている。
 これは両人の俳優としてのイメージそのまんまという感じだが、結果的に2人の共演が売りになる映画となったわけだから、ここは捻らずストレートにしておいてOKだ。

 残念なのは、せっかくジーン・ハックマンとダスティン・ホフマンが遅れ馳せながらの初共演を果たしている記念すべき映画なのに、この2人の対決の構図は物語の軸ではなく、ニックとマーリーの動きに重点が置かれているということだ。
 最初からハックマンとホフマンの共演作として企画が立ち上がったわけではないので、まあ仕方が無いんだけどさ。

 ただ、企画としては「ハックマンとホフマンの共演」を売りにしたわけではなかったが、他の俳優の都合が付かずハックマンが出演することになった時に、彼とホフマンが共演することの意味の大きさを知り、トイレで2人が激しく口論するシーンを付け加えたゲイリー・フレダー監督の心意気は素晴らしい。
 マイケル・マンに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいね。

 プロフェッショナルではないマーリーが、海千山千の大物フィッチを敵に回しても、やたらと強くてタフで利口なんだが、演じているのがレイチェル・ワイズなので許す。
 その役回りが仮にジョン・キューザックだったら、「ふざけんなよ」と思うだろうけどね。そのジョン・キューザックは、ちゃんとフィッチの横暴な手口にビビッてくれているし。

(観賞日:2007年6月7日)

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