対話と僕⑭:「答え」との向き合い方
・はじめに
この一年、数えてみたら1対1の対話を約80回、複数人での対話は約20回実践できた。
1対1の対話については殆どが普段関わりのない人との対話だったので、自分と違う環境での経験に触れることができた。
経験だけではなく、価値観や思考の傾向の違いも感じることができた。
今回はこうした体験を通じて感じたことを書いてみたいと思う。
・対話を通じて芽生えた感覚
以前『対話と僕④:対話に期待すること』の回で書いた3つの項目がベースになるのだが、まさしくこれをこの一年で強く実感することができている。
「聞く」「聞かれる」という体験を通じて形成される関係性は確実に存在していて、それは普段の関係性では得られない体験をもたらしてくれる。
社内の上司・先輩・後輩・同僚、社外の友人、家族、友人、どれとも違う関係性だからこそできる対話があるんじゃないかと思う。
この辺りは実際に対話した人からも感想として出てきている。
批判という感覚は何度か対話を重ねた人とこそ共有できている感覚がある。
前述の関係性が築かれたうえで「この人の批判なら受け入れられる」という感覚や「この人になら批判を伝えた方が良い」という感覚が芽生えるんじゃないかと思う。
それによって得られるモノを体感できているからこそできることなのかもしれない。
一番実感したところは、「二項対立に陥らない思考」というモノである。
多くの「違い」に触れることで「唯一絶対の答え」や「正解」と言ったものがかくも曖昧であることが実感できた。
また一方で「みんな違ってみんないい」といった極端な相対主義的な姿勢も危険であるという感覚を持った。
この辺りを少し詳しく書いていきたいと思う。
・『二項対立に陥らない思考』の詳細
変化が激しいVUCAの時代と言われている現代において、その時その瞬間の選択肢がいつまで有効かは全く分からない。
それでもなお私たちは永続的な「答え」をすぐに欲しがってしまう。
変化が激しいゆえに「答え」があるという安心感を得たいというのがその理由かもしれない。
誰にでも「平穏」を求める習性はあると思っていて、それは「答え」が見つかった時に得られるのだと思う。
また、「答え」をより強化する為に選ばれなかった選択肢を「間違い」として認識してしまう。
ただ苦労して得た「答え」が変化によって通用しなくなることはよくある話であり、「間違い」とされてしまった選択肢が「答え」になることだってあり得るのだ。
これは誰もが一度は経験していると思われる。
そんな状況の中でどうやって「安心感」が得られない状況を乗り越えれば良いのだろうか。
僕が対話を通じて見つけた一つの選択肢が「違い」に触れることである。
そしてその「違い」と向き合っていくマインドセットを身に付けることだ。
それによって環境、集団、個人、全てにおいて「違い」が存在していると認識できるようになる。
しかもそれは場合によって重なったり繰り返されたりする。
そんな中で出した一つの「答え」すらも「変化」していくのである。
それであれば最初から状況に合わせて自発的に「答え」を「変化」させていくという思考になれば「違い」との向き合い方が変わってくる。
議論を尽くすことを放棄するという意味ではなく、ポジティブな意味でもあきらめの境地という感覚で「これ以上議論してもその間に環境が変わってしまうかもしれないので一先ずこれにしよう。」という思考になれば今までと違った「安心感」が得られるのではないかと思う。
・『二項対立に陥らない思考』の根幹を成すモノ
前述のような「答え」と向き合う姿勢の根幹を成すモノが何なのか、もう少し整理して書いてみようと思う。
加えて今まで書いてきたような『対話で得られるモノ』や『対話に期待すること』に書いた内容にも通ずるものがあると思われる。
それは自分の経験からも実感できる。
それらに共通しているポイントは「違いの価値を感じられている」という事ではないだろうか。
だからこそ「批判を受け入れられる」「初対面でも対話を通じて関係性を築ける」「生煮えの状態に慣れる」「二項対立に陥らない」などの状態が生まれるように思える。
例え複数の選択肢から一つを選ばなくてはいけない状態であっても選択したもの以外を否定しない。
一つの決定は「あくまでその時その瞬間に選択したものである」ことや、「選ばなかったものが選ばれたものを強化している」ことを認識している。
だからこそ「違い」を「正否」や「序列」ではなくそれ自体を受け入れてから判断することができる。
これが「対話」で身に付けられる「答えとの向き合い方」なんじゃないかと思う。
そしてそれを身に付ける為には質と量の両面において「違い」に触れる機会が必要になると考える。
以前から述べている通りこうしたスキルやマインドセットを身に付ける為のツールとして「対話」は十分に機能する。
また、この辺りは自己受容に繋がる感覚を掴みかけているので更に実践を積んでからまとめてみようと思う。
・書籍紹介
ありがたいことに数多くの人と数多くの「対話」を実施することができた。
今まで述べてきたように「関係性と対話に順序はない」「どちらも先に発生するパターンがあり得る」というのが僕のスタンスだ。
今回はそういった視点でエイミー・C・エドモンドソン著の『恐れのない組織-「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす-』を紹介したいと思う。
今や多くの人が聞いたことのある「心理的安全性」という概念の提唱者である著者が学術的な知見と様々な事例を組み合わせながら実践の示唆をまとめてくれている。
『組織の関係性が良い=心理的安全性が高い』と理解している方には是非読んで欲しいと思う。
量質共に集団知を高めていく事が求められる中で心理的安全性の役割は重要だと改めて感じられる。
心理的安全性に万能性は無く、あくまで学習や変革を促す為の要素の一つに過ぎないという意味合いを文面から読み取れたのがとても好印象な書籍だ。
毎回のようにまとめてから書いた方が良いのではないかと思ってはいるものの、「対話」と同様に生煮えの意見や考えに触れることで得られる新しい視点がある。
なので、自分から表出した言葉であっても、書いてみて後で読み返すと妙な繋がりや新しい発見に出会う事がある。
自身の稚拙な文章を読み返すのはかなりの胆力を要するが、なんとか耐え忍びながらもう少し続けていきたいと思う。
引き続きお付き合い頂けるとありがたい。
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