短編180.『作家生活18』〜祝・フォロワー百人記念#ハッシュタグの意味よ…篇〜
「遂に…ついに……フォロワー数が百人を超えたぞ!」
長い年月だった。フォロワー数が四十数人だったあの頃から一体どれほどの月日が流れたことだろう。エロ垢にフォローされたり、何故かそのアカウントにすらリムられたり。そんなことの繰り返しでようやっと百人のフォロワー。
リング上で「エイドリアーン!」と叫ぶロッキーの気持ちが今ならよく分かる。
私も叫びたい。「ゆきえー!」と。
仲間由紀恵は私のTwitterを見てくれているだろうか。
*
私はTwitterに歴史を刻んだ。月面に降り立ったニール・アームストロングに倣って一句詠おう。
ーーーこれは人類にとっては小さな一歩だが、一人の人間にとっては偉大な飛躍である。
記憶しておいて欲しい。きっといつかこの言葉は記録に残る。私の名と共に。
*
百人のフォロワーを得て、気を良くした私は、朝に投稿した短編小説のインプレッション数を調べることにした。そして、スマホを床に落とした。画面のガラスが砕けて割れる音がした。あるいはそれは私の心が砕け散った音だったのかもしれない。
「何故、知恵を絞って的も絞って、おかげで文字数まで絞られて投稿したハッシュタグ付きの短編小説ツイートがインプレッション数”2”なんだ」
私の声はそのまま魂の絞り汁だった。
「適当に投稿した夕飯の写真はなんのハッシュタグも付けてないのに、インプレッション”100”を超えている」
これをそのままハードコアバンドに歌ってもらいたいくらいの絶叫。
「ハッシュタグの意味を教えてください!」
私は世界の中心で叫んでいた。ーーー助けてください!と。
「Facebookはリンク付き投稿が表示されにくいって聞きますやんなぁ」
先程から私の原稿をチェックしてくれていた担当くんが言った。赤ペンの音が激しかった。
「Facebookにはもう期待してない。シェアしてもらう以外に拡散機能が無いからね。たとえ100を超える『いいね!』がついたところで、自己満足以外の使い道が無い」
「センセ、Facebookの方には『いいね!』が結構、付くんやね。ええことやね」
「いや、Facebookもゼロ…」
私はお茶を飲んだ。担当くんは息を呑んだ。
「…今、問題なのはTwitterだ!私はTwitter社に問うている。”ハッシュタグ機能しておらん問題”をどうしてくれるのか!?と」
かつて「【いいね!】は『読んだよ』ということを投稿主に知らせる為に押してる」と言っている人がいた。もしそれが真実なら誰も私の短編小説など読んではいないことになる。
でも、それ以前の問題だった。
【インプレッションが低い=ほとんど表示されていない】
ということ。
インプレッションとはつまり、【ユーザーがTwitterでこのツイートを見た回数】だ。(なにせそう書いてある)
私の百人のフォロワーのタイムラインには一体何が表示されているのだろう。
*
芸能人の「おはようございます」に『いいね!』
犬猫写真に『いいね!』
誰かの愚痴や不満に『いいね!』
私の短編、スルー。
綺麗な景色に『いいね!』
可愛いあの子のきわどい写真に『いいね!』
下手な絵の漫画に『いいね!』
私の短編、スルー。
匂わせ写真に『いいね!』
あおり運転の動画に『いいね!』
あきらかなまでのステマの文章なのに『いいね!』
私の短編、スルー。
ビフォーアフターに『いいね!』
プレゼントの当たる広告に『いいね!』
お金配りおじさんに『いいね!』
私の短編、ことごとく、スルー
*
いくら短編小説を書いても報われない世界。若き才能は今日も芽を伸ばし、老木は日々老いさらばえる。
ーーーまだ世代交代に同意する訳にはいかない。
何せまだ何も成していない。この世界に一片の善すら積んではいなかった。
功成り妙を遂げるまでは、老木たりとも朽ち倒れる訳にはいかない。
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