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シェアハウスで教えてもらった紫玉ねぎレシピとの再会

世の中のレシピには2種類ある。私に寄り添ってくれるレシピと、私が寄り添いに行くレシピだ。
私に寄り添ってくれるレシピとは、いわゆる簡単時短でお財布に優しいレシピ。例えば、炒飯とか鍋とか野菜炒めとか生姜焼きとか、冷蔵庫にいつでもあるような食材ですぐできる、私の右腕とも言っていい定番レシピ達だ。私がどんなに仕事で疲れていても、これらのレシピなら何も考えずにすぐできて、疲れた身体に栄養を補給し、夕飯にも翌日のお弁当としても活躍してくれる。これらのレシピで料理しているときの主役はあくまで私だ。私が楽をするため、私が栄養を取るために、冷蔵庫の中のじゃがいもやら玉ねぎやらのレギュラー食材達が、いつも通りの手順でさっと料理らしき形になってくれる。

一方、私が寄り添いに行くレシピとは、普段私の冷蔵庫にいない、いわばゲスト食材をもてなし、引き立たせるためのレシピだ。例えばちょっと高いステーキ肉。これは普段私の冷蔵庫にいない。だから、何かの記念日にステーキ肉をお迎えすると、私は普段作ることのないマッシュポテトやらにんじんのグラッセを慣れない手つきで丁寧に作る。主役はステーキ肉様だ。私はあくまで脇役として、きめ細やかなサポートを買って出る。
それから、例えば貰いもののお野菜。先日、知人からいただいた菜の花や芽キャベツなどは、春を堪能できる採れたて新鮮なお野菜達だった。だから、私はそれらを一番美味しくいただくためのレシピを、クックパッドから探しに探しまくった。そして、菜の花を引き立たせるために、わざわざ普段買わないアサリなんかも買ってきて、下処理から丁寧に行い、素晴らしいアーリオオーリオパスタを作り上げた。

なんでこんな話をしているのかというと、我が家に大量の紫玉ねぎがやってきたのだ。実家の母がくれたものである。私は普段紫玉ねぎを買わない。なぜなら、紫玉ねぎはお洒落なイメージがあって、サラダとかにしか使えなさそうなので、私の常備軍ではないからだ。だから、調理の仕方も知らない。しかし、母がくれたのは畑から採れたてのほやほや紫玉ねぎである。こんなにたくさんあったら、使い切る前に腐ってしまうのではないかという懸念は母が解消してくれた。紫玉ねぎは紐にくくりつけてそのままベランダで干しておけば、なんと今から秋くらいまで持つらしい。そう言って、母は持参した紫玉ねぎをそのまま我が家のベランダの物干し竿に吊るした。我が家は都心のマンションの1階である。そのベランダに突如現れた紫玉ねぎの塊は異様な存在感を放っていた。

さて、紫玉ねぎをどう調理するかと悩んでいて、思い出したのがスウェーデン留学時代のシェアハウスでの生活である。ヨーロッパ人のハウスメイト達が暮らしていたそのシェアハウスでは、むしろ紫玉ねぎは常備軍だった。サラダやパスタ、ありとあらゆる日常にレシピに紫玉ねぎは脇役として、楚々として佇んでいた。
美味しかったサラダやパスタのレシピはもちろんハウスメイトに教えてもらっている。日本に帰国してからの私は、紫玉ねぎとこんなにも縁遠くなってしまって、この先せっかく教えてもらった紫玉ねぎのレシピを使うことは二度とないかもしれないとさえ思っていた。しかし、ここにきてまた紫玉ねぎと巡り会えたのだ。このチャンスを逃さない手はない。こうして私は週末、旬の紫玉ねぎを最大限に活かすべく、アボカドサラダとエビのトマトパスタを作った。

サラダのレシピはオーストリアから来ていたハウスメイトに教わったものである。彼女はサラダが大好きでよくボールに大量のサラダを作って、そのまま食べていた。アボカドサラダはアボカド、紫玉ねぎの他にトマトとひよこ豆を加えて、オリーブオイルやレモン、塩胡椒で味付けをしたシンプルなレシピだ。アボカドの量を増やしてペースト状に潰せば、パンのお供に最高なアボカドペーストにもなる。彼女はパンを焼くのも好きで、よくパンに乗っけて食べていた。

アボカドサラダ

エビのパスタはオランダから来ていた子に教わった。シェアハウスに住み始めてまもない頃、みんなで料理を作って一緒に食べる晩餐会をしていた。その時に作ってくれたパスタだ。ニンニクをじわじわと温めたところにみじん切りにした紫玉ねぎとエビを加えて炒める。トマトとトマトペーストも加えて煮込んだら、パスタを和えて粉チーズ、レモン、ケッパーを添えて、完成だ。

エビのトマトパスタ

出来上がりはなかなか。そうそうこの味。すっかり忘れていた。そのことに自分で驚き、ちょっぴり寂しかった。楽しかった留学時代はいつのまにか一昔前の記憶になろうとしている。せっかくハウスメイト達に教えてもらったレシピも、自分で再現しないと思い出の味が風化してしまう。彼女達に教えてもらったレシピはまだまだ本当にたくさんあるのだ。これから少しずつ再現していきたい、と心に誓った週末だった。