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歯の不安

 歯の健康でいうと、虫歯になりやすいタイプと、歯茎が弱りやすいタイプがいるように周囲を見ていると思うのですが、私は虫歯になりやすいタイプです。

 学生の頃を思い返すと、歯磨きは当然していましたが、一時期歯磨き粉を付けずに磨いていた記憶があります。今思うと何故そんなことをしていたのかよく分からないのですが、多分それを付ける作業すら面倒くさかったのでしょう。そんな状態だと磨くのもきっと適当で、結果はもう推して知るべしといった感じでした。

 歯医者さんが好きな人はあまりいないと思いますが、例に漏れず私も嫌いで、でも虫歯は痛いので仕方なく通院を繰り返していました。治療後は定期検診を進められるのですが、痛みは無くなったし用は済んだとばかりに、結局一度も行くことはありませんでした。

 虫歯になってはギリギリまで我慢して、我慢できなくなったら歯医者さんへ。明らかに不都合があるのに限界まで我慢するあの心境は何なのでしょうね。放っておいても勝手に治るはずがないのに。初期段階で治療すればもっと楽に終わると知っているのに。感情の七不思議のひとつです。

 そうして歯医者さんへ行くことをできるだけ避ける生活は、社会人になっても続きました。その頃はさすがに歯磨き粉を付けて磨いていましたが、それでも今と比べれば雑だったと思います。当然のように虫歯はでき、我慢に我慢を重ねて治療へ。そんなことを繰り返すうちに、1本、また1本と歯は失われていきました。

 このままではマズいとようやく気付いたのは、奥歯を複数本失い、部分入れ歯やインプラントの可能性が出てきた時です。
 詰め物やブリッジでは難しいかもしれないと言われ、そうした選択肢も考えるよう説明を受けた時、後悔の波がドドドと襲ってきたのです。

 そこで思いました。
 「なんでもっとしっかりケアしていなかったんだ」と。
 完全に自業自得です。

 ひとまずその部分は応急的にブリッジを入れてありますが、長く持つものでもないため、おそらく数年以内にいずれかの選択を迫られる日が来るでしょう。インプラントともなれば数十万円の出費は確実です。そうでなくても、今その部分では固いものは食べられません。怠けていたケアの代償は高くつくのだと身をもって実感しました。

 そんなことがあって、現在。
 今では定期的に検診を受けに行っています。前述の治療箇所の経過観察という意味合いもあるのですが、それ以上に、今後同じような轍を踏まないという思いが強いです。
 定期的に診てもらえば、何かあっても初期で発見できますし、すぐに治療してもらえます。放置して手遅れになってから治療するより断然楽です。当たり前の話です。そんな当たり前の話を、いい歳した大人になってようやく理解できたのです。

 そうして通い始めて数年になりますが、その間に意識も随分変わりました。歯間ブラシを使うようになりましたし、マウスウォッシュも日課になりました。食事後はキシリトールガムを噛んだり、歯磨き粉もフッ素が多く配合されているものを選んだり。

 また、通う理由が治療ではなくケアなので、”痛くて嫌なところ”というイメージから”エステのように自分を整えるところ”という認識に変わっていきました。美容のためにサービスを受けているような感覚です。口腔内を弄られるのはいつまで経っても慣れませんが、子どもの頃のような苦手意識は薄れました。

 それと、日常で感じた歯の疑問は検診時に相談して解決できるのが精神衛生上とても良いです。ネットの一般的な情報ではなく、自分の歯のことを一番よく分かってくれている先生の回答は安心できます。また、歯科衛生士さんのケアも歯の健康の維持に貢献していると実感しています。
 実際、定期健診に行くようになってから、一度も虫歯になっていません。

 今思えば、歯の健康というのも不安の種の一つではありました。ひとたび虫歯になってしまうと、日常生活が億劫になってしまいます。治療に行けばいいだけなんですが、人間なかなか合理的な判断ができない時もあります。そんな中”どうしよう”という不安の感情だけが膨らみ続けていくのはストレスでしかなかったです。

 ある意味で、定期健診に通い続けられているのは、そうした不安を払しょくしたい気持ちが勝った結果ともいえるかもしれません。何かあればすぐに発見して対処できる。健康診断と同じで、そうした安心を買っているのだと思います。

 現在経過観察中の部分については、もう仕方のないことと受け入れています。Xデーが来れば先生に相談して治療するだけ。やることが決まっているので、不安は感じていません。まぁ実際その日が来たら緊張はするでしょうが……。

 それよりも今は、他の歯の健康状態をできるだけ長く維持できるように、定期健診含めケアをし続けていきたいなと思っています。歳を取るにつれ、身体全体どこかしらガタは来ますが、どれにしても”あの時やっていればよかった”と思わなくて済むように、やれることはやっていきたいですね。

 ひいてはそれが、日常で感じる不安を一つでも減らすことに繋がると思っています。

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