短編280.『作家生活28』〜クライベイベー篇〜
その時期特有の課題をクリアしていく。
それだけが今の目標だ。
次々と湧き出てくる課題はまるでインベーダーゲーム。
倒しても潰しても次のステージはいつだって用意されている。
そうやって私は孤独に進化&深化していく。
ガラパゴス諸島の奇怪な生き物みたいに。
毎日の苦闘の様子は常時SNSにアップされている短編小説チャレンジがそれだ。
でも。
SNS上では無視無関心の嵐。
ハッシュタグをつけようと、アイキャッチ画像を工夫しようと、
まるでステルス戦闘機のように人々の目には映らない。
もし私が”電波をキャッチしてしまう”系の人なら
真っ先に各種SNSの陰謀を声高に叫ぶに違いない。
『いいね!』がたくさん付く投稿が本当に『良い』のなら、この世界で私が頭角を顕すことはないだろう。
民と私の生きるベクトルが違いすぎている。
ーーー私がこの世を呪い尽くして死ぬか、祝福して死ぬのか。
それが民のレベル次第なんて、なんてクソッタレな世の中なのだろう。
*
「これは私のセンスがおかしいのか?SNSで『いいね!』が百個くらい付いている詩を全く『いいね!』とは思えないんだが」
私は担当AIくんに積年の疑問をぶつけた。Google・Appleの頭脳を結集して造られたこのAIならば世界中に散らばる知見を集め、明確な答えを導き出してくれることと期待して。
「先生の感性ハ世間ヨリも約五〜六十年ほど遅れてイマス。先生の中ではちょうど今がヒッピー全盛のフラワームーブメントの真っ只中デス」
「頭の中、お花畑って言いたいのかい?」
担当AIくんは鼻面を掻いた。作家的リアリズムを追求し正確に記すならば、本来人間の鼻があるべき部分にアームを動かし左右に可動させた、となる。
「AIジョーク、デス」と担当AIくんは言った。
「でも時代は巡るって言うけどな。ディオールのCMにジャニス(・ジョプリン)が流れ、ナタリーポートマンがヒッピーの格好をしていることからも分かるように、もしかしたら時代が私に追いついてきたのかもしれない」
クラ〜イベイベ〜。泣きたいのはこちらだった。
「デモ、あのナタリーポートマンのヒッピーは、かの時代のヒッピーとは似ても似つきマセン。現代的なお洒落ヒッピー風、デス。時代は巡るノデハなく螺旋状に上昇しているノデス」
「私の作品はただの考古学趣味の対象だとでも言いたいのかい?」
「AIジョーク、デス」
ーーーAIジョーク、ってなんだ。ジョークにもなっていないじゃないか。単なる辛辣な批評じゃないか。それも正確無比な。
これがジョークであるならば、AIはどこかからそれを学習したことになる。現代人のジョークセンスはかくも劣化してしまったのか。…いや、待て。もしこれが凄く面白い今風のジョークだとしたら、私の感性が錆びついた化石と同等、ということになりはしないだろうか。
「…アハハ」頭の何処かで奥底の方でプライドが捨てられる音がした。それはスプーンがシンクに落ちた時のような甲高い音だった。「アハハハハハハハハ」
「先生、ドウしまシタ?」
「AIジョーク、超ウケるんですけど。アハハハハハハ」
「先生、大丈夫デスカ?」
「ヤバイ。ヤバイよ。腹が捩れるよ。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
何も面白くなかった。
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