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シンクロニCity 〜絶不町の訪問者〜

絶不町の訪問者

絶不町。
何をやっても上手くいかないこの町には、いつでも住民たちの諦めや疲れが漂っていた。

海沿いの町、絶不町

何回告白してもフラれる失恋続きのミチコ。全敗記録更新中の草サッカーチームドリフターズ。魚が全く釣れない漁師のヒロシ。何度挑戦しても逆上がりができない小学生のマミ。そして失敗続きの発明家で最近離婚したロイド。―そんなふうにして誰もが報われない毎日を過ごしていた。

発明家ロイド

ある日のこと、ロイドの研究所に不思議な風貌の少年が現れた。彼はウェットスーツのような衣類を身にまとい、光を放つ小さな球体を手にしながら、冷ややかな目でロイドの発明品の山を見回した。そして、深いため息をつきながらこう言い放った。
「ふん、こんな発展途上の星に派遣されるとはね。まったく、僕の才能を無駄遣いさせて、宇宙統計局もひどいよ」

統計エージェント α

その少年の名はα。彼は自らを遠い宇宙から来た統計エージェントだと名乗った。同一宇宙内で発生する偶然性や確率の偏りを調整する役目を負っており、球体型の装置を片手で弄びながら話を続けた。

確率調整装置とフットボール関数

「とにかく、この装置は“確率調整装置”だ。これを使えば、お前たちの町に渦巻く悪運の偏りは修正できるだろう。あぁ、さっさと調整して帰りたいよ。僕にはもっと重要な任務が似合っているっていうのに」
ロイドは驚きつつも、αの話にすがる思いで耳を傾けた。
「それはつまり、その装置を使えば、今僕らに起こっている不運も取り除けるということかな?」
「どうかな。これは、シンクロニシティ(共時性)を増幅させる装置さ。どんな不運を取り除くにも、まずは突破口となる幸運が必要となる。」
「突破口となる、幸運….。」
この町に幸運なことなど起きるだろうかと頭を抱えてしまったロイドに、αは仕方なさそうにドリフターズのサッカー試合で装置を使うことを提案する。

「サッカーの試合に勝てば、町の不運の偏りがリセットされる可能性が高い。」
「本当かい?」ロイドは驚いて聞き返した。
「フットボール関数という宇宙統計学の方程式によればね。」

サッカーボールに願いを込めて

ロイドは、半信半疑ながらも、この奇跡のような話にかけてみることに決め、町の住民たちにこの計画を伝えた。皆、最初は戸惑ったが、絶不町の現状にもう耐えられないと思っていた彼らは、藁をもすがる思いでドリフターズを応援することにした。

町全体が一丸となり、チームは徹底的に練習を重ねる。ミチコも、ヒロシも、マミも、それぞれの悩みを抱えながら、ドリフターズのために尽力する。ロイドは発明家としての知識を活かし、最新のトレーニング装置を作り上げ、チームの力を強化した。

そして、ついにその日がやって来た。絶不町ドリフターズ対絶好町ヒーローズの試合が開始された。絶不町の住民たちは、これまでにない熱い声援を送る。試合は激戦となり、ヒーローズの圧倒的な力の前に追い詰められるドリフターズ。しかし、試合が終盤に差し掛かったその時、サッカーボールに内蔵されていたαの確率調整装置が輝き始めた。
客席で声援を送っていたαは不意に空を見上げた。そこには大小様々な鳥が飛び交っていた。普段見ることもないような、色鮮やかな羽を持った鳥も混じっている。

「よし、いいぞ。シンクロニシティの予兆だ!」αはそういうと小さくガッツポーズをした。
残り時間わずか、チームは最後のチャンスを掴む。ゴール前での絶妙なパス回しから、ドリフターズのエースがシュートを放つ!ボールは綺麗な弧を描き、ヒーローズのゴールネットに突き刺さった。試合終了のホイッスルが鳴り響き、ドリフターズは奇跡的な勝利を手にした。

その瞬間、町の空気が一変する。

ミチコが最近告白した相手から急遽電話がかかってきて、ついに初めての彼氏が出来た。

漁に出ていたヒロシの網には、これまでに見たこともないほどの大漁の魚が次々と跳ね上がった。

マミはスタジアム客席の手すりで逆上がりに成功し、みんなに祝福される。
絶不町の住民が幸せに包まれる中、ロイドは歓喜の輪から外れ、研究所に帰ることにした。
「みんなが幸せなら、それで僕も幸せさ」少し寂しそうにロイドが研究所のドアを開ける。するとそこには、離婚した妻が帰ってきていた。ロイドにも幸運が訪れたのだった。

幸か不幸か

αは自信満々に胸を張り、母星に報告を送った。「ミッション完了、確率の偏りは解消した。早く帰還の指示を出してくれ」
だが、返答は予想外のものだった。母星の上層部からのメッセージには、こう書かれていた。
「確率の偏りは一時的に解消されたが、偏りが生じた原因は未だ解明されていない。このまま現地に滞在し、原因を究明すること。任務完了はそれまでお預けだ」

αはショックと驚きで顔を真っ赤にした。
「えぇ!?なんで僕がこんな田舎で…まだ調査を続ける必要があるんだよ!みんなを幸福にしたと思ったら、自分が不幸になるなんて…」
ロイドはそんな彼の姿に微笑み、肩を軽く叩いた。「まあまあ、そんなに落ち込むなって。みんなも喜ぶと思うよ。なんたって君はこの町の福の神なんだから!」
ブツブツと不満をもらしながらも、結局αは絶不町に滞在することを決め、ロイドに協力してもらいながら調査を続けることになった。
膨れっ面の宇宙少年αと、冴えない発明家ロイドの奇妙なバディが、絶不町に新たなシンクロニシティを巻き起こそうとしていた。

後編〜絶不町の夜明け〜に続く


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