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非正規は若年層だけの課題か。統計データより #非正規の力を生かす 方法を労働市場、働き方、企業の視点から考える

非正規の働き方は自由で、カッコイイとされた時代もあった。それは、バブル景気の頃であった。しかし、1990年代以降の失われた30年を経て、未だに停滞を続ける日本経済においては、非正規は悪であるという印象すら与えられるようになった。

日経COMEMOでは #非正規の力をどう生かす というテーマで意見募集をしていた。

本文では統計データから非正規労働者の現状等を確認した上で、非正規の力を活かす方法について考えてみることとしたい。

1. 正規・非正規労働者数の推移等について

ここでは正規・非正規労働者数の推移、地域別における正規・非正規労働者の割合などを可視化して確認してみることとする。まず、正規・非正規労働者数の推移を確認してみることとする。

 1.1 正規・非正規労働者数の推移

総務省の「労働力調査」より、2002年以降の正規・非正規労働者数の推移を可視化したグラフが下図である。

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グラフを確認すると、男性では、「正規」の数はほぼ横ばい傾向であるものの、「非正規」の数は増加傾向にある。一方、女性では、「正規」の数は2014年以降に微増の傾向にあり、また「非正規」は2002年以降増加を続けている。正規での女性の労働市場の参加が増加している要因としては、保育所の整備や企業の対応等により、女性の留保賃金が下がった可能性も考えられる。一般に男性の就業率の方が高くなっている理由は、消費の余暇に対する限界代替率が、女性よりも男性が低いことなども挙げられる。

 1.2 地域別の正規・非正規労働者の割合

続いて、地域別に正規・非正規労働者の割合を可視化したものが下図である。

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非正規の問題は若年層の問題であるとの印象もあるが、男性では「55-64歳」、「65歳以上」の割合が高く、女性では「35-44歳」、「45-54歳」、「55-64歳以上」の割合が高くなっている。一般的な印象では、非正規は若年層の問題であると捉えられがちであるが、グラフからは中高年齢層を生かすことも非正規の課題であると考えられる。

 1.3 正社員等と非正社員等のきまって支給する現金給与額の差

ここでは、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」より、正社員等と非正社員等のきまって支給する現金給与額(以下、「きまって支給する現金給与額」を給与額という。)の差を確認してみることとする。正社員等と非正社員等の給与額の差を可視化したものが、下図である。

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正社員等と非正社員等の給与額の差は、男性と女性の間で同様の傾向がある。若年層では正社員等と非正社員等の間の給与額の差はそれほど大きくはない。しかし、年齢とともに給与額の差は拡大し、60歳以降では給与額の差は縮小する傾向にある。また男性は、女性と比較して、35歳以降の給与額の差の拡大が大きい。このことから分かることは、男性はいかに社内での出世競争に勝つか、あるいは脱落しないか。正社員労働者のサイロ化も予想される。また、若年層はいかに正社員労働者の地位を獲得するかが、現在では重要になっていることも考えられる。さらに、女性はいったん労働市場から退出すると、再び正社員の地位を獲得することが難しいこともあるかもしれない。

2. 非正規の力を生かす方法を考える

上記で確認してきたように、非正規の問題は若年層だけではなく、中高年齢層の課題であることもわかった。それでは、非正規の力を生かすためにはどのような方法が考えられるか。ここでは、労働市場、今後予想される経済での働き方、企業の三つの視点から、検討を行うこととする。

 2.1 労働市場の視点から

労働市場には世代効果がある。労働市場の世代効果とは、「年齢、性別、学歴が同一な世代の賃金や離職などの就業状況が、学校卒業時点での労働市場需給と世代人口の規模により持続的影響を受けること」を意味する。たとえば就職氷河期世代のように、卒業時点の失業率の上昇により、卒業直後だけでなくその後も長年引き続き、非正規雇用や無業の確率が高まることなどもある。また現在の労働市場では、いったん労働市場から退出すると、以前と同様の職に就くことなどは難しい。

したがって、非正規の力を生かすためには、正規、非正規に関わらず労働者を評価するシステムの構築が求められる。さらに、労働市場の評価機能の脆弱性を克服することは非正規労働者の力を生かすだけでなく、世代効果により不本意な職に就くことになった者に対して、再チャレンジの機会を与えることにもつながると考える。また、いったん労働市場から退出した女性等が、職に再び就くことを以前より容易にすることになると考えられる。

 2.2 今後予想される経済での働き方の視点から

戦後の日本で一般化したものに、年功制、終身雇用がある。年功制や終身雇用は変化が遅く、経験によって変化を乗り越えられた時代には適していたかもしれない。たとえば、働き方では職能制があてはまるだろう。年齢とともになめらかに能力が向上するイメージだ。しかし、データの世紀とも呼ばれ、変化が速く、経験だけでなく科学的な手法により働くことが要求されるこれからは、職能的な働き方と職務的な働き方が併存していくことも予想される。プロジェクト型の働き方になる正規労働者と非正規労働者も増えていくだろう。このようなプロジェクト型の働き方では、正規と非正規の区別というものは無くなっていくのかもしれない。2.1で述べた労働者を評価するシステムの構築は、シェアリングエコノミーにおける労働者と仕事のマッチング機能によって、情報の非対称性を解消する可能性も考えられる。

 2.3 企業の視点から

ジェイ B.バーニー氏は企業の強み、弱みを分析するモデルとしてリソース・ベースト・ビュー(RBV)を提唱した。RBVでは、企業ごとに経営資源は異なるが、その経営資源には財務資本、物的資本、人的資本、組織資本があるとされる。そして、経営資源が企業の競争力につながる。

昨今はESG(環境・社会・ガバナンス)も叫ばれている。企業価値の向上にとって、ROIC(投下資本利益率)も重要である。ESGでは社会(S)のファクターが非正規の力を生かすことに当たるだろう。社会(S)のファクターは、ROICを向上させるレバーになる。RBVでは人的資本がそれに当たる。企業は正規だけでなく、非正規の人的資本を向上させることも、企業の中長期的な成長にとって重要になる。非正規労働者に対する教育訓練の充実等も課題だろう。

現在は「個の時代」とも言われる。しかし「個の時代」であっても「個とチームのオーケストラ」が強い組織につながる。企業は非正規労働者に対する新しい視点を持つ必要があるだろう。

3. おわりに

現在発生しているCOVID-19における対応では、女性のリーダーシップが注目されている。これからは、正規、非正規に対する新しい見方も必要である。人、企業、国の繁栄と持続的成長にとっては、多様性や美しい調和も重要だろう。私たちの行動は合理的ではないかもしれないが、しかし個々の行動が積み重なった社会はそれなりに進んでいることが多い。

私たちは固定化されたものの見方、考え方をするのではなく、新しいものの見方を身につけることで、きっと非正規の力を生かすこともできるようになるのかもしれない。



【参考文献】
総務省「労働力調査」
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
太田聰一、玄田有史、近藤絢子(2007)「溶けない氷河-世代効果の展望」『日本労働研究雑誌』2007年12月号
川口大司(2017)『労働経済学:理論と実証をつなぐ』有斐閣
ジェイ B.バーニー(2003)『企業戦略論【競争優位の構築と持続】』岡田正大訳、ダイヤモンド社
市村英彦、岡崎哲二、佐藤泰裕、松井彰彦(2020)『経済学を味わう』日本評論社

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